うちの災難続き
「あれっ、またですか?」
最近うちの猫はよく寝ている。
――前はこんなに寝てましたっけ? ずっと寝ているんじゃないですか……? 大丈夫なんですか?
と心配になってくるくらいだ。
見かけるのはカーテンの影、テレビの下、洗濯物の上。
どの場所でも長くなって、目をつむっている。
なかでも僕のベッドでよく寝ている。
食事を終えて、自分の部屋に戻ると、かならずベッドを占領している。
「はい、どいてくださいねー」
優しく押して移動させようとすると、「ウー」と小さくうなり、ぱっとベッドから飛び降りる。
部屋の中をうろうろしたあと、またベッドへ戻ってくる。
そのころには僕はすでに布団に入っているので、うちの猫が僕の上に乗ることになる。
僕の足と足の間に挟まるのが好きなようだ。
「はい。じゃあ寝ましょう」
と電気を消す。
うちの猫が怒るので、寝返りはうてない。
いつものことなので、それにはもう慣れてきたのだった。
***
――そういえば、シマシマちゃんを見かけませんね?
うちの猫は窓枠に座って、物憂げな表情で外を眺めていた。
ほとんど目を閉じて、眠っているようにも見える。
ときおりシッポを動かすので、起きてはいるのだろう。
――うちの猫に聞いても知らないだろうし……。
以前よりはマシになったものの、うちの猫はシマシマシッポをちょくちょく叩いている。
シマシマシッポのほうが大きいのに、立場は完全にうちの猫のほうが上だ。
シマシマシッポの気が弱いのかというとそうでもない。
近所の猫を見かけると、唸り声をあげながら突進していく。
そして結局返り討ちに合う。
いずれにしろケンカをするのだから、特別に意気地なしというわけではないようだった。
――まあ、うちの猫は特殊ですからね。
猫どころか、大型犬にもいつも通り猫パンチを喰らわせようとしていたこともある。
犬はぺたんと耳を伏せて、後ずさりをしていた。
なんとなく、そうさせる雰囲気を、うちの猫は持っている。
――それにしてもシマシマちゃんは……。ん? いまの何でしょう?
窓ガラスをたたくような音がする。
見るとシマシマシッポが立ち上がり、前足をガラスにつけてこちらを覗き込んでいた。
「キュウウー」と悲しげな声で鳴いている。
そして窓ガラスを撫でるように前足でひっかく。
「あはは、中に入りたかったんですね。あっちの窓が開いてたんですけど……」
と振り返る。
空いている窓のそばにはうちの猫が座っている。
――もしかして、うつらうつらしながら威圧してたんですか……。いや……やりそうですね……。
「締め出したみたいですいません。わざとじゃないんですよ?」
シマシマシッポは「アオアオ!」と何かをしゃべりながら、家の奥へ走っていくのだった。
***
夜中に目が覚めた。
物音がしたような気がする。
――夢だったのかな?
風が強いので、その音だったのかもしれない。
とまた眠りにつこうとすると、布団の上のうちの猫も起きていた。
「何なのよ」という表情で見まわしている。
「あれ? やっぱり音がしました?」
うちの猫が起きているということは、本当に何か音がしたのだろう。
僕の夢の音でうちの猫が起きることはない。
じっと耳をすました。
「うーん、聞こえませんねえ」
――なんか怖い話みたいですね。
そう考えながら、布団から抜け出す。
こういう時は思い切って確認してしまうほうがいい。
――ついでに水も飲んできましょう。
と僕は階段を降りるのだった。
階段を下りる途中で気づいた。
やはり聞こえる。
かすかにひっかくような音。
トイレのほうからだ。
ドアを開けると、シマシマシッポが飛び出して、「アウゥ……」と悲しそうな声で鳴くのだった。
「あはは、閉じ込められちゃったんですか」
「ウゥン……」
「気をつけているはずなんですけどね。ごめんなさい。風で閉まったのかな?」
シマシマシッポにお詫びのカリカリをあげて、またベッドへ戻る。
電気を消した後で、ふと思う。
――まさか、うちの猫が閉じ込めたんじゃないでしょうね……。
シマシマシッポがトイレに侵入した瞬間、ドアに体当たりをして閉じ込めて、「フンッ」と鼻を鳴らしながら去っていくうちの猫の姿が目に浮かぶ。
――ありえなくもないですね……。そんなことしちゃダメですからね。
うちの猫のおでこをツンツンと突くと、僕の指を叩いて、「フンッ」と鼻を鳴らすのだった。




