うちの段ボールの中の猫
うちの庭にハクビシンらしき動物が現れるようになった。
庭に出没すること自体は別にいいのだけれど、うちの猫がかみつかれたりしたら、と考えると気が気でならない。
なので倉庫の下に勝手に作っていた巣穴を埋めて、何度かパトロールをした。
そうするうちに、ハクビシンらしき動物は現れなくなったのだった。
***
「もうひと安心でしょうねー」
庭を眺めて僕はうなずいていた。
ハクビシンらしき動物の姿はない。
姿を見なくなって、一週間以上経つ。
これでもう、うちの猫が襲われる可能性はほとんどなくなったと言えるだろう。
当のうちの猫はというと、穴あきクッションの穴に肩をうずめるようにして、斜めになりつつ僕を眺めていた。
ときおりあくびなどもしている。
「フウーン……」
「なんというか、危機感がないですよね……。まあ心配しすぎなのかもしれませんけど。でもその恰好は、さすがに猫っぽくはないですねえ……」
斜めに寝そべり、顔だけあげて僕を見つめているうちの猫の姿は、まさにお嬢様という感じだ。
足をぴんと伸ばして長くなっている。
お嬢様の休日だ。
そういう絵画がありそうな構図だ。
「うふふ、触ってもいいですかー?」
僕が鼻に指を近づけると、「フンッ」という感じで顔をそむける。
「えー、頑張って庭の安全を守ったんだから、ちょっとくらいいいじゃないですかー」
「ウウーン……」
うちの猫はうっとおしそうに首を振る。
そして寝そべったまま、穴あきクッションの穴の部分に無理矢理顔を潜り込ませる。
とりあえず顔だけは隠した状態だ。
身体は隠れていない。
足の先をぴんと伸ばしたままだ。
「うまく隠れたと……そういうふうには思ってないでしょうが、身体は全然隠れてませんよ! そーれ!」
ツンツンとお腹を突くと、うちの猫はクッションの穴にもぐりこんだまま、悲しそうに「フウーン……」と鳴くのだった。
***
「こっちの子はあいかわらず抵抗しませんね……」
洗面所のマットの上に寝転んでいるシマシマシッポを見つけて、僕はしゃがみ込んでいた。
お腹を触っても、「ブウ……」と鳴くだけで、ほとんど反応はない。
「ふふふ、これをこうして……」
と僕は最近お気に入りの行動をする。
寝ているシマシマシッポの顔を持ち上げて、僕の腕をその下に滑り込ませる。
そして、静かに撫でていると、だんだんとシマシマシッポの力が抜けて行って、僕の腕を枕にして眠り始めるのだ。
少しずつ、じんわりとシマシマシッポの力が抜けていく。
「この重みがいいですねえ……」
腕に加わるシマシマシッポ体重は程よい重さで、なによりこんなにリラックスしていることに嬉しくなってしまう。
「問題は、こんなに眠っちゃうと、しばらく動くわけにはいかないってことですよね……」
ということで、しばらく添い寝をしながらスマホを眺めるのだった。
***
「おわー!」
「ギャー!」
階段の手すりをつかもうとして、その手すりに寝ていたうちの猫に威嚇された。
「なんで……そんなにバランスの悪いところに寝ているんですか。ワナですか……」
「ウアーオ、ウウー」
「もう、ごめんなさい……」
季節が変わったことと関係しているのか、うちの猫たちのお気に入りスポットが変化している。
うちの猫は穴あきクッションから階段の手すり、僕の部屋の机。
シマシマシッポは玄関マットから洗面所のマット。
「シマシマちゃんはマットが好きなんですよね……。あれ、今日はいないですね?」
顔を洗おうとして、シマシマシッポがいないことに気づく。
いつもなら、顔を洗う時間は必ず洗面所のマットの上に寝ているのだ。
ものすごく邪魔なのだが、シッポを踏まれても気にせず寝ているので、もういいやと放置していた。
「また移動したんでしょうか? どこでしょう?」
と何気なく見まわすと、見つけてしまった。
ちょうど処分しようと思っていた段ボールの中に入り込んでいる。
「あっ、こんなところにいた!」
声を聴いて、シマシマシッポがちらっと横目で僕を見て、すぐに目を閉じて眠る。
「これ捨てる段ボールなんです。もうボロくなってるでしょ」
汚れて、ちょっとへにゃっとなってしまったダンボールの箱だ。
「うーん……。この中に入るのはやめましょう。なんか捨てるみたいで嫌です。気づかずにまとめてゴミに出しちゃったときが怖いですし。段ボールが好きなら新しいのを用意しますから。ね?」
そう僕が言って引きずり出そうとしても、段ボールが気に入ったシマシマシッポは、眠ったふりをしてなかなか出てこない。
「お、重い……。この重さは心地よいとかそういうのじゃなくて、ただ重いだけです」
シマシマシッポを無理矢理抱えると、僕の腕の中でグネグネする。
「ちょっと! 持ちづらいです!」
そしてよろめきながら、洗面所のマットの上にリリースすると、シマシマシッポはあくびをひとつして、また眠り始めるのだった。




