うちの出たり入ったり
ガチャン!
玄関で音がする。
ベッドの中の僕は、「聞き間違いだったんじゃないかなあ」と眠ろうとする。
するとまた、ガチャン!
ドアノブを下げて、乱暴に離したような音だ。
その音の原因は、わかっている。
「んー、もう。夜中ですよー。さすがに僕も寝てる時間ですよ?」
ベッドから抜け出して、玄関に向かう。
カギを外してドアを開けると、うちの猫が当然のような顔で「ニャッ」と小さく鳴いて入ってきた。
「ちょっと、その態度はなんですかー。ひとを起こしておいて」
「ウーン」
「だいたい、わざわざ玄関からこなくても自分で入ってこれますよね? 二階から」
「フーン」
「ほら、あそこのトイレのところから」
「ウーン?」
「いや、とぼけないでくださいよ……」
このひと何を言っているのかしら? という顔で、うちの猫は僕を置いて、カリカリを食べに行ってしまった。
***
――でも、前は自分で出入りしてましたよね……? なんで玄関から入ってこようとするんでしょう? 最近多いですよね。
首をかしげながら、電気を消してベッドへもぐりこむ。
目をつぶっていると、部屋のドアがカタカタと音を立てる。
うちの猫がひっかいているのだ。
「あーもう、はいはい」
「ニャッ!」
うちの猫がドアから滑り込み、ベッドの上に飛び乗る。
「もう! 部屋のドアも絶対自分で開けられますよね」
「フーン?」
「まあいいでしょう。寝ますよ」
「ワウー! カッ!」
「いや、僕のベッドなんです……。入れてくださいよ……」
ひと通りこのやり取りをして、ようやく眠ることができるのだった。
***
――やっぱりなんか帰ってきてから、ドアとか窓を開けることが多い気がするんですけど?
食事をしながらそんなことを考え、ふと窓に目を向ける。
シマシマシッポが窓の向こうで立ち上がり、ガラスに肉球をつけて、悲しそうな顔で部屋の中を覗き込んでいるところだった。
「あー、気づきませんでした。いま開けますからね」
「フルルルゥ!」
「はいはい。呼んでくれれば気がつくんですけど」
シマシマシッポは中に入りたいときも、鳴いて催促することはあまりない。
悲しそうな顔でじっと待つことが多い。
「アウ……」
今度は空っぽのお皿の前に座って悲しそうに見つめている。
「はいはい。いまカリカリを入れますね」
「ゴロゴロフルル」
「ちょっと! いま入れてる途中なんでちょっと待って!」
「フルルルゥ」
待ちきれない様子でお皿に首を突っ込んでいる。
食に興味がない様子のうちの猫と違って、シマシマシッポはよく食べる。
たまにうちの猫のカリカリを食べようとして、追いかけまわされることもある。
「とりあえずこれでいいでしょう」
食事を再開しようと椅子に座ったとたん、「キュウキュウ」という声がする。
「はいはい。今度はなんですか? あら、ボスじゃないですか?」
「ナアーン」
窓を開けるとボスがちょこんと座っていた。
「かわいい声を出しちゃって、あいさつに来たんですか?」
「ナーン!」
僕の前で、見せつけるように地面に背中をこすりつける。
グネグネと体を動かして、ときどきピタッと止まって僕を見つめる。
「ふふふ、ボスは野良猫なのに甘え上手ですよねー」
うちの猫がこんな姿を見せることはない。
そうしてあおむけになったボスのお腹をつついていると、うちの猫の声がする。
「あら、一緒に遊びますか?」
と振り返った僕の横を通り過ぎ、「フンッ!」と鼻を鳴らす。
そしてボスのそばまで行って「クワッ!」と威嚇をして歩いていった。
ボスはあおむけのままギュッと首を縮めて固まっている。
「あはは、機嫌が悪かったんですかね?」
と今度はシマシマシッポが鳴いている。
「はいはい。どうしたんですか?」
窓を閉めてシマシマシッポのもとへ向かう。
するとシマシマシッポはからのお皿を見つめて悲しそうに「アウ……」と鳴いているのだった。
「あ、そうそうご飯ですねって、いまあげたところですよね?」
「アウ?」
「とぼけてもバレてますよ。さすがにそんなにたくさん食べるのはダメです」
「アウ……」
と話していると今度は窓をひっかく音がする。
「はいはい……えっ!?」
ガラスの向こうで、うちの猫が目を真ん丸にして僕を見つめているのだった。
「いま外に出たところじゃないですか」
「……」
「もう、出たり入ったり、すぐ僕を呼ぶせいで、まだご飯食べられてないじゃないですか」
無言のまま窓から入ってきたうちの猫は、「ご飯」という言葉を聞いて駆け寄ってきたシマシマシッポを叩いて去っていくのだった。




