うちの入れない窓
「あらまー、仲良しさんじゃないですか」
と僕は立ち止まった。
リビングのソファーの上でうちの猫が寝ている。
近くの床ではシマシマシッポが寝ている。
二匹ともぐでんとからだを伸ばして、リラックスしている。
かなり仲が良さそうな、幸せそうな、二匹の猫の光景だ。
僕がやってきたことに気づいて、シマシマシッポが薄目を開けた。
ゴロンと仰向けになって、「アオゥ……」と甘えた声を出す。
そのまま、また寝てしまった。
次にうちの猫が、目を覚ます。
ぐぐっとからだを伸ばして、いま気づいたという風に、シマシマシッポを見つめる。
いきなり、「フゴォー!」と威嚇をする。
びっくりするような、大きな威嚇だ。
そして、ソファーから飛び降りると、やるべきことはやったというように、澄ました顔でトコトコ歩いていってしまった。
シマシマシッポは仰向けのまま、キョトンとした顔をしている。
「本当にもう……」
僕もとっさのことでなんの反応もできなかった。
――そっと寝かせておいたほうが良かったのかもしれませんね……。
うちの猫の扱いはなかなか難しい、とあらためて思ったのだった。
***
「ウウーン、ウウーン」
うちの猫の悲しそうな声がした。
この声で鳴くのは、だいたい家の中に入れてほしいときだ。
「はいはーい。いま開けますからねー」
と声のする場所を探す。
――あれ? 窓は開いてますね?
開いた窓の向こうから、悲しそうな鳴き声が続いていた。
――どうして入ってこないんでしょう……。ってこれは!
窓枠にシマシマシッポがベッタリと長くなって、寝そべっていた。
これではうちの猫が家の中に入ろうと飛び込んできたら、シマシマシッポの上に着地することになってしまう。
「シマシマちゃん……」
シマシマシッポがキョトンとして、僕を見つめた。
外では相変わらずうちの猫が悲しそうに鳴いている。
シマシマシッポが着地地点を完全にガードしているので、窓が開いていても、入ってこれないのだ。
「これはさすがにわかっててやってますよね……」
うちの猫の鳴き声にも、シマシマシッポは気づいていないフリをしている。
「意地悪しないでくださいよ」
おでこをペチンと叩いても、「なんで?」という顔をするばかりで動こうとしない。
「もう、ほら、こっちにきてください」
とシマシマシッポを抱きかかえて床に降ろすと、すぐさまうちの猫が飛び込んできた。
怒りで鳴き声も出ないという様子で「フフン」と鼻を鳴らし、からだを震わせて、走り去っていく。
シマシマシッポがピンと耳を立てて、興味津々という顔でうちの猫の後ろ姿を見つめる。
そして、すこし離れてトコトコついていってしまった。
――うーん、構ってほしくてやったことなのかもしれませんが、これは逆効果だと思いますよ……。
と呆れつつ、僕は二匹を見送った。




