うちの猫トレーニング
電気を消して、いまにも眠りにつこうとしている僕の顔の近くで気配がした。
ゴロゴロという音と、フウフウという息づかい。
いつの間にかうちの猫が枕元にきていたようだ。
うちの猫はときどきこういう行動をする。
――なんでこんな近くで見ているんですか……。
と思いながら、寝たふりをしていると、モゾモゾと布団を押しのけ始めた。
僕の肩のあたりから、布団の中へ潜り込もうとしている。
――わっ、今夜は一緒に寝ますか! いいですね!
と思っていると、モゾモゾがピタリと止まった。
僕が起きていることに気づいたようだ。
スッと気配が去っていく。
――ああ、残念ですね……。
と布団の中でため息をついた。
しばらくすると、布団の上に重みを感じた。
うちの猫が戻ってきたようだ。
僕のお腹の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。
――布団の中に入ればいいのに……。
と待っていると、うちの猫は掛け布団を前足で交互に押さえ始めた。
トントンと一定のリズムで、肩たたきをするように前足を動かしている。
喉のゴロゴロが大きくなっていく。
――これはお母さんに甘えるときのやつですよね。
機嫌も良さそうだったので、好きにさせることにした。
じっと動かず、うちの猫の邪魔をしないようにする。
うちの猫が押さえているのは、ちょうど僕のみぞおちのあたりだった。
うちの猫は軽いし力も弱い。布団越しにみぞおちを押さえられても痛くもかゆくもない。
だが繰り返し押さえられるうちに、だんだんと苦しくなってきた。
――ぐう、腹筋に力を入れればこれくらいなんともないですが……。
ご機嫌な様子で、うちの猫は僕のみぞおちをひたすら押さえつけている。
いつまでもやめようとしない。
やめてくれない。
――ぐぐう……。寝られないですね……。
暗闇の中で、僕は腹筋に力を入れるトレーニングとともに、寝たふりを続けることになった。
リビングでシマシマシッポを見つけ、顔を近づけてみた。
ブウブウと小さく鼻を鳴らしている。
「あはは、ブウブウって、猫の鳴き声じゃないですよ。もう、おデブちゃん!」
ぽっこり膨らんだお腹をさすると、「困ったなあ」という顔で、からだをクネクネさせている。
抱き上げて、さらに撫で回そうとすると、やけに重い。
「よいしょ」と思わず声が出てしまうくらいの重さだ。
――もうボスよりも確実に重くなっていますね……。
ダンベルとどちらが重いかな、と考えながら上げ下げしていると、さすがに居心地が悪かったようで、僕の腕から飛び降りてトコトコ走って逃げてしまった。
うちの猫を見つけたときにも持ち上げてみた。
お腹に腕を回し、慎重に抱える。
機嫌が良かったのかうちの猫は特に怒ることもなく、前足と後ろ足をピンと伸ばしたまま空中に浮かび、僕の腕の中で「何なのよこれ……」という顔をしていた。
重さはびっくりするほど軽い。シマシマシッポと同じ生き物とは思えないほどだ。
「やっぱり軽いですよね……」
最近はご飯をたくさん食べている印象だったけど、体重は増えていないようだ。
「ご飯、食べましょうか?」
うちの猫を床に降ろす。
シマシマシッポと比べるのが間違いかもな、と思いつつも、エサ入れにカリカリを準備する。
うちの猫はエサ入れの前で、前足を揃えて上品に座り、「私、これだけじゃあ食べないわよ」という顔で、僕がかつお節をかけるのをいつまでも待っていた。




