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バッタとグッタリ猫

 うちの猫がリビングの床に寝ていた。

 僕が朝食の準備でキッチンと往復する。

 すると、横たわったまま、僕の足音に反応して、耳をパタパタと動かしていた。


「朝からグッタリしちゃって……どうしたんですか? お疲れですか? 夏バテですか?」


 と近づいても動く様子はない。

 寝転んだままだ。

 じっとしているのをいいことに、眉間の辺りを指でなぞってみる。

 喉を鳴らして目を細めていた。


「へへへ、気持ちいいですかー? ほれほれー」


 喜んでいるようなので、そのまま撫で続けていると、突然「カッ!」と声を出して、僕の手を噛む真似をした。

 急に撫でて欲しくなくなったらしい。

 猫の気分は変わりやすいし、うちの猫は特にそうだ。

 いまは僕を睨みつけて、腕にじわじわと爪を立てている。


「イタタ、なんで……。ついさっきまでご機嫌だったのに……」


 と慌てて離れる。

 うちの猫は最初と変わらず、寝転んだままの体勢だった。


 ふと気がつくと、壁際の床に、どこから入ってきたのかバッタがとまっていた。

 パタパタ……と頼りなく飛んで、着地する。


「あっ、いいもの見つけましたよ! ほら! これ見てくださいよ」


 バッタを捕まえてうちの猫の鼻先に持っていくと、鬱陶しそうに目を細める。

 手を離すと、パタパタ……とバッタが飛んでいく。

 うちの猫は横たわったままそれを見送って、「フンッ」と鼻を鳴らしていた。


***


 ――やっぱり夏バテなんでしょうねー。それか、たまたまテンションが低かったのか。


 うちの猫に相手をしてもらえずに、ため息をついていると、廊下にシマシマシッポが横たわっているのを見つけた。


「あらー、シマシマちゃんもグッタリですか?」


 シマシマシッポをひっくり返して、あお向けにさせる。

 顔を近づけようとすると、前足で僕を鼻をピタッと押さえて抵抗してくる。

 もちろん肉きゅうタッチで、だ。

 そうして前足を使わせておいて、僕はからだを撫で回した。

 肉きゅうの感触を味わいながら、好きなだけ撫でることができるという高等テクニックだ。

 うちの猫にこんなことをすると、すぐさま引っかかれてしまう。


「ふふふ、シマシマちゃんには容赦しないんですよ! それそれー」


 シマシマシッポは「どうしよう」という表情でキョロキョロ見回して慌てていた。

 必死にからだを捩らせ、逃げ出してしまう。


「あはは、さすがに嫌でしたか」


 触りすぎたせいか、ちょっと警戒している様子だった。

 安心してもらえるまで、「怖くないんですよー。大丈夫ですよー」と声をかけることになってしまった。


***


 シマシマシッポは妙に臆病なところがある。

 特に、ガラトラ猫に対しては臆病だ。

 姿を見ると、家の中に逃げ込んでしまう。

 ガラトラ猫のほうはふてぶてしいというか、僕が「シマシマちゃんをいじめないでください!」と追いかけても、慌てずにその場を去るタイプの猫だ。


 この日も庭でガラトラ猫を見かけた。

「また来ましたね」と僕は身構えていたのだが、どうもおかしい。


 ――なんか大きさが違うような……? あっ、シッポの形も違いますね。


 この付近の猫は、同じ柄の猫が何匹かいることが多い気がする。

 シマシマシッポとポッチャリも同じ柄だ。

 そしてこのとき目の前にいたのも、ガラトラ猫とそっくりな柄の猫だった。


 ――あっ、そうだ! この猫に慣れればガラトラ猫を克服できるんじゃないでしょうか。


 そんなことを思いついて、家の中で寝ていたシマシマシッポを抱えて外に出ると、ガラトラ猫のそっくりさんは、藤だなの下でじっとして待っていた。


「ほら、これなら怖くないでしょう」


 とシマシマシッポを地面に降ろすと、脇目も振らず、まっすぐに玄関の中へ駆け込んでいった。

 同じ柄ならやっぱり怖いみたいだ。


***


 夕方、窓の外でうちの猫が鳴いていた。


「はいはい、いま開けますよー」


 と窓を開く。

 うちの猫が、ひょいと飛び込んでくるのを待っていたのだが、なかなかやってこない。

 外を確認すると、窓のすぐ下で寝そべっていた。


「うーん? どうしたんですか?」

「フゥーン」

「あの、蚊が入ってくるからはやく閉めたいんですけど……?」

「フーン」


 声をかけてもうちの猫は動かない。

 何かを訴えかけているようだ。


 ――まさか、ケガをして動けないんですか!?


 と駆け寄ると、ケガをしている様子はなかった。

 念のために抱きかかえて家の中へ入り、ソファーに降ろす。


 ――どうしたんでしょう……。朝もグッタリしていたし、ひどい夏バテで体調を崩したんでしょうか……。


 と考え込んでいると、うちの猫がむくりと起き上がり、エサ入れに駆け寄った。

 そしてカリカリを熱心に食べ始めた。

 軽やかな動きだ。


 ――あれ? なんか元気っぽいんですけど……。


 うちの猫がちらりと振り返って、「食事中にジロジロ見られたくないんだけど」という風に、睨んでくる。


 ――これ、元気だ……。まさか窓から入ってくるのが面倒くさくて僕に運ばせたってことはないですよね……。そんな猫いますか……?


 でも夏バテで無気力になって僕をこき使うというのは……うちの猫らしいと思った。

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