ああ、うちの猫です……。
布団の上にうちの猫が乗ってくる。
ちょうど足と足の間に挟まる位置だ。
「うーん、最近よく乗ってきますね……」
モゾモゾと座り直して、落ち着く場所を探しているようだ。
重さが僕の足の上で動いている。
――布団の上でくつろぐのはいいんですけど、この体勢は僕が寝づらいんですよね。ちょっと横を向きますね。
と寝返りをうつと、慌ててうちの猫が立ち上がった。
そして布団の下で動いた僕の足を、バンバンと前足で叩いている。
すごい勢いだ。
「ええ……? 怒ってるんですか?」
ウウーと唸る声も聞こえた。
怒っているようだ。
「わかりましたから……。もう動かないですから……」
じっとしていると、布団の上に座り直す。
少しして「フンッ」と鼻を鳴らす音が聞こえた。
***
別の日に自分の部屋へ戻ると、ベッドの上にシマシマシッポがいた。
いつもうちの猫が寝ている位置に、ドサリと身体を投げ出している。
「あらー、珍しいですねー。今日は一緒に寝ますか?」
と布団にもぐり込むと、シマシマシッポはジワジワと移動して、ベッドの隅にいってしまった。
――上には乗りたくなかったんですね? 別に乗ってもいいんですけど。
遠慮をするように、シマシマシッポはベッドの隅で身体を縮めていた。
そしてそのまま、窮屈な姿勢で目をつぶって、ウトウトし始めた。
――ふふふ、遠慮しながら寝られるんですね。
そこへうちの猫がやってきた。
部屋に入ってきた瞬間に、シマシマシッポが飛び起きる。
うちの猫は落ち着いて、頭を低くして、ゆっくりと近づいてくる。
シマシマシッポはもうソワソワして、いても立ってもいられないようだ。
――あらー、どうしましょう。
逃げ出そうとしても、うちの猫がドアの側にいる。
追い詰められたシマシマシッポは、ベッドの横の窓枠に飛び乗った。
そしてカーテンの裏に身体を隠す。
うちの猫がベッドへたどり着いた。
シマシマシッポが隠れたカーテンを見つめている。
もう完全に、シマシマシッポの逃げる場所はない。
――うーん、どうなるんでしょう。
うちの猫が、静かにカーテンに近づいて、平手打ちのようにして、前足をカーテンに叩きつけた。
慌てて飛び出したシマシマシッポのお尻に、さらに追い打ちを仕掛けている。
シマシマシッポは部屋の中のものをなぎ倒しながら、走り去っていった。
うちの猫は鼻を鳴らして、「私の場所に勝手に入ってきたからよ!」というように、シマシマシッポの去ったドアのほうを睨みつけていた。
――僕のベッドなんですけど……。
と思いつつ、僕はベッドの隅で本を開くのだった。
***
洗濯をしようと洗濯機をのぞくとうちの猫が入っていた。
「もう、またそんなところに入ってー」
と笑っていたのだが、なかなか出てきてくれない。
呼びかけてもダメ。
抱きかかえようと手を伸ばすと唸り声と共にはたかれてしまった。
「あのー、いま洗濯しちゃいたいんですよ……。出てきてくださいよ……」
うちの猫は臨戦態勢で聞く耳を持たない。
洗濯物を一枚放り込んでみたら、「なんてことをするのよ!」という顔で憤慨しているようだった。
「ここも自分の場所じゃないんですよ……」
結局洗濯はあと回しになってしまった。
***
コンビニへ歩いて向かっていると、立ち話をしている声が聞こえた。
「あっ、あの猫かわいいわねー」
「あの子、すっごい気が強いのよ。私抱こうとしたら、ものすごく怒って、威嚇されちゃったのよ」
話をしている奥さまたちのほうを見ると、その向こうを、うちの猫がトコトコと歩いていくところだった。
――ああ……。その子はうちの猫です……。
せめてよその人は引っかかないでくださいよと祈りながら、僕はその場から逃げ去ったのだった。




