シマシマシッポの足の怪我
「あらら、また怪我したんですか?」
シマシマシッポが妙な歩き方をしていた。
後ろ側の左足が床につかないように、ピョンピョン跳ねながら移動している。
「うーん、なんで怪我しちゃうんでしょうねー?」
ボスとシマシマシッポはときどき怪我をする。
一方うちの猫は滅多に怪我をしない。
――オス猫はいろいろあるんですかね……。
シマシマシッポが床にベタリを寝ころんでしまった。
どこかに行こうとしていたが、諦めたようだ。
「困りましたねー。はやく良くなるといいんですけど」
とりあえず頭を撫でると、喉をゴロゴロ鳴らしていた。
足を触らないように抱きかかえて、お気に入りの座布団の上に寝かせると、目をつぶって、丸くなってしまった。
***
その後もシマシマシッポは元気がない様子で、家の中で寝てばかりいた。
ときおり思い出したように、ご飯を食べに行く。
――お水も飲んでいるし、すぐに病院に行かなきゃいけない感じでもないですよね……。
足には目立った怪我はない。
――よく寝るだけで、一見なんともないように見えますし……。
寝て食べてを繰り返しているせいで、お腹がポッコリしてきているようにも感じる。
――まあしばらく様子見でしょうね。
お腹を撫でているとうちの猫が近づいてきた。
シマシマシッポを睨んで、身構えて、飛びかかるか迷っている様子だ。
散々迷って、ぷいっとそっぽを向いて、鼻を鳴らして去っていってしまった。
***
流石にずっと寝てばかりはいられないようで、シマシマシッポが玄関を開けてとアピールをしている場面に遭遇した。
足はまだ少し引きずっている。
「ちょっとは良くなってきたってことですか? 治りきってないみたいだし、気をつけてくださいねー」
と僕は軽い気持ちで送り出してしまった。
***
「アーオ、アーオ!」
「ウワーオ!」
猫の鳴き声が近くで聞こえた。
――この感じはケンカをしてますねー。
のんびりコーヒーを飲みながら、僕はそんなことを考える。
「ウワーオ、ナアーンアー!」
「ナアー、ンギャー!」
と鳴き声がいっそう激しくなった。
ケンカの決着がつこうとしているようだ。
――こんな近所でいったいどこの猫が……ああっ!
僕は立ち上がって家から飛び出した。
シマシマシッポかもしれない。
普段から弱気なシマシマシッポだ。
怪我をしている状態でケンカをしたら、まったくたちうちできないだろう。
うちの家の裏には、草が生えて藪のようになっている場所がある。
その中から猫の声はしていた。
――これじゃあ誰がケンカしているのかわからないですね……。
草が多くて足もとも見えない。
何が潜んでいるかわからないし、できれば入りたくない場所だ。
――シマシマちゃんかもしれない……というか、ほぼそうだという気がしますし、ええい!
藪の中に思い切って飛び込む。
ガサガサと争っている音は聞こえる。
「こらー! 何してるんですか! やめてください!」
と呼びかけながら、そちらに近づく。
すぐに見つかった。
シマシマシッポを組み伏せるトラ柄模様の猫。
ガラの悪いガラトラ猫だ。
「またシマシマちゃんをイジメて!」
背中を叩くとようやく逃げていった。
シマシマシッポはペタリと座り込んで、逃げだす元気もないようだった。
「もう大丈夫ですからね。家に帰りましょう。気づくのが遅くなってすいません……」
と抱きかかえる。
シマシマシッポのシッポは、普段の倍以上に膨らんでいた。
――怖かったんですね……。災難でしたね……。
お腹もポッコリしているし、これはもうほとんどタヌキだな、と思いながら、家へと向かった。
***
それからはまた、シマシマシッポはうちの中で過ごすことになった。
怪我が治るまでは仕方がない。
うちの猫はシマシマシッポばかり構って貰えるのが気に入らないようで、僕の部屋に顔を出すようになった。
少し離れたところに座り、毛づくろいをしてみたりする。
僕がおでこを撫でて、
「はい。シマシマちゃんを叩いたりしてないし、お利口さんですね。さすがですよ」
と言うと、シッポをピンと立てて、「当然でしょ!」とすました顔で部屋から出ていくのだった。




