うちの猫と幸せな睡眠不足
僕は寝つきが悪く、眠りが浅いほうで、睡眠不足になることが多い。
自分でも困っている。なかなか眠れなくてこれはまずいな、と焦ると余計に眠れなくなる。
これはストレスがたまる。考えても悩んでも解決しない。そういうことをするとかえって状況が悪くなるばかりだ。
夜中に物音がした。
気のせいか、と思うくらいの小さな音。何かが歩いているような音だ。
電気がついていないから、部屋は真っ暗。だからそれが何なのかは……まあ、わかってしまうんだけど……。
静かに僕の部屋のドアが開く。
暗闇の中で、ドアの隙間から入ってきたそれの――うちの猫の瞳が輝くように浮かび上がっていた。
「ふうん……なーお」
普段、聞いたことがないような甘えた声を出している。
足音を立てないように、そっと近づいてくる。
「どうしたんですか?」
僕が布団から起き上がって尋ねると、ぴたっと動きを止める。
そして、何事もなかったのかのように去っていってしまう。
真夜中のうちの猫の行動を検証してみたところ、とにかく僕に気づかれたくないらしい、ということがわかった。
僕に気づかれないように部屋に進入して、布団の上に乗って眠る。そして朝僕が起きる前に布団の上から抜け出す。
そういうことをやりたいようだ。
真夜中の訪問者に気づいて起きてしまったとき、僕が寝たふりをしていると、うちの猫はそのまま近づいてくる。
布団の上でしばらくもぞもぞして、バランスのいいポジションを探して、納得の行く場所が見つかると、そこでゴロゴロとのどを鳴らしながら眠る。
寝返りをうつと去っていくので、動けない。
布団の上に乗られると、どうにも寝づらい。
のどを鳴らしている猫がいると、触りたいし……。
まんじりともせずに夜をすごすことになってしまう。
ごくまれに猫が布団の中に入ってくることもある。
無理やり布団を押しのけて進み、僕の体を見つけると、ぴったり寄り添うようにして眠る。
太もものあたりに、柔らかいようなかたいような独特の感触が押し付けられる。猫の背中だ。
これはもう、すごく気になる。
――触りたい! でもいま触ると絶対に逃げてしまう!
気になって仕方がない。
この状態では当然眠ることができない。体を動かすことすらできない。そのまま朝を迎えたりしたこともある。
そういうときは焦りも悩みもない。
――今日は幸せな睡眠不足だ。
寝ぼけた頭でそんなことを考えて、僕はニコニコしてしまう。