うちの眠たがりと、とにかくトイレはきれいにしたい猫
「おー、帰ってきましたねー」
肩にバッグをひっかけて、両手には段ボールを抱えて玄関をくぐる。
一人暮らしの荷物だから、そんなに量はない。
とはいえ重い。
どさりと置いて、軽くなった肩を回す。
僕は実家に帰ってきたのだった。
この四月からは、また猫と一緒に暮らすことになる。
――よし。荷物の片づけは後回しにして、うちの子たちに挨拶をしましょうか。
とさっそくうちの猫を探すのだった。
***
――なるほど、ここですね。
不自然に膨らんだ布団を見て、僕はすぐに気がついた。
この下に、うちの猫がいる。
しかし勢いよく布団をどかすと怒るかもしれない。
というか怒る。
なので、そっと布団をめくった。
「こんにちはー。僕ですよー?」
「アーウ?」
うちの猫が布団の下から顔を出す。
ちらりと僕を見て、「あら、来てたの。私いま寝てるところなの」という感じで布団の下に潜り込んでしまった。
「ねえねえ、僕ですよ? 帰ってきましたよ?」
「ウーン」
うちの猫が僕に背を向けた。
頭のてっぺんだけが布団からはみ出ている。
どうしても眠りたいようだ。
仕方なく、頭のてっぺんを指先で撫でる。
――せっかく帰ってきたのにそっけない態度ですけど……。
「ゴロゴロ……」
布団の下からうちの猫ののどを鳴らす音が聞こえている。
――久しぶりなのにこんなに安心して眠ってもらえるのは、なんだかうれしいですね。
しばらく撫でて、僕はベッドから離れたのだった。
***
「シマシマちゃーん。どこですか?」
うちの猫に挨拶ができたので、今度はシマシマシッポを探すことにした。
家の中をひと通り探して、庭でシマシマシッポを見つけた。
庭の奥のほうで座っている。
「あっ、いましたね。ほら、僕ですよ?」
シマシマシッポは僕を見て一瞬「えっ!?」という顔をして、すぐに地面のにおいを嗅ぎ始めた。
地面を撫でるように、丁寧にひっかいている。
こちらに駆け寄って来ることはなかった。
「どうしたんですか? 僕が帰ってきたんですけど?」
えっ!? という顔で僕を見て、すぐにまた地面を撫で始める。
穴を掘っているというわけではないようだ。
とにかく地面が気になって、撫でたいらしい。
――うーん? これは……?
シマシマシッポは円を描くように移動しながら地面を撫でる。
ときおり僕を見てびっくりして、また地面を撫でる。
――なるほど。これはトイレですね。
シマシマシッポはトイレのあと片付けをしていたのだ。
丁寧に、念入りに作業をしている。
誰に教わったというわけでもないだろうに。
地面に草が生えているので、まったく土をかけることができていないのが、唯一残念なところだ。
「あはは。気が済んだら遊んでください。ここで待ってますからね」
と声をかけて、玄関脇の庭石に腰掛ける。
こんな風にのんびりした気分でいられるのは久しぶりだ。
シマシマシッポはかなりの時間地面を撫でて、それから元気よく走り去ってしまった。
***
引っ越しはなかなかの強行軍で行われたので、僕は疲れていた。
睡眠時間も足りていない。
そんな中、自分の部屋に入ると、ベッドの真ん中にうちの猫が座っていた。
「ふふふ、そこは僕のベッドですよ。一緒に寝ますか?」
と近づいても動かない。
「うーん、一緒に寝るのはいいんですけど……」
このままでは布団の中に入ることができない。
だが無理にどかそうとすると「クワ―!」と怒りの声をあげて走り去ってしまう。
何とかうちの猫の機嫌を損ねないように、布団の端をめくってもぐりこむ。
――いや、これ、背中が外に出てますね……。とてもこんな格好では寝られないですね……。
仕方なく布団を持ち上げてベッドの真ん中に移動する。
うちの猫は「ンアーオ!」と抗議の声をあげたが動かない。
「あら、珍しいですね。このまま一緒に寝てくれるんですね」
「アーオ!」
「ふふふ、触ってもいいですか?」
と手を伸ばすと、ペチンとはたかれてしまった。
――この重さも久しぶりですね。
お腹の上にうちの猫の重みを感じながら、僕は目を閉じたのだった。
***
――いや……寝られないですね。
ちょうどいい場所に移動してもらうために、布団ごとうちの猫を持ち上げる。
こんなことをすれば、いつもなら怒ってどこかへ行ってしまうはずだ。
だがこの日は「アーオ!」と抗議するだけで、意地でも布団の上から動かないのだった。




