シマシマシッポのご機嫌ナナメとうちの猫のお見通し
お正月は何事もなく、ゆっくりと過ごせた。
子供はお母さんの実家の方へ行ったらしい。
うちの猫は逃げ回るのにつかれたのか、ずっと僕のベッドで丸くなっていた。
お腹を半分見せて、ずいぶんリラックスしているようだ。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますねー」
と言いながら触ろうとすると、閉じていた目をぱっちり開いた。
寝転がった体勢のまま、近づいていた僕の手に、前足を乗せて、ぐぐっと力を込めている。
軽く爪もたてている。
「痛いですよー、もう」
ここで慌てて手を引っ込めようとすると、すかさず追い打ちをかけられ、場合によっては腕を抱きかかえてからの連続キックをもらうので、ゆっくりと手を引いていく。
うちの猫は「フンッ」と鼻を鳴らして、また丸くなり、目を閉じた。
「もう! そういうことならシマシマシッポをかわいがっちゃいますからね」
お正月でテンションがいつもよりも高めだった僕は、シマシマシッポを探すことにした。
シマシマシッポは庭先ですぐに見つかり、なんの抵抗もなく僕に捕まった。
リビングのストーブの前に座布団を敷いて、そこに寝転がらせた。
お腹をポンポンと叩くと、前足をピンと突き出して、軽く伸びをしている。
「シマシマシッポは撫でられるの、好きですもんねー。今日はいっぱい撫でまわしちゃいますよ」
とあお向けにさせて、撫でまわす。
撫でながら、ふと、自分の言葉が気になった。
――シマシマシッポは本当に撫でられるのが好きなんでしょうか?
シマシマシッポはあまり喉を鳴らさない。
目を細めたりもするけど、キョトンとした表情のことが多い。
いまもされるがままで、「どうかした?」という顔をしている。
――あれ? これって無抵抗なだけで喜んでないってこともありえますか?
そんなことを思った。
「撫でられて嬉しいですよねー?」
あお向けのお腹をワシャワシャとかき回しても、キョトンとしている。
「嬉しいんですよねー?」
顔を両手で挟んでこねくり回してみた。
さすがにこれは嫌だったらしく、モゾモゾと僕の手から逃れようとする。
「あはは、ちょっと調子に乗りました。これは嫌ですね」
手を離すと、シマシマシッポはしばらく迷ったあと、僕の手をカプッと噛んだ。
噛んだといっても、まったく力は入っていない。
痛くもない。
そのまま、僕の様子をうかがっている。
うちの猫もときどきこんな行動をする。
「あっ、ああっ、痛いです!」
とおおげさに痛がってみせると、ゆっくりと口を開き、僕の手を解放する。
チラチラと僕の様子をうかがったままだ。
「あわわわわー。ただ撫でていただけなのにこんな目に遭うなんて……ショックです……」
などと言っていると、シマシマシッポが「ごめんね」というように、僕の手をペロリと舐めた。
――ええっ、こんなことをして貰えるんですか? お詫びペロペロ!
うちの猫はペロペロをしてくれないから、これは貴重なペロペロだ。
最近誰かに(猫に)ペロペロされた記憶はない。
――つまり、ひたすら撫でまわす、嫌がられる、噛まれる、ペロペロされる、という僕に得しかないシステムが完成したんですね!
こうしてますますテンションの上がった僕は、ひたすらシマシマシッポを撫でまわし、本気で怒ったシマシマシッポから、腕を抱きかかえつつの連続キックをされることとなった。
――やっぱり本気のキックは痛いですね……。嫌がることをするのはやめましょう……。
と腕をさすりながら僕は反省した。
部屋に戻るとうちの猫が見当たらない。
――どこかへ遊びに行ったんですね。
とベッドに腰掛けると、布団のどこかで「ナア?」という声がした。
めくってみると、敷毛布の下に、うちの猫が隠れていた。
「こんなところに……。わかりにくいですよ……。せめて毛布の上にいてください」
注意しても、うちの猫はほとんど目を閉じたまま、「ううーん?」と鳴くばかりだ。
寝ぼけているのかもしれない。
――あっ、それならいまのうちに撫でちゃいましょう。いまがチャンスです。
と手を伸ばすと、それだけでうちの猫の目が開き、鳴き声は唸り声に変わった。
うちの猫には僕の考えていることなど、お見通しのようだった。




