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冬の追いかけっこ

「ンギャー!」

「アー! アーオウ!」

「ナー!」


 窓から鳴き声が聞こえた。

 ハッとして僕は立ち上がった。

 これはケンカだ。

 うちの庭で、猫がケンカをしている。


 ――ケンカというか……またシマシマちゃんですね……! 助けにいかないと!


 玄関へ向かい、自分が裸足だと気づく。


 ――むむむ……。くつ下を履いている暇なんてないでしょう! 寒いけども!


 靴もちゃんと履かずに、足先に引っかけたくらいの状態で飛び出す。


 ――どこ? どこですか?


 見回すと、道路にお隣の奥さんが立っていた。

 僕を見てウンウンと頷き、指を指している。

 その先にはガラトラ猫がいた。

 僕に背を向けて、さらに向こうにいるシマシマシッポをロックオンしている。


「こらー! やめてくださーい!」


 手をパチパチと叩きながら、あたふたとガラトラ猫のもとへ向かう。

 ガラトラ猫はチラッと振り返って、落ち着いて僕から距離をとる。

 ガラトラ猫が動いたのに反応して、シマシマシッポが走り出す。

 それを見て、ガラトラ猫も追いかける。


 ――シマシマちゃんは逃げなくていいんです! ガラトラ猫を追い払いたいんですよ!


 もちろん僕も追いかける。

 シマシマシッポの逃げるスピードは速い。

 一方、ガラトラ猫は僕のことをチラチラ振り返りながら、追いつけない距離を保っている。


 ――ううん、なにこれ!?


 シマシマシッポの姿が見えなくなった。


 ――家の中に逃げ込んでもらおうと思ったのに!


 ガラトラ猫も悠々と姿を消す。


 ――もう、思い知らせようと思ったのに!


 庭の周囲の安全を確認している間に、お隣の奥さんもいなくなっていた。


 ――これじゃあ何の役にも立たなかった気がしますね……。誰もいなくなっちゃったし……。


 とぼとぼと玄関へ向かう。

 どこか遠くで猫がケンカをしている声が聞こえた気がした。


***


 うちの猫は以前よりも、もっとインスタントお味噌汁の袋に興味を持つようになっていた。

 包装のギザギザの部分に、ひたすら顔をこすりつけている。


 ――そんなに気持ちがいいものなんでしょうか?


 食事中でもお構いなしにテーブルに上がって、スリスリをする。


 ――うーん、ここまで夢中になることはなかったですよね?


 邪魔ですよとお尻を押してもまったくテーブルから降りようとしない。

 全力で踏ん張って、お味噌汁の側を死守しようとする。


 ――これは……おかしいですよね……?


 最終的にはお味噌汁の側でひっくり返ってしまった。

 幸せそうにゴロゴロ喉を鳴らして、お腹を見せている。


 このままでは食事ができないので、結局お味噌汁のパックを食卓から移動させることになった。

 うちの猫もお味噌汁を追いかけて移動する。


 ――ストレスが溜まったりしてるんですかね……? ちょっと様子が変ですよね?


 そういう季節なのかもな、と思いながら、うちの猫の幸せそうな表情をおかずに、ご飯を食べるのだった。


***


 シマシマシッポはしばらくして帰ってきた。

 人間のように窓をドンドンと叩いて、開くと飛び込んでくる。


「怖かったですねー! 家の中は安全ですよ」


 無で回して安心させようとすると、身を捩って逃げ出そうとする。

 大丈夫ですよと言い聞かせてもじっとしてくれない。


 ――シマシマちゃん? 役に立たなかったから……?


 トコトコと歩いていったシマシマシッポは、空っぽのえさ入れをのぞき込んで、「ウアーオ」と不機嫌な声で鳴くのだった。

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