うちの新しい住人
猫とは別に生き物を飼ってみようかという話になったことがある。
エサ代が大変だから、飼うならなるべく小さい動物のほうがいい。
例えばインコとか。
――でも絶対、うちの猫が喜びますよね……。
目を見開きギラギラと輝かせて、ケージの中のインコをじっと狙ううちの猫の姿が容易に想像できる。
――もって3日でしょうか……。
3日というのは、インコの寿命のことだ。
さすがにうちの猫のオモチャとして生き物を飼うわけにはいかない。
――魚とかなら……。
水槽の中に金魚が泳いでいる様子を想像する。
想像の中でも、すぐにうちの猫がやってくる。
水槽の前で首を傾げて金魚を観察している様子だ。
僕がちょっと目を離したすきに、水槽の周りの床が水びたしになっていて、そこに金魚が横たわっている。
金魚がビクンと跳ねるたびに、うちの猫も反応して、前足を繰り返し叩きつけていた。
――想像ですけど……実際にしちゃいそうですよね……。
結局生き物を飼うのは難しいということになった。
一方シマシマシッポは、もはやほとんどうちの猫になっていた。
僕が帰ってくると、足元で見上げて、玄関のドアを開けるのを待っている。
ドアを開けるとまっすぐお気に入りのソファーへ向かう。
とはいえ、うちのなかをむやみにうろつくわけではなく、リビングでくつろぐばかりで、僕の部屋に勝手に入っていることがほとんどないのはシマシマシッポなりに気を使っているのかもしれない。
ソファーに寝転ぶシマシマシッポを触っていると、妙な感触がした。
――ええ? またですか?
シマシマシッポの毛皮に植物の種が絡みついている。
「うちの子は種がついていることなんてないですよ? こんなについていたら気持ち悪いでしょう?」
と尋ねると、本人としてはそう気にならないようで、気持ち良さそうに目を閉じていた。
「うーん……。まあ僕が気になるんで、取りますよ」
と触ってみると、種はかなり固く絡まっていた。
ちょっと引っ張ったくらいでは取れそうにない。
「えー、なんでこんなことになっちゃうんですか……」
無理に引っ張ると痛そうなので、少しずつ毛をほぐして種を取りのぞく。
こうして気をつけてはいたものの、やはり毛を引っ張ってしまっていたようで、ときおりシマシマシッポが首を持ち上げて、「ウーン」と唸っていた。
「我慢してください。もうちょっとで全部取れ……まだありますね……。これはキリがないですね……」
「ウアーオ」
シマシマシッポが僕の手に顔を近づけて、ゆっくり口を開けて噛む真似をした。「もう我慢できないよ?」という様子だった。
「怒っちゃいましたか。ここまでにしておきましょう。もうこれ以上種をつけないようにしてくださいね」
「アオ」
わかったのかわかっていないのか、とにかく返事だけは帰ってきた。
――たぶんまた種をつけてきますよね……。
そのときはまた取るしかないか、と思った。
ちなみに取りのぞいた種をうちの猫のお腹につけてみたら、「何か変なのがついたわよ!?」というように「ウウーン」と鳴いて、足をピンと伸ばしたつま先立ちのような状態で、チョコチョコと移動を始めた。
からだも傾いてしまっているし、うまく歩けないらしい。
「あはは、ごめんなさい。すぐに取りますからね。ほら、もう大丈夫ですよ」
と種を取りのぞくと、「本当になんなのよ、もう。本当に困っちゃう! お腹に変なのがついたじゃない!」といったようすで、ひたすらお腹の毛づくろいをしていた。




