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雪の日のちいさな足あと

 朝早く出かける。

 この日は珍しく雪の降っていたから、徒歩だ。

 まだはやい時間で、車も通っていないから、まっさらな雪が道路に積もっている。


(へえ、早起きもいいものですね)


 歩いていると、ちいさな足あとが現れる。

 猫の足あとだ。

 くっきりと、一直線に続いている。


(わっ、この子はいったいどこに行ったんでしょう?)


 跡をたどってみると、結構な長距離を移動している。

 行く先が決まっているのか、迷う様子もない。

 しばらく歩いて道を曲がり、山の方へ向かっていった。


(気になりますけど、僕はこっちに行かないといけないんですよね……。もっとはやく家を出てれば会えたのかな?)


 と後ろ髪を引かれつつ、足あとを見送ることになった。


***


 雪の日は、やはり家の中のほうが居心地がいいようだ。

 うちの猫はヒーターの前、シマシマシッポは洗濯物の中で暖を取っていた。


(同じ部屋にいてもケンカせずにおとなしくしてますね。いいことです)


 と見ていると、シマシマシッポがウロウロしだした。

 どうやらヒーターにあたりたいらしい。


 だがヒーターの前はうちの猫の場所だ。

 譲るつもりはないようで、警戒するようにピクピクと耳を動かし、ときおりシッポを床に叩きつけて威嚇している。

 シマシマシッポは遠巻きにうちの猫の様子をうかがいながら、部屋の隅をウロウロする。


(一緒にヒーターを使うのは無理でしょうか……)


 シマシマシッポが爪とぎを見つける。

 隠れるように身体を縮めながら、コソコソと爪をとぎ始める。

 その音に、うちの猫の耳がピクリピクリと反応する。

 うちの猫に睨まれると、さらにギュッと身体を縮めて、撫でるように前足を動かしている。


(たしか爪とぎをするときって、イライラしているときなんですよね……)


 近くにヒーターがあるのに全然場所を譲って貰えない状況にイライラしているのだろう。

 一方、うちの猫も爪とぎの音にイライラし始めたようだ。

 そろそろ飛びかかるかもしれない。


(止めたほうがいいかもしれませんね)


 と思っていると、シマシマシッポの様子が変わった。

 あお向けになり、クネクネと身体を床にこすりつけている。


 うちにある爪とぎはダンボール製のものだ。

 ダンボールの断面部分が見えるように敷きつめられ、板状になっている。

 安くて、それなりの強度があるすぐれものだ。

 削れて紙くずが撒き散らされるのが欠点だけれど、これはまあ仕方がない。

 オマケとして、マタタビパウダーが付属していて、マタタビの香り付き爪とぎとして使うことができる。


 うちの猫にはほとんど効いていなかったマタタビパウダーだが、この日のシマシマシッポには、効果はばつくんだったらしい。

 ゴロゴロと転がりながら爪とぎに手を伸ばす。

 抱きかかえようとして、うまくいかずに飛び起きる。

 爪とぎに覆いかぶさり、ペロペロと舐め始める。

 一瞬正気に戻ったようにキョロキョロとし、またベタリと寝転んで、爪とぎを撫でる。

 そこからあお向けになり、またクネクネだ。


 うちの猫はじっとその姿を観察していたが、ジワジワと後退を始めた。


(えっ、うちの猫が押されている……?)


 シマシマシッポの行動に戸惑った様子で、「あの子、なんなの……」とチラチラ見ながら逃げていった。

 シマシマシッポのほうは、爪とぎに夢中なままだ。


(うーん? これは止めたほうがいいんでしょうか。楽しんでいるようでもありますし……)


 ひとまず放置して、気の済むまで爪とぎを楽しませることにしたのだった。


***


 しばらくして、シマシマシッポが外に行きたいと要求してきた。

 僕が玄関のドアを開けると元気よく飛び出していく。

 すぐに「ギャー!」「ウアーオ!」と鳴き声が聞こえ、慌てて僕も飛び出すと、ガラトラ猫に追われて木の枝の上に追い詰められているところだった。


(あの一瞬でここまで追い詰められたんですか……。今日は運が悪い日ですね……)


 ガラトラ猫を追い払い、「もう大丈夫ですよー」と声をかけるが、シマシマシッポは枝から降りようとしない。

 身体をまん丸にして膨らまして、固まったままだ。


「もう今日は家の中で過ごしましょう。外はまた今度でいいでしょう。ヒーターの前も使えるようにしますから」


 細い枝の上で、いかにも不安定な様子なのに、シマシマシッポは動かない。


「降りましょうよ……。このままだと僕が風邪をひいてしまいます……」


 シマシマシッポの乗る枝を見上げ、一度コートを取ってきたほうがいいかなと思いながら、僕の説得は続くのだった。

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