うちの見張り猫
連休で帰省したところ、ちょうど家族が出かけていた。
誰もいない。
鍵を持っていないから、帰ってくるまで待たなければならない。
玄関前に座ってのんびりしていると、虫が集まってきた。
田舎はやはり虫が多い。
叩き落として時間を潰す。
そこへボスが現れた。
ニャウニャウと喋るように鳴きながら歩いてくる。
僕の目の前に座った。
さらにシャム猫っぽい猫も現れた。
トコトコ歩いてボスの隣に並んで座る。
二匹で僕を見上げている。
(うん? どういう状況なんでしょう……これは……)
僕の目の前に二匹の猫。
ボスはなんだかキリリとした顔をしている。
僕の反応を待っているようだ。
「あのー、仲良くしてるみたいで良かったです」
ボスの鼻を突くと、フゴフゴと満足げに喉を鳴らしていた。
少しして、シマシマシッポもやってきた。
僕がいることに対する反応は、特にない。
自然に横を通りすぎて、家の中へ入ろうとする。
しかしドアが開いていない。
ここで初めて僕を見上げて、「フウーン」と鳴いた。
「ドアを開けて貰うときだけ甘えて……。僕は鍵を持ってないから開けられませんよ」
「フーン」
僕がドアを開けられないことを確認して、シマシマシッポは庭の奥へ去っていった。
***
家族が帰宅し、無事に家の中へ入ると、うちの猫を探す。
洗面所で横になっているのを見つけた。
「久しぶりですねー!」
一瞬ビクッとして立ち上がろうとして、「あらいたの?」という顔になり、また横になる。
僕はうちの猫に覆い被さるようにして、おでこを撫でた。
うちの猫は毛がふわふわしている。
ちいさくて体重も軽いので、あまり触っている感じがしない。
(こんな手触りでしたっけ? さらに軽くなっているような……?)
感触を確かめるために撫で撫でを続けていると、「もう! 本当にしつこい!」という風に叩かれてしまった。
「ふふふ、久しぶりなんでもうちょっとだけ……!」
「クワー!」と怒りの声をあげて逃げられてしまった。
その後も追いかけまわしていたら、僕が近づこうとするだけで威嚇するくらい、本格的に怒ってしまった。
***
夕食を食べていると、シマシマシッポがやってきた。
僕の太ももに前足を乗せて、身体を持ち上げている。
そして甘えた声を出している。
「え? なんですか?」
「フウーン」
シマシマシッポの視線は、僕が箸で摘まんでいるかまぼこへ向けられている。
「食べたいんですか?」
「フニャーン」
「うーん、食べられるのかな……?」
かわいくおねだりをされてしまったので、仕方なくかまぼこを半分渡す。
シマシマシッポはガツガツとかまぼこを食べると、用は済んだとばかりに去っていった。
(玄関で遭遇したときもそうですけど、ちょっと態度が大きくなったというか、要領が良くなったというか……)
僕がいない間にうちの猫に鍛えられたのかもしれない。
***
自分の部屋でベッドに横たわり、電気を消すと、うちの猫が入ってきた。
床にペタリとうつぶせになっている。
「あっ、一緒に寝ますか? ほらほら、ここ」
と誘ってもベッドには入らない。
手を伸ばして触ろうとしても届かない。
ギリギリ届かない距離に、うちの猫はうつぶせになっている。
昼間怒らせたせいで、警戒しているのかもしれない。
「ねえねえ、一緒に寝ましょうよー」
僕が声をかけてもシッポをパタパタ振るだけだ。
「いいじゃないですかー」
「パタパタ」
「もう!」
「パタパタ」
静かに、ちょっと離れた距離から、僕を見張っている。
しばらくして、ゆっくりと目を閉じる。
シッポも動かなくなる。
その寝顔を眺めながら、僕も眠りにつくのだった。




