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うちの猫式マッサージ

「あー! またやってるんですか? やめてほしいんですけど……」


 と開いていた本を閉じる。

 手を伸ばしてうちの猫を突くが、こちらを見ようともしない。


「ちょっと、聞いてるんですか?」


 身体を移動させようとしても、ググッと踏ん張って抵抗する。

 そのわりに、怒るわけでもなく、のどを鳴らしてご機嫌な様子。

 僕のことなど全く眼中にない。

 目の前のものに夢中だ。


 うちの猫が何に夢中になっているのか。

 それはコンビニの袋だ。


 のどを鳴らし、目を細めて、優しく袋を舐めている。


「ねえ、それやめてほしいんですよ……。うっかり飲み込んじゃったら危ないし……」


 僕の懸命の説得も、全く効果がないのだった。


***


 うちの猫は以前から袋が好きな様子があったのだが、最近特に、コンビニの袋が好きになったようだ。

 僕の部屋に入ってくると、すぐにコンビニの袋へ向かう。


 飲み込んでしまわないかという不安はあったものの、観察していると、うちの猫はにおいを嗅いだり、優しく舐めるだけで、袋にかみつくことはない。

 口の中に入れているのも見たこともない。

 飲み込むことはなさそうだ、というのが僕の判断だ。


 ――それにしてもどうしてコンビニの袋を舐めるのか……。何か意味があるんでしょうか?


 と検索してみると、ビニール製品を気に入る猫は案外多いらしい。

 舌触りがほかのものとは違うという説が紹介されていた。


 ――まあたしかにビニールみたいな触り心地のものはなかなかないかもしれませんけど……。


 飲み込まないように注意! ということもやはり書かれていた。

 そして、ストレスが溜まってこうした行動をすることもあるとも書かれていた。


 ――ストレス……うちの猫が……?


 と僕は首をひねるのだった。


***


 ストレスとは無縁そうなうちのお嬢様とは対照的なのが、シマシマシッポだ。


 ――こっちは明らかにストレスを抱えていそうな境遇なんですよね。


 家の中ではうちの猫に叩かれるし、家の外ではよその猫とのケンカに負ける。

 気が休まるところがないんじゃないだろうか、と思いきやそうでもない。


 僕が帰ってくると、玄関のマットの上で、シマシマシッポがあおむけになって寝ていた。

 帰ってきた僕に反応して、わずかに首を動かし、「アウ……?」と小さく鳴いている。


「うーん、この様子を見ていると、シマシマシッポはストレスがなさそうですね」


 僕がお腹を触っても、シッポをプルプル震わせるだけで起きようとしない。


「なんでなんでしょうね。危機感がないというか、何か動物に必要なものが足りてないですよね?」


 うちの猫が階段を降りてきても、シマシマシッポは反応しない。

 もしかしたら気づいていないのかもしれない。

 うちの猫がちらとシマシマシッポを見て、フンッと鼻を鳴らして去っていく。


「ほら、いま叩かれてもおかしくなかったのに、見逃されたんですよ? 気づいてますか?」


 と声をかけても、シマシマシッポは目をつむったまま、口をパクパクさせて、夢の中から帰ってこないのだった。


***


 そんなことがあった夜、僕は不思議な感覚とともに、目を覚ました。


 ――うん? まだ夜中ですか。んんん……?


 僕の顔が揺れている。

 そして耳元に熱い吐息。

 ブルルンブルルンと奇妙な音も耳元で聞こえる。


 ――怖い話? 夢?


 目をつむって心を落ち着かせて、だんだんと状況が飲み込めてきた。


 うちの猫が、前足を交互に突き出す、猫特有のふみふみをしているのだ。

 こんな夜中に。

 しかも僕の枕で。


 ――なんで……枕で……?


 枕には僕の頭も乗っている。

 うちの猫が枕をふみふみすれば、当然僕の頭も揺れる。

 それでもお構いなしに、ふみふみは続く。


 ――僕が寝ているのに……! 気遣いとかそういうの、全くないんですね……!


 枕はそれほど大きくはない。

 うちの猫が一生懸命ふみふみすると、時々僕の髪の毛まで巻き込んでしまう。


 ――いたた、こんなことってありえますか……? こんな、枕の狭いスペースでふみふみするなんて……。僕のこと見えてますか……?


 とても眠れる状況ではない。

 しかし、のどをゴロゴロ鳴らしてふみふみするうちの猫を邪魔するのもかわいそうだ。


 ――こんなことをするなんて、やっぱりストレスがたまっているのかもしれませんし……。


 仕方なく、僕は眠ったふりをして、うちの猫のふみふみに顔を揺らし続けるのだった。

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