窓ごしの猫たち
家に帰ってくると、窓ごしに猫を見つけることがある。
窓のすぐそばに置いた座布団の上で、日向ぼっこをするように座っているのだ。
この日はシマシマシッポを見つけた。
窓の外に背を向けて、丸くなっている。
――あらー、リラックスしていますね。まるで自分の家のように……。
トントンとガラスを指で叩くと、「うん?」という様子で顔を上げる。
僕が窓の外にいることに気がついたようだ。
なんとか振り向こうとしている。
――あはは、横着ですね……。
背中を向けた姿勢のまま、首だけ動かして振り向こうとしている。
無理な体勢なので、なかなか上手くいかない。
しばらく苦戦して、諦めたように横たわる。
そして、ゴロリとからだを回転させて、お腹を僕の方へ向けた。
横たわったまま、僕を見つめてパチパチとまばたきをする。
――本当に横着な……。
前足を伸ばしてガラスに肉球を当てるので、僕も指先を当てて見つめ合っていた。
うちの猫を見かけることもある。
僕が見ていると、「ウーン」と伸びをして起き上がる。
そしてちょこんと前足を揃えて座る。
――えー、なんかかわいい座り方ですねー!
あくびをして口の周りを舐めたり、顔の毛づくろいをして、またちょこんと前足を揃える。
――よそいきというかお澄まししているような……。
もしかすると、僕だと気づいていないのかもしれない。
よそのひとが来たのでかわいい猫のアピールをしているんじゃないかというような行動だった。
――なんにせよ、このかわいい姿は近くで見たいですね!
と家の中に駆け込むと、窓のそばに、うちの猫の姿はもうないのだった。
***
シマシマシッポに「おはようございます」と声をかけると、タッタッタッと僕の前を走っていった。
この日は僕のテンションが高かった。
「待ってくださいよー」と走るシマシマシッポを追いかける。
廊下に出ると、シマシマシッポがぐるりと回り込もうとしているところだった。
「あはは、待て待てー」と走る。
リビングを一周して、シマシマシッポのスピードが速くなる。
「それそれー!」
「フルルル」
シマシマシッポはなぜか階段を駆け上がり、急いで降りてくる。
「あはは、疲れましたねー。もう終わりです」
と僕は朝食へ向かった。
朝食を終えて見回すと、シマシマシッポの姿はない。
――うーん? どこでしょう?
シマシマシッポがいそうな場所をひととおり見ても、いない。
しばらく探し続けると、ふとのぞいたクローゼットの奥に座っていた。
「あー、こんなところにいたんですか?」
「ハホーウ」
「珍しいところにいますね。出てきてくださいよー」
「アーウ」
シマシマシッポは動こうとしない。
首を縮めて小さくなろうとしているように見える。
「どうしたんですか?」
「ハウー」
「えっ、もしかしてさっき走り回ったの嫌だったんですか? 怖かったですか?」
「アーウ」
考えてみれば、自分の何倍もある生き物に追いかけられれば怖いかもしれない。
「えー、そういうんじゃないんですよ。遊ぼうと思ったんですよ」
「ハウン」
「あらー、しまったなあ」と思いながら、しばらくそっとしておくことにした。
リビングの掃除をしておこうと座布団に手をかけたとき、何かが乗っていることに気づいた。
――これは……毛玉!
座布団が毛玉と一緒に吐き出したもので汚れてしまっている。
「もーきちゃないんだからー。しょうがないですねー」
と座布団カバーを外して、手で洗ってから洗濯機へ放り込む。
毛玉を吐き出すのは、まあ猫だから仕方がない。
うちの猫もシマシマシッポもトイレはちゃんとできるけれど、毛玉を決まった場所に吐くのは難しいらしく、ときどき廊下に落ちていたりする。
――あれ? もしかしてこれで怒られると思ったんでしょうか。
とクローゼットの奥で小さくなっていたシマシマシッポを思い出す。
「こんなことで怒らないですよー」
と言いながら、階段を上り、クローゼットへ向かった。




