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偽物のシマシマシッポ

 年末ということで、兄と兄の子供がやってきた。

 子供は猫のことが気になるらしい。


「にゃんにゃんは? にゃんにゃんは?」


 と繰り返しつぶやいていた。

 しかし探してみてもうちの猫はいない。


 ――子供の気配を察知して逃げたんですね……。本当に、もう……!


 ひと通り探して、見つからずにリビングへ戻ってくると、子供が、


「にゃんにゃんだよー! にゃんにゃん!」


 と騒いでいた。

 見慣れた柄の猫が、子供の足元でウロウロしている。


「おお、これがシマシマシッポちゃんか。よろしく」


 と兄も声をかけている。


 ――さすがシマシマシッポですね。うちの猫の代わりに子供の相手をしてくれるんですね。


 猫は特に警戒するようでもなく、ひたすら周囲のにおいを嗅いでいる。

 ふと視線が合って、何かがおかしいと思った。


 ――あなたはシマシマシッポじゃないですよね……。


 シマシマシッポにしてはシッポが短い。

 そこにいたのはポッチャリだった。


 ――いまなら気づかれずに紛れこめると思ったんですか? シマシマシッポと入れ代わるつもりですか……!


 でもまあ子供の相手をしてくれるならいいかと思い、訂正もせず、しばらくのあいだポッチャリがシマシマシッポとして扱われていた。


 あとになって考えると、このポッチャリが、一番子供の相手をしてくれていた気がする。



「にゃんにゃんがまたいたよー!」


 子供がまた騒いでいた。

 見ると今度は本物のシマシマシッポが、リビングに座っている。

 子供の前で、プルプルと震えていた。

 アメリカのアニメのキャラクターのような怯えかただ。


 ――ええー? 何でそんなに怯えてるんですか? 僕が来るまでのあいだに何があったんですか?


 子供は気にせずシマシマシッポを触ろうとする。

 シマシマシッポは怯えながら、何とかして逃げ出そうとしていた。

 ガッとシマシマシッポの肩を掴んで頭を撫でる。

 落ち着いてくださいね、と僕は心の中で思った。

 せっかく来ているのだし、子供は猫が好きなようなので、遊んであげて欲しいと思ったのだ。


「この子はすごく人懐っこい子なんで……すよ?」


 シマシマシッポはグイグイと僕の手を押しのけて、逃れようとする。

「もう外に出たいんです……」という風に、僕の顔をチラチラ見ていた。

 そんな顔をされてしまうと、逃がしてあげるしかなかった。



 ――うーん、シマシマシッポでも、子供の相手は無理でしたか……。こうなるとうちの猫は完全に無理ですよね。それにしても、どこに行っちゃったんでしょう?


 と考えながら部屋に戻ると、うちの猫は僕のベッドで寝ていた。

 チラッと僕を見て、プイッと顔を背ける。


「あっ、ここにいたんですかー。ねえねえ、下に降りて一緒に遊びませんか?」


 とおでこを突くと、面倒くさそうな顔をして丸まってしまった。

 まったく動く気配はない。


「かつお節がありますよー?」


 と言っても、無視されてしまった。


 結局子供がいるあいだ、うちの猫がリビングに現れることはなかった。

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