うちのお盆休み・お土産
「さて、買ってきましたよ」
田舎に存在する唯一のレジャー施設であるホームセンターから帰った僕は、うちの猫に袋を見せびらかしていた。
ネズミの人形を買ってきたのだ。
「これで遊んで元気を出してくださいね」
うちの猫はお店の袋のほうに興味があるようだ。
フンフンと鼻を鳴らしている。
「これですよ。ほらっ!」
取り出したネズミの人形を目の前で振って、放り投げる。
空中で放物線を描き、床に落ちる。
コロコロと転がって、動きを止める。
うちの猫はそれを目で追って、またホームセンターの袋のにおいを嗅ぐのだった。
とはいえさすがネズミの人形。
うちの猫の周りでしつこく投げていたら、なんとか興味を示してくれた。
ネズミを咥えると、僕に奪われないように離れていく。
離れた後も、ネズミに前足を乗せて、周囲を見回し警戒している。
ーーふふふ、すっかり自分の獲物ですね。
もう大丈夫だと思ったのか、ネズミの傍らに座り込む。
前足はしっかりと押さえたままだ。
そして顔を近づける。
ーーうんうん……あれ?
うちの猫はネズミを舐め始めた。
ーーそれは獲物というか、育児……?
うちの猫はネズミを丁寧に舐めつつ、僕のことを警戒するようにチラチラ見てくるのだった。
***
「シマシマちゃんは遊んでくれますねー!」
うちの猫が飽きて放置したネズミをシマシマシッポが見つけて遊んでいた。
抱き抱えて蹴りまくっている。
「そうそう。ネズミで遊ぶっていうと、普通そうなりますよね」
テンションの上がったシマシマシッポがネズミを放り出して駆ていく。
「あはは、シマシマちゃんは元気ですねー! あ、そうだ」
とホームセンターの袋を探る。
ネズミのほかにもお土産を買ってきたのだ。
チューブに入った猫用のオヤツ。
さすがのうちの猫でも絶対に喜ぶお土産だ。
「さあ、これを……わあ!?」
走って戻ってきたシマシマシッポがチューブに飛びかかろうとする。
「違うんです。あとであげますから、ちょっと無理やり顔を近づけないでください……。順番に、順番だから……もう!」
***
結局シマシマシッポにチューブを一本食べさせて、それからうちの猫にあげることになった。
「ほら、おいしいオヤツですよー」
チューブを振るとうちの猫が反応する。
「あら、私にもあったのね」と落ち着いて近づいてくるようで、しかし視線がチューブに釘付けになっている。
「ふふふ、ほら、どうぞ!」
うちの猫がチューブの先から出てくるドロドロのオヤツを舐める。
耳をペタンと寝かせて、一心不乱にペロペロして、普段はなかなか見ない顔をしている。
本当に夢中だ。
このチューブのオヤツの特徴は、人間が押し出してあげないと中身が出てこないところだ。
これはいいところでもあり、悪いところでもある。
押し出している間はオヤツに夢中な猫の顔を思う存分堪能できるのはいいところだ。
一方、猫の食べるペースに合わせてチューブから押し出してあげなければならない。
これはなかなか大変だ。
一度中身を皿に出してしまえば楽なのだが、それはしない。
自分があげてる感を味わいたいのだ。
ツイッターなどでもみんなチューブを押し出して食べてもらっている。
「ほら、もうなくなっちゃいましたねー!」
チューブがぺったんこになった。
何度か底から押し出してみたが、何も出てこない。
うちの猫が「もうないの?」という顔でチューブを見つめる。
「もうないんですよ……。ああっ、見てください! 僕の指にこぼれたやつが付いてますよ! まだありましたね!」
僕が指を近づけると、うちの猫は無表情になり、においすら嗅がずに去っていった。
***
入れ替わるようにやってきたシマシマシッポが僕の指を舐め、さらにぺったんこのチューブを「まだ出てくるはず!」という顔で舐めていた。
ーーシマシマちゃんは簡単ですね……。
うちの猫がこれくらい喜んでくれるものって何かあるかな、と僕は次の帰省のお土産に思いを馳せるのだった。




