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うちの不思議なへっぴり腰

 動物番組でライオンの姿を見ると、獲物を襲うとき以外はわりとのんびりしている。


 頭をすこし下げて、のっしのっしと歩き回る。木陰を見つけると横になって、目を細めていたりする。

 地面にべたりとお腹をつけて、大きなあくびをして、とても狂暴な動物には思えない。



 うちの猫も普段はそういう感じだ。


 頭をすこし下げて、とことこ歩き回る。すぐにごろんと横になって、毛づくろいを始める。

 違いはライオンのように獲物を襲ったりしないということと、からだの大きさ。


 そして、もうひとつ。

 洗練されていない不器用な動作だ。

 

 テンションがあがって暴れまわっているときも、野生の動物の俊敏さはない。

 なんだかじたばたしているな、とほほえましくなってしまう動きなのだ。


 その姿を見て、


 ――うちの猫は、この家から出て野良猫として生きていくのは無理なんだろうなあ。


 と思ったりする。

 もちろん、この家から出て行く理由なんてないのだけれど。 





 うちの猫は本棚の上がずいぶん気に入ったようで、ちょくちょく登っている姿を見かけるようになった。

 僕が見つめていると、自慢したいのか何なのか、カーテンレールを伝って別の本棚の上に移動したりする。


 カーテンレールは本来動物が移動する用途には作られていないから、当然狭い。ぎりぎり猫一匹分くらいの幅しかない。


 そろり、そろりとへっぴり腰で歩いて、ときどき「もう無理!」というように座り込んでしまう。そのくせ本棚の上に到着すれば元気になって、僕が伸ばした手をぺちんとはたいたりする。



 あるとき、うちの猫が普段とは反対側のカーテンレールに飛び乗ってしまった。

 それを見た瞬間に僕は、


 ――ああ、やってしまいましたね……。


 と思った。


 そのカーテンレールの先に本棚はない。壁掛け時計があるくらいだ。さらに向こうは壁だから、行き止まりということになる。


 狭いカーテンレールの上で方向転換して本棚に戻る、なんてことはできないから、途中でカーテンを伝って降りるしかない。


 ――さあ、いったいどうするつもりなんですか……。


 見守っていると、カーテンレールの端までそろそろと進んでいって、ちらちらと僕のほうを確認していた。そして意を決したようにジャンプしてしまった。


 たどり着いたのは壁掛け時計の上。

 狭すぎて、方向転換も動くこともできない。じっとしているしかない。飛び降りる勇気もないようだ。

 うちの猫は、もうどこにもいけなくなってしまった。



「あおーん!」


「いや、わかってましたよね……。なんで時計のほうに行っちゃうんですか」


「あーお! あーお!」


「もう、しょうがないですね」


 僕に抱えられて、なんとか降りることはできた。

 さすがに学習したのか、それ以降時計の上で困っているうちの猫の姿を見ることはなかった。





 二階の窓辺で外を眺めている姿を見かけることも多い。


 小鳥の声が聞こえると、窓に鼻をこすりつけるようにして、きゅっきゅっきゅっと鳴いている。


 もっと近づいてみたいようで、窓を引っかいて、僕に開けるように要求することもある。


「窓を開けると落ちるじゃないですか。見てください。下は何もありませんよ?」


 普通の猫なら窓を開けても心配ないかもしれないけど、うちのへっぴり腰さんはバランスを崩して落ちてしまいそうだった。下に何もないということがわからずに、勢いよく飛び出してしまうかもしれない。


 不服そうにしていたが、なんとなく危ないことはわかったらしい。「その窓」を開けることはあきらめてもらえた。



 二階にはほかの窓もある。先ほどの窓とは違って、窓の下に一階の屋根が広がっている。


 うちの猫はその窓のそばで行ったりきたりして、しきりに僕に開けるよう訴えかけていた。


「へえ、賢いじゃないですか!」


 たしかに窓の下に屋根があればすぐに落ちる心配はない。

 だけど……結局、その屋根から落ちちゃうんじゃないだろうか、と思った。


「大丈夫なんですか?」


 ――猫だから高いところは大丈夫なはず……でも普通の猫じゃなくてうちの猫だからどうなんだろう……。


 と心配しながら窓を開けると、うちの猫はぱっと窓から飛び出した。


 そしてすぐに腰を落として、そろりそろりと屋根の上を動き回る。

 いつもどおりのへっぴり腰だった。


 ――これなら心配ないですね。


 気が済んだら戻ってきてくださいね、と言おうとしたとき、うちの猫がだっだっだっと走り始めた。


 ――ええっ、ちょっと!?


 と驚いていると、勢いよくジャンプしてお隣の倉庫の上へ。そこからさらにジャンプしてお隣の屋根に登り、そのまま見えなくなってしまった。


 ――なんなんですか! 普通の猫みたいに動けるんじゃないですか!


 時計の上で困っていたときとは別の猫のような姿だった。





 もしかすると、普段、うちの猫は僕に助けてもらえると思って、わざとへっぴり腰になっていたのかもしれない。


 ――そうですか。僕に甘えたかったんですね。


 そう考えると……やっぱりうちの猫はかわいい!

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