家の中では痛いのです
――またケガをしましたか……。
外から帰ってきたシマシマシッポの前足の毛皮が薄くなっていた。
毛皮の下の皮膚が、赤く腫れている様子がわかるくらいだ。
リビングで座り込み、おっかなびっくりという感じで、その前足を舐めている。
僕が近づくと、ビクンと身を縮みこませてしまった。
――あらあら、よっぽど怖い目に遭ったんですかね?
シマシマシッポを抱えてソファーに移動させる。
隣に座り、ポンポンと軽くお腹を叩く。
「はい、家の中は安心ですからね。ゆっくり暖まりましょう」
声をかけて触っているうちに、緊張した様子だったシマシマシッポもだんだんと落ち着いてきたようだ。
足に込めていた力が抜けて、ダラリと横になり、まぶたも閉じてくる。
最後にはソファーにへばりつくように平らになって、寝てしまった。
――良かったですねー。ここは安心ですからね。
と頭を撫でると、寝言のような「ブゥ」という返事が返ってくる。
――しかし、こんなにちょくちょくケガをしてしまうのには困ってしまいますね……。やっぱりケンカなんでしょうかね。僕がずっと側にいて見張ることはできないし……。どうしましょう……。
などと考えていると、リビングのドアが開いた。
うちの猫が入ってきたのだ。
すぐに僕の隣で寝ているシマシマシッポを見つける。
そして頭を低くした姿勢で、ソロソロと近づいてくる。
「ちょっと! いまは狙わないであげてくださいよ。もう!」
僕を避けてシマシマシッポに近づこうとするのを、両手を広げてガードする。
しばらくガードを続けると、「今回は見逃してあげるけど……今度見つけたら……」と睨みながらリビングから出ていった。
その間シマシマシッポは平らになったままだった。
***
それからしばらくは、シマシマシッポは外に出なくなった。
いつ見ても家の中で、だいたいリビングの洗濯物の上を陣取っている。
――まだ寒いですし、ゆっくりケガを治してくださいよ。
と好きにさせている。
うちの猫はシマシマシッポがいると居心地が悪いようで、2階の僕の部屋に入り浸るようになった。
だいたい布団の上に座っている。
今日はいないな? と布団を捲ると、毛布の下に隠れていたりする。
「そこに隠れるのは危ないんですよ。気がつかなくて踏んじゃうかもしれません」
と毛布に手を伸ばすと、唸り声をあげる。
完全に自分の縄張りだと思ってしまっている。
そのわりに、僕が布団で寝ているときに、もぐってくることはない。
庭でガラトラ猫を見かけたら、追い払うようにしている。
しかし、「コラー!」と言いながら手を叩いて追いかけても、ノソノソとふてぶてしい態度で、僕の手の届かないところまで移動するだけだ。
そうするうちに気がついたのだけれど、ガラトラ猫は2匹いるようだ。
たぶんシッポが太い子と細い子がいる。
シッポ以外の見た目はほとんど同じだ。
――まさか2匹でシマシマちゃんを狙ってるんじゃないでしょうね!?
と思ったが、実際どうなのかは確認できていない。
うちの猫はどのガラトラ猫を見てもいつもどおりの態度で、気が向いたときにはパンチを喰らわせようとしている。
ガラトラ猫はシッポをまいて逃げるばかりだ。
なぜうちの猫の横暴がまかり通っているのかは、よくわからない。
猫の社会は難しい。
***
窓の外を見るとチラホラ雪が舞っていた。
僕が雪を眺めていると、シマシマシッポも隣に座る。
キョロキョロと見回し、耳を動かして、シマシマシッポも雪に興味があるようだ。
「ちょっと外に出てみますか?」
窓を開けると、外の臭いを嗅いでさんざん迷って、ようやく足を踏み出した。
いざ外に出てみると舞い落ちる雪が気になって仕方がないようで、ときおり空を見上げながら、庭を駆け回っている。
――もう走れるようになりましたね。良かったですねー。
ケガをしてから、数日。
シマシマシッポはまだちょっと足を引きずっていたのだ。
見た目は完全に治っているのに引きずるので、病院に連れていったほうがいいだろうかと迷っていたところだった。
元気に走り回っている姿を見て、ホッとする。
しばらくすると、家の中にシマシマシッポが戻ってくる。
僕の前をウロウロして、それから突然、ピョコピョコと足を引きずり始めた。
――んん? いまさっき、元気に走ってましたよね……?
ソファーに座るとシマシマシッポも隣に横たわり、平べったくなる。
――うーん? もしかして、仮病を使ってますか?
前足を確認すると、やはりもうケガの跡はない。
――甘えたかったのかもしれませんけど、心配するからやめてくださいね。
幸せそうに眠るシマシマシッポを眺めて、もう少し仮病に付き合おうかな、と思ったのだった。




