表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/215

うちの猫の救出

 猫は高いところが好き、と聞いたことがある。

 うちの猫を見ていると、やっぱりそうなのかもしれないと思う。何かの上によじのぼっている姿を見ることが多い。





 よくいるのが電気ポットのふたの上だ。これは温かいから、というのもあるのだろう。


 ふたに身を縮みこませて乗っているのを見かける。ふたは狭いのでからだが半分落ちて、変な姿勢でテーブルに片足をついたりもしている。

 そういうとき、本人はいたって真面目な顔をしている。



 この電気ポットはなかなか優秀で、熱いお湯を提供するため、定期的に自動で水を沸騰させる機能がついている。


 どういう判断のもとで沸騰させようとするのかはわからないけれど、電気ポットなりのタイミングでいきなり沸騰が始まる。そうすると、ふたの排気穴から蒸気が噴き出してくる。


 うちの猫はそれを見ると、


「うわあ、始まったわね……」


 というなんともいえない表情になり、蒸気が出てくる穴から少し体をずらす。


 ずらしたところで体はふたの上に乗っかったままだから、蒸気がかかってしまう。


 見ていて心配になる光景だけど、猫にとっては体をずらしたことで解決済みの問題のようだ。

 ふたの上で澄ましてじっとしている。





 冷蔵庫の上にいることも多い。


 これがなかなかやっかいで、ただ乗っているだけじゃなくて、冷蔵庫の扉に前足をかけるようにして座っている。


 扉を開けると当然猫の体勢が崩れる。

 そうすると、


「わたしが座ってるでしょ!」


 というように「シャー!」と背中の毛を逆立てて怒ってしまう。

 あわてて用事を済ませて扉を閉めることになる。


 毎回だからいいかげん学習してほしいのだけど、扉に前足をかけるのは猫にとっては譲れないことらしい。





 もっと高いところに登っていたこともある。

 本棚の上だ。


 最初は気づかなかった。どこに行ったのか探していたら、「ニャー」という声だけが聞こえた。

 声のほうを向くと、うちの猫が本棚の上から見下ろしていた。


 目が大きくなって、耳がピンと立って、興奮している……というよりもドヤ顔に見えた。


「どうやって登ったんですか? 危なくないですか? というか降りられますか?」


 うちの猫がそんなところに登っているのを見るのは初めてだ。

 少し心配になって、僕は手を伸ばした。



 本棚の上は、僕の指の先がようやく届くくらいの高さだった。

 猫は指先をじっと見ていた。


 だんだんと体が斜めになっていき、ちょうど首をかしげているように見える体勢になった。


 さらに、首をかしげたまま前足をそっと伸ばしている。どうするのかと見ていると、伸ばした前足でペチンと僕の指先を叩いた。


 すぐに体を引っ込めて、僕の様子をうかがっている。

 そのままじわじわと前足を伸ばして、またペチンと叩く。


 ――何をやってるんですか……。


 遊んでいるつもりなのだろう。高いところに登ってテンションがあがっているのかもしれない。猫は僕の指をペチンペチンと叩き続けていた。


「遊んでいるんじゃあないんですよ……。降りましょうよ……」


 猫は聞く耳を持たなかった。


 ついには僕の指を前足で挟んで、カプッと噛んだりし始めてしまった。

 もちろん本気で噛んだりはしていないし、前足の爪も引っ込めている。


 ただ、こちらは心配しているのに、こんなふうに遊ばれているのはかなわない。猫がぎりぎり僕の手の届かないところにいるせいで、一方的にやられているだけだし……。


 そこで僕はうずくまった。


「あー! いたーい! いたたたた! これは痛いなー!」


 猫はぎょっとした顔で見下ろしていた。


「心配してるのにこんなことをするんですかー。それならもう知りませんよ。降りられなくなっても知りませんからねー。自分で降りてくださいねー」


 そう言って、僕は部屋を出ていった。


 ――登れたんだし、降りるのも自分でできるだろう。心配ないか。


 ということを考えていた。

 もちろん部屋を出たあとも耳をすませてしっかり猫の様子をうかがっていた。



 しばらくして、「あおーん、あおーん」という悲しそうな鳴き声が聞こえてきた。

 まあ、予想通りだ。

 

「本当に仕方がないですねー」


 と言いながら、僕は用意していた脚立を持って、うちの猫の救出へ向かった。





 その後、うちの猫は自分で本棚から降りることができるようになった。

 といっても、飛び降りるのは無理らしい。まだ一度も見たことがない。



 登るときのルートは、カーテンに爪を引っ掛けて一番上までロッククライミングのようにして登り、そこからカーテンレールに乗ってジャンプして本棚の上、という順番だ。降りるときはそれが逆になる。


 考えてみてもらえばわかると思うけど、「カーテンに爪を引っ掛けて一番上までロッククライミングのようにして登り」の部分を逆向きに辿るのはかなり無理がある。


 うちの猫もなんとか頑張ってはいるけれど、カーテンに爪が引っかかったまま取れなくなったりして、どうにもならなくなることがある。


 そうすると、また、


「あおーん、あおーん!」


 とうちの猫が鳴き、そのたびに僕が、


「本当に仕方ないですねー」


 と言うことになる。



 いつもは強気なうちの猫もそういうときは「ふうん」と甘えた声を出して……すごくかわいい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ