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19:お姫様抱っこ

 ソフィーリアの足は速い。冒険者ギルドに来てから、あちこちに使い走りをさせられるせいで、脚力がついたのだった。それを追うネフは、男とはいえ、年上の彼女より体力は劣る。途中で自分だけでは無理だと判断したネフは、冒険者たちに助けを求める。


「ヒーのバカが、自分がドラゴン倒すなんて言ってクフルの森に行きやがった!お願いだ、誰か止めてくれ!」


 降り出した雪はソフィーリアの頬を刺し、肌を切る。森に入り、雪の猛攻が収まった次は、草木に足をすくわれる。ドラゴンが出た場所は詳しく聞いていなかったが、なぎ倒され燃やされた木々から一目瞭然だ。


(あれが……ドラゴン!)


 真っ赤な鱗と一対の翼を持つ魔物が、ゴブリンを襲っている。体長はトルトの民家ほどだろうか。話に聞いていたものより、ずいぶん小さく思える。例のおじいちゃん教授が大げさに言ったのかもしれないが、頭の高さは城壁を超えるという話だったのだ。


「アクア・ヴェール!」


 火炎に備え、水の防御魔法を展開する。ドラゴンはまだ、ソフィーリアに気づいていない。ゴブリンをくわえ、ぺろりと飲み込もうとしている。ソフィーリアは背後に回り込み、ドラゴンの頭を目がけて氷の矢を放つ。


「アイシクル!」


 それはヒュンと空を切り、まだ倒れていない大木に突き刺さる。ドラゴンがソフィーリアに気づいたのだ。ドラゴンは、くわえていたゴブリンを吐きだす。そして、首をぐるりと後ろに向け、火炎の息を吐く。


「ギュオオオオオ!」

「くっ……!」


 防御魔法のおかげで、ソフィーリアに怪我はない。しかし、遮断できなかった分の熱が伝わってくる。真冬だというのに、鉄板で焼かれているかのような暑さだ。じとり、と額に汗がにじむ。


(思ったより、大したことない!)


 油断は禁物だ、と思いながらも、ソフィーリアは自らを奮い立たせる。弱気になれば、そこを突かれて負けてしまう。魔法学園時代に、彼女が構築したセオリーだ。


「もう一度……アイシクル!」


 今度は尾を狙う。命中だ。ドラゴンがひるんだすきに、ソフィーリアは木の陰に移動する。防御魔法を重ねがけし、息を整える。ドラゴンの倒し方など、彼女は知らない。だが、多くの魔物の弱点は頭だ。ドラゴンも魔物である限り、その法則が通用するかもしれない。


(情けは無用。多少残酷でも、手段を選んではいられない)


 ソフィーリアは、飛び出すと同時に魔法を発動させ、すぐに隠れる。そうして、ドラゴンの四つの足に、次々と氷の柱を立てていく。


「ギュイイイイイ……!」


 ドラゴンがやみくもに吐く火炎で、周囲の温度は上昇しており、突き刺した氷はすぐに解ける。それでも、着実にダメージは増えているはずだ。姿を隠すソフィーリアに、ドラゴンは苛立ち、火炎の強さをどんどん上げていく。


「きゃあああああ!」


 ついに隠れていた木ごと火炎を受け、ソフィーリアは大地に叩きつけられた。防御魔法がなければ、肋骨の骨が砕けていただろう。倒れるとき、真っ先に打ったしゃくれアゴが憎い。彼女の姿を視認したドラゴンは、爪で身体を切り裂こうと前足を振り上げる。


「アイス・シールド!」


 ギリギリのところで、ソフィーリアは背中に固い氷の盾を発動させる。それに弾かれ、ドラゴンの前足はぐにゃりと折れ曲がる。すでに氷の矢で鱗を裂かれていたので、骨に衝撃が伝わりやすかったのだ。足を一本失ったドラゴンは、体を支えることができず、腹を地面にドスリと落とす。あいつよりも先に立ち上がらなければ。ソフィーリアは腕に力を入れようとするが、指一本すら動かない。魔力の前に、体力が尽きるなんて。


(嫌だ……負けたく……ない!)


 顔中を泥とススまみれにしながら、ソフィーリアは呻く。背後で、ドラゴンが身を起こそうとするのがわかる。今度は火炎か、爪か、それとも牙か。防御魔法を再展開させなければいけない。そして、煙と涙でぐちゃぐちゃに曇った視界の端に、一筋の白い光が差し込んでくる。


(あれは……鳩?)


 あまりにもあり得ない生き物の登場に、ソフィーリアは幻覚だと思った。だいたい、鳩にしては飛んでくるのが速すぎる。それでも鳩だとわかるのが何だか不思議だ。もしかして、自分はすでに負けていて、あんな幻を見るのだろうか。


「ソフィーリア!」


 どこかで聞いたことのある声だ。しかも、最近。抱きかかえられたときの手の感触も、ほんの数日前に感じたことがなかったか。


「え、と……騎士団長さん?」

「いかにも、ソフィーリア・エステリオス。あなたはとんだ無茶をする人なんですね」


 ソフィーリアは、騎士団長に抱きかかえられ、ふわふわと宙を浮いている。ドラゴンの頭が足元に見える。ドラゴンは、大きく翼を広げ、飛び立とうとしている。


「空中戦は不利です。その前に、とどめを刺して下さい。援護します」


 騎士団長は、ソフィーリアから体を離すと、手のひらに魔力を込める。ソフィーリアの背中に、真っ白な羽根が生え、自力で飛ぶことができるようになると同時に、失った魔力が回復していく。全てを悟ったソフィーリアは、渾身の魔法を放つ。


「ブリザードッ……キャノン!!」

「グギャアアアアア!!」


 巨大な氷のつぶてを発射する上級魔法。ソフィーリアが使える、最強の魔法だ。頭を潰されたドラゴンは、断末魔の悲鳴を上げる。その声を聞き終わらない内に、ソフィーリアの意識は闇に閉ざされた。



★★★★★



 魔力を使い果たしたソフィーリアを、騎士団長は優しく抱き留める。ドラゴンの生死を確認する必要があるが――それは、他の者に任せてもよさそうだ。


「どういうことだ……?」

「まさか、ヒーちゃんが本当に、こいつを倒したっていうのか?」


 ネフが集めた冒険者たちが、続々と集まってくる。彼らはドラゴンが死んでいることを確かめた後、ヒーちゃんはどこだと騒ぎ出す。自分の姿を晒すことに抵抗のある騎士団長だが、観念して彼らの前に降り立つ。


「彼女なら無事です」


 眠るソフィーリアをお姫様抱っこしている騎士の登場に、一同はどよめく。年配の冒険者が、うわずった声を上げる。


「もしかして、あんた……カイルくんかい?」

「ええ、そうです。彼女が単身でドラゴンを倒しに行くと聞いたので……王国騎士団の職務を放り出して、来てしまいました」


 バツの悪そうな顔をする騎士団長。彼はソフィーリアを抱えたまま、冒険者たちとともに冒険者ギルドに向かった。

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