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02:着任の挨拶

 重い荷物を抱え、ソフィーリアが向かうのは、町の北東部にある「トルト町支局」。ルミナス王国の旗が翻る、少し大きな建物がそれである。まずは、支局長に着任の挨拶をして、官舎への入居手続きなどをしなければならない。実際の仕事場である、冒険者ギルドに行くのはまだ先だ。

 そもそも、冒険者ギルドは、自助組織として民間が運営していた。それが、冒険者ランク制度の統一を図るため、10年前に国営化されたという事情がある。しかし、実際に働いている者は、「国からの委託を受けた」民間人がほとんどだ。国の職員が現場に行くことは非常に稀である。

 太陽は、そろそろ山へ沈もうというところだった。子供を呼ぶ母親の声や、露店を仕舞う掛け声が聞こえる。小さな町だが、それなりに活気はあるらしい。ソフィーリアの外套を、柔らかな風が撫でる。支局には、町に入ってから十分ほどで到着した。


「ごめんください!」


 緊張した面持ちで、支局のドアをノックする。ここに居るのは、ソフィーリア直属の上司。地方に飛ばされているとはいえ、お偉いさんとのご対面だ。


「どうぞ~」


 予想に反して、のんびりとした声が返ってくる。そっとドアを開けると、中年男が来客用の机を拭いていた。


「し、失礼します!」


 外観の割に、中は狭い。物が多いから、そう見えるのかもしれない。そこかしこに書類が積み上げられている。ソフィーリアが思い描いていた所とは、少し、いや、かなり違っていた。


「新規採用の子だよね?まあ、座って座って」


 男は布巾をたたみながら、アゴで椅子を指す。


「ソフィーリア・エステリオスと申します。支局長に着任のご挨拶を……」

「まあまあ、そういう堅いのはいいって。ほら、辞令、見せてもらえばいいから」


 男の胸元をよく見ると、ルミナス王国のシンボル、金の羽根が彫られたピンバッチがついている。


(こ、この人が支局長か……)


 どう見ても普通のおっさんだが、彼が一応、その人らしい。金の羽根は、局長クラスでないと身につけられないからだ。

 ソフィーリアはおずおずと椅子に座り、辞令を渡す。支局長は、ふんふんと鼻を慣らしながらそれを読む。一見、間抜けそうな顔をしている支局長だが、実はやり手なのかもしれない。と言うか、そうあってほしい。ソフィーリアにとって、彼は人生で初めての上司なのだから。


「君、王都出身?」

「はい、そうです」

「こんなド田舎、来たことないでしょ。僕も最初は参っちゃってさ、まあ、慣れるとなかなか良いところなんだけどね~。あ、何か飲む?」

「いえ、お気遣いなく!」


 威厳もへったくれもない支局長の喋り方に、ソフィーリアはたじろぐ。地方に長いこと居ると、自分もこうなってしまうのかと思うと、憂鬱で仕方がない。


「今年の茶葉はあまり良くなくてねえ。香りがぱっとしないんだけど……」


 支局長はいそいそと紅茶の準備を始める。机の掃除も彼がしていたし、他に職員はいないのだろうか。ソフィーリアの心に、暗雲が立ちこめてくる。

 そして、雷が落ちた。


「タルドはいるか!」

「ひっ!?」

「はいはい、いますよ~」


 突然ドアを蹴破ってきた大柄な男に、支局長は呑気に返事をする。大柄の男は、ガタガタ震えているソフィーリアを見て、ずかずかと歩み寄る。


「こいつか!」

「そうですよ~」


 支局長が言うが早いか、大柄な男はソフィーリアの腕を掴み、引っ張る。


「痛い痛い痛い!何するんですか!」


 ソフィーリアは必死で抵抗する。


「黙れ、来い!」


 力及ばず、ソフィーリアはずるずると引きずられていく。


「二人とも待って、もうすぐお湯が沸きますから~!」


 結局、ソフィーリアが紅茶を飲むことは叶わなかった。


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