バッタと悲しい鳴き声
廊下に寝ているシマシマシッポを見つけて、おでこを撫でる。
はじめのうちはおとなしく撫でられるシマシマシッポだが、次第に僕の腕を叩いたり、噛むまねをしたりして、じゃれついてくる。
最近では恒例になっている光景だ。
突然シマシマシッポがピタリと止まって、何もない壁を見つめた。
獲物を見つけたときの目だ。
じっと視線をそらさない。
――猫ってときどきこういう行動をするんですよねー。何が見えているんでしょうか。
シマシマシッポが壁に走っていく。
壁をペシペシ叩いている。
よく見ると、その手の先に、小さなカマキリがいるのだった。
10センチもないくらい。
カマを壁に引っ掛けて、器用によじ登っていた。
「あらー、カマキリじゃないですか。よく気づきましたねー! 僕は気づきませんでしたよ」
シマシマシッポは僕の言葉には反応せず、一心不乱にカマキリを見つめていた。
ちょいちょいと前足でカマキリを叩き落として、すぐそばに座り込む。
カマキリがヨタヨタと逃げていくのを興味津々という顔で眺めて見送る。
そして、おもむろに立ち上がり、壁をよじ登るカマキリを叩き落とす。
――やっぱりいったん逃がすんですね。猫の習性なんでしょうか。うちの猫もしてましたし……。
そんなことを繰り返していると、カマキリが逃走を諦めたらしい。
シマシマシッポの前足にカマで攻撃し始めた。
小さなカマだから痛くはないだろうけれど、挟まれてビックリしたようだ。
プルプルプルと前足を振ってカマキリを振り落とし、「なにこれ!?」という顔で僕を見つめる。
そしてまたカマキリにちょっかいを出して、カマで挟まれ、僕を見つめる。
――僕を見てもカマキリは攻撃をやめないんですよ……。
何度もカマに挟まれながらも、シマシマシッポはしばらくのあいだ夢中になってカマキリで遊んでいた。
***
二階の窓の外でドタンバタンと音がする。
――うん? なんの音でしょう?
と思いながらも確認せずに聞き流していたら、うちの猫の悲しそうな鳴き声が聞こえてきた。
慌てて窓を開ける。
――最近こっちの窓から入ってこなかったから油断してました……!
うちの猫は屋根にペタリと座り込み、「ウウーン」と悲しそうな声をあげている。
入りたいときに入れなかったのがショックだったようだ。
「違うんですよ。イジワルで締め出したんじゃないんですよ。油断してただけなんですよ」
窓を大きく開いて、「ほら、ここですよ! もう開いてます!」と言ってもうちの猫は飛び込んでこない。
「フゥーン……」と鳴いて、横たわってしまった。
「ほら、こっちです!」
僕が窓から身を乗り出して手を伸ばすと、ジワジワと後ずさりをして、手が届かない位置に移動してしまった。
――なぜ逃げるんですか……。
放っておけばそのうちに入ってくるかな、とも思ったけれど、悲しそうに鳴かれては放っておくこともできない。
――ええい、どうすれば……。僕が屋根に降りるしかないんですか……!? 何かほかに方法は……。
しばらくあたふたして、ネズミを窓のそばで振り回すことで、ようやく部屋の中に入ってきてくれた。
部屋の中でも「フゥーン……」と鳴いている。
「いまからオヤツを食べましょうね」と食べ物で釣ることで、ようやく機嫌を直してもらえた。
それからしばらくして、また窓の外で「ウウーン」と悲しそうに鳴くうちの猫の声が聞こえた。
――もう! なんで同じことを繰り返すんですか。
と思いつつ、僕は慌てて窓を開けるのだった。




