うちのおいしい猫草
ホームセンターを歩く。
なぜこれほどに種類があるのかというほどのベニヤ板の並らぶ棚を抜けて、さらにカー用品のコーナーも通り過ぎる。
これだけで十メートル以上は歩いている。
いつも思うがこのホームセンターは広すぎる。
これでは買い物というより散歩だ。
ここを通り過ぎた先が、ペット用品コーナーだ。
水槽は小さめでもなかなかのお値段。
ヒーターやライトは安いものものもあるが、全部揃えたらかなりの金額になるだろう。
ドッグフード、キャットフードは種類が多い。
大きめの袋のエサをひとつ買っておいてもいいかなと考えて、歩調がゆっくりになる。
――でも味が気に入らなかったとき、困りますよね……。
ペットのオモチャコーナーに差し掛かり、またゆっくりになる。
――うーん、ここにあるのはだいたい似たようなものがうちにありますね。
喜んでくれると思って買っても、案外反応が薄かったりする。
手の込んだお高いオモチャもあったが、そちらは見なかったことにした。
ふとオモチャの隣にある鉢植えに目が止まった。
ただの草のように見えるが猫草だ。
――こういうのがいいかもしれませんね。
と鉢植えを手に取り、この日のお土産が決まった。
***
鉢植えは10センチくらいの正方形で、片手で持てるくらいの重さ。
スラッとした細長い葉っぱがビッシリ突き出している。
――さて、喜んでくれるでしょうか。
床に新聞紙を敷いて、その上に鉢植えを乗せる。
すぐにうちの猫が近づいてきた。
興味津々という顔をしている。
――うんうん。反応はいいですね。
感触を確かめるように、草の先に鼻を当てている。
――なんか嫌そうな顔にも見えますけど。
それでも熱心に鼻で草をかき分け続けている。
気に入った草が見つかったようだ。
口を動かし、シャリシャリという音もたてている。
しかし噛み切ることができていない。
顔を斜めにして、なんとか食べようとはするものの、うまくいかない。
苛立ったのか、うちの猫が草に噛みつき、グイッと首を振って引っ張る。
小さなプランターは引きずられ、横倒しになった。
うちの猫はプランターを見下ろし、僕をチラッと睨むと鼻を鳴らして去っていった。
結局草は食べられなかったようだ。
***
せっかく買ってきたのでここで諦めるわけにはいかない。
「ねえ、ちょっと。今度は大丈夫ですから!」
プランターを持ってうちの猫を追いかけ、声をかける。
――問題点はわかりましたし、これならなんとかなるはずです。
目の前に置かれた猫草を見て、うちの猫が首をかしげる。
「ほらほら、おいしい猫草ですよ。食べていいんですよ」
先程は食べられなかったものの、やはり気になるのかうちの猫が鼻を近づける。
「邪魔なのがいるわね」とチラチラ僕を見ながら草に噛みつく。
――今です!
プランターに添えていた手に力をこめる。
うちの猫の引っ張る力に負けないように、横倒しになってしまわないように、しっかりと。
そしてついにうちの猫が草を噛みちぎる。
――やりましたね! これで草が食べられますよ!
うちの猫は特になんの感情も湧いていないようだ。
澄ました顔で次の草を探している。
――まあ、気に入ってくれてはいるようですね。でもこれって僕はいつまでプランターを持っていればいいんでしょうか……。
こうしてしばらくの間、プランターを支える作業は続くのだった。




