うちの庭で……なにやってるんですか!
僕があんまりかまわないようにしたせいか、野良猫の「ボス」が庭に来ることは少なくなった。
それでもときどき、ふらっと顔を見せに来る。
あるとき、ボスが一匹の猫をつれて庭にやってきた。
全体的に黒っぽく、グラデーションでまだら模様が入っていて、ヒョウみたいでかっこいい模様の猫だ。ポッチャリ体型なのが唯一残念なところだ。
このポッチャリはボスと仲がいいらしく、つかず離れず、お互いにおいを嗅ぎあいながら庭をうろうろしていた。
――ボスが新しい友達を自慢しに来たのかな?
僕が眺めていると、うちの猫が走ってきて、すれ違いざまにボスのお尻を叩いて去っていった。
いったい何を考えているんだろうか……わからない……。
ボスは特に気にする様子もなく、ポッチャリとじゃれあっていた。
よく観察してみると、ポッチャリはオスだった。ボスもオスだ。
オス同士でも喧嘩せずに仲良くできるものらしい。
うちの庭で縄張り争いをされても困るので、仲がいいのにこしたことはない――と、このときは思っていた。
雨が降っていた。
こういう日は、うちの猫は家の外には出たがらない。
水に濡れるのが嫌らしい。
たとえ少ししか降っていなくても、地面の草が葉っぱに水滴を集めていたりするので、濡れてしまう。だから、庭に出ても前足で草をつついて、すぐに戻ってくる。
これはほかの猫も同じらしくて、雨の日に外で猫を見かけることはほとんどなかった。
小雨が降る中、僕はごみを片付けに庭の裏手へ回っていた。
庭の裏手には家庭菜園用の道具を入れている納屋がある。納屋といっても、ただ屋根があるだけの貧相なものだ。
その中を覗くと、ボスとポッチャリが寝そべっていた。
「雨宿りですか」
屋根のある所で二匹仲良く雨がやむのを待っていたらしい。
ポッチャリは僕のにおいを嗅ごうと動き回っている。ボスは寝転んでじっとしていて、対照的だった。
「ここに住んじゃあ駄目ですからね。雨の間だけですよ」
いちおう、そう注意すると、ボスが耳をパタパタさせていた。
たぶん、僕の言ったことがわかっているのだろう。
雨が上がったあとに見てみると、二匹はいなくなっていた。
また別の日に、二匹が庭でじゃれあっているのを見かけた。
「今日も一緒にいるんですか。本当に仲がいいですね……あれ?」
一瞬、ケンカをしているのか? と思った。
――でも、この体勢は……?
ボスがポッチャリの首根っこをくわえて、体の上にまたがって、お尻を高く突き出していた。
「……? おわっ、何やってるんですか!」
ボスがお尻をふりふりしている。
二匹の体勢は――間違いなく交尾の体勢だった。
――どういうことなんです!? オス同士ですよね!?
ポッチャリのほうも特別嫌がっているようではない。お尻を突き出している。
――何だ、これ!? どうしよう、追い払おうか……? スコップ……ここにスコップがある、これで叩いて……いや、でも悪いことをしているわけでもないし……? こういうこともあるのか? あるわけないよね? おかしいよね? いや、でも実際、目の前で起きていることなんだから、こういうこともあるんだろう……よし、これは猫の世界ではよくあること。だから気にしない! 決めた!
納屋から取り出して握り締めていたスコップを元通りになおすと、僕は庭を去った。
なんだか二匹を邪魔してしまうような気がして、その場にいられなかったのだ。
――うちの庭ですよね……なんで僕が気を使ってるんですか……なんなんですか、これ……。
家に入ると僕はうちの猫を眺めて気を紛らわせた。
やっぱりうちの猫はかわいい。いつもどおりにかわいくて、なんだかほっとした!