表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/215

ぐったりと小心者の行方

 だんだんと暖かくなってきて、猫たちが寝転がって長くなっている姿をよく見かけるようになった。

 力を抜いて、リラックスして横になると、本当にいつもよりも長くなっているように見えるから不思議だ。


***


 最近のうちの猫のお気に入りはお風呂の脱衣所だ。

 タオルに埋もれて静かにしているので、気づかないままお風呂に入ってしまうことも多い。

 するとシャワーを浴びている途中で、「急にここから出たくなったのよ! 私、いま出たい!」という感じで鳴き始めるのだ。

 仕方なくシャワーを止めて、脱衣所のドアを開けることになる。

 床は濡れるし、僕の身体が冷めてしまうのだけど、うちの猫がそれを気にする様子はまったくない。


 お風呂に入る前に気づくこともある。


「あっ、またここにいましたね」


 目を大きく開いて、ヒゲをピンと立てて、怒っているようにも見える。

 だが耳をすますと、喉を鳴らすゴロゴロという音が聞こえてくる。


「ふふふ、見つかっちゃいましたよー? 隠れても無駄ですよ?」


 僕が手を伸ばすと前足で叩いてくる。

 しかし爪はたてない。

 力なく、けだるげに僕の手を叩くだけ。

 嫌ではないみたいだ。


「ほーら、触っちゃいますよー?」


 調子に乗ってからだを触ろうとすると、前足を突っ張らせて、僕の手を押して、ガードしてくる。


「そんなことしても……んん?」


 うちの猫はからだをひねり、キックのそぶりを見せ、必要最小限の動きで僕を牽制する。


「やっぱり嫌なんですか……?」


 行動は嫌がっているようだが、喉のゴロゴロはまだ聞こえている。

 前足でのガードを続けたまま、喉を鳴らし、目を大きく見開いたうちの猫と僕とが見つめ合うという、よくわからない状況になってしまった。


「えー、どっちなんでしょう? 怒ってないですよね?」


 さらに触ろうとして、結局本当にうちの猫を怒らせてしまうのだった。


***


 シマシマシッポは、玄関に置かれた絨毯のようなマットで寝転んでいることが多かった。

 僕が近づくとからだは動かさず、目だけ反応する。

 さらに近づくと、僕の足を、前足でちょいちょいと触ってくる。


「あー、触ってほしいんですか? 触っちゃいますよ?」


 僕が撫でるとからだをプルプル震わせながら伸びをして、観念したように目をつぶり、動かなくなる。


「ふふふ、さわり放題ですね。ここまで無反応なのは物足りないですけど……」


 いつまでも触っていると、さすがにうっとおしくなるのか、優しくキックをされてしまう。


 このシマシマシッポが、あるときから急に玄関で寝転ぶのをやめてしまった。

 どこにいったのか探してみると、和室の奥の机の下の座布団の上で寝ている。


「今度はここが気に入ったんですか? わかりにくい場所ですねー」


 と声をかけると、目だけで反応して、プルプルと震えて、また寝てしまった。


***


 リビングへ向かう廊下でシマシマシッポを踏みそうになった。


「あっ、危ないですよ、こんなところに。というか、いまシッポを踏みませんでした?」


 シマシマシッポは特に怒るわけでもなく、「アウッ、アウッ」と何かを喋るように鳴いている。


「何ですか? カリカリですか?」


 と会話をしながらリビングに入ると、突然シマシマシッポが鳴くのをやめた。

 ビクッとからだを縮めている。

 見るとテーブルの上からうちの猫が見下ろしているのだった。


 うちの猫はじっと座っているだけだ。

 だが無言のプレッシャーに耐えられなくなったのか、シマシマシッポはすごすごとリビングを去っていく。


 シマシマシッポがリビングから出る瞬間に、うちの猫がテーブルから飛び降りる。

 トンッという小さな音に、シマシマシッポがまたビクッとからだを縮める。


 ――パンチをしてないのはいいんですけど、プレッシャーのかけかたが、えげつないですね……。


 2匹のあとを追うと、玄関のあたりでシマシマシッポがウロウロしている。

 どうやら玄関のマットの上に寝転びたいようだ。

 しかし少し離れた場所にうちの猫がいる。

 相変わらず攻撃するわけでもなく、ただじっと座っている。


 シマシマシッポはさんざんウロウロして、結局和室のほうへ歩いていった。

 うちの猫もゆっくりとあとを追っている。


 ――あれ、この方向は……?


 和室の中では、シマシマシッポがまた落ち着かない様子でウロウロしていた。

 和室の入り口には、うちの猫が座っている。

 これじゃあ外には出られないし、という風にチラチラうちの猫に目をやりながら、シマシマシッポは和室の奥に向かい、机の下にもぐりこんだ。


 ――あっ、あの場所!


 シマシマシッポの姿が完全に隠れてしまうと、うちの猫は特に何の感慨もない様子でその場から去ってしまった。


 机の下をのぞきこむと、やはりシマシマシッポが座布団の上に寝転んでいる。


「それでこんなところで寝るようになったんですね」


 頭を撫でるとからだをプルプルさせている。

 座布団の上でリラックスできているようだし、居心地は悪くないみたいだ。


 ――うちの猫のプレッシャーもなかなかのものでしたけど、シマシマちゃんもビビりすぎですよね……。何もされてないのに……。


 ひとまずシマシマシッポを慰めるために、僕は頭を撫で続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ