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赤い糸

作者:

 使ってまだ半年しか経ってないイヤホンの管が破けて中の銅線が剥き出し状態になった。あーあ、と思いながらまぁ音は出るから良いかと思って使っていたら電車に乗る際に引っ張られてそのままちぎれた。片方しかないイヤホンは不便なので学校に行く前にある電気屋でイヤホンを買っていたら学校に遅れたので私はそのまま真っ直ぐ教室に行くのは諦めて学校に隣接している図書館で時間を潰そうと思ってイヤホンを付けようとしたら気が付いた。左手の小指に、赤い糸が3周くらい巻かれていた。なにこれ?と思い外してみようとするが外せない。手を逆さまにしても指から落ちる様子も無い。引っ張っても押してもダメ。これは、一体なんなのだろうか?

「なにしてるんだ?」

「えっ?あっ、えっ...?」

 いる筈の無い人物の登場に少し驚いたがそれよりも名前の解らない(多分)クラスメートの彼は私の動作を見て何をしているかと聞かれたのでゴミを払っていましたと適当に言うと差して興味ないと言った返事をして私の左手を見た。

「小指に赤い指輪ねぇ...案外ロマンチスト?」

「(見えるのか)服を買った時のおまけのピンキーリングです」

 その咄嗟の嘘に彼は特に追求する事もなく、逆にふーんとそれ程興味が無い返事をしてスマホを開いた。その流れるような動作を見て、私は彼から離れようとしたが彼はそれを許してくれなかった。ねぇ、と話し掛けられて私は振り向くと彼は私の右腕を指差した。

「時計、止まってる」

「...えっ?」

 彼に指摘されて時計を見ると止まってるでころか長針が文字盤の上を泳いでいた。嘘、と私はさっきまで何事もなく動いていた時計を思い出して落胆していたら彼は気が付いてなかったんだねと言う言葉と一緒に私を慰めてくれた。私はまだ諦めきれなくて腕から外して軽く揺すって、針が元通りにならないかと無謀な事をやってみたが、無謀な事は無謀な事だっただけでその努力も無駄に終わり、私は短針しか時間を刻まない時計を握り締めた。

「あー...無駄な出費がぁ...」

「金欠なの?」

「いや、さっき壊れた代わりのイヤホン買ったばっかりだから...あー...」

 時計を持ったまま額に手をあてて嘆いていると彼はいきなり私の前に何かを出した。私は何をだされたのか解らなくてうろたえていると彼は自身が先程まで付けていた時計を私に差し出していた。

「これあげるよ、男物だけど」

「えっ、何で?」

「買ったわ良いが飽きちゃってさー、プレゼント」

 語尾に音符マークが付きそうな感じでそう言いながら彼は私の右腕に時計をはめた。少し重いが、それは私が今まで使用してきた2000円で買える時計なんかとは全然違う、なんて言うのか高級感とかが素人の私にでも感じられて、普段使いに飽きても部屋にインテリアとして飾っておいても充分可笑しくない代物だ。だから余計に私はこんないい物を貰う訳にもいかないので彼に返そうとしたが、彼はそれを一度あげた物だからと華麗に拒否した。でも、と渋る私に彼はじゃあその時計頂戴と私が握っていた時計を指差す。

「俺、これが欲しいしさ」

「こんなガラクタが...欲しいんですか?」

「うん、頂戴」

 良いのかなと思いつつ私は彼に私の壊れた時計を渡した。彼は嬉しそうに私の壊れた時計を手に取り、ありがとうとこれまた語尾に音符マークが付きそうな嬉しそうな返事をした。しかし、こんな限定品と言う訳でもない時計が何故欲しいのだろうか?

「ありがとうね!小湊ちゃん」

「えっ...何で名前を...?」

「クラスメートの名前を知ってるのは可笑しい?」

「えっ、いえ...」

 私はなんだかいたたまれなくなったので彼に次授業なのでと告げて、走って逃げた。しかし、なんだか飄々とした変な人だったな。


「その時計、どうしたんだ?」

 長かった授業もやっと終わり、教科書を片付けていたら名前も知らない、またまた隣の席のクラスメートに、時計の事突っ込まれて私は一瞬ドキリとして私は別にと素っ気ない返事をしてしまった。

「それって、綿瀬がしてるのと同じやつだよな?」

「綿瀬...?お知り合いですか?」

「えっ?小湊さん、綿瀬の事知らないの?」

 と言うかあんたは私の名前知ってるんだなと突っ込みたかったが、隣の席のクラスメートは聞きもしないのに"綿瀬"について色々と話してくれた。"綿瀬"のフルネームは"綿瀬 佳護"と言い、格好良くて優しくて以下エクセレントな理由で結構な人気者らしい。しかも、何処かの会社の社長の息子で、お金持ちらしく、その人気に更に拍車をかけているらしく、あわよくば玉の輿にと言う人までいるらしい。世の中、存外自分の近くにもビップな世界に住む人間がいるものだな、と彼の話を聞いて思わず感心してしまった。

「と言うか金目当てなら男女関係なくよってくるぞ?」

「は、はぁ...」

 名前も知らないクラスメイトはそう言う部類に入る人物だと思っていたら随分とハッキリ物事を言う、まぁ毒舌な人で驚いた。

「でも綿瀬はあんまり誰かと一緒にいるとかは無いからなぁ...」

「まぁ、媚びを売ってくる人間の近くにはいたくないでしょうしね...」

「小湊さんって、結構言うね」

 あっ、と思った時には時既に遅しと言うやつだった。たまたま隣の席になったクラスメイトは私の反応を見て、「可愛いね」と不吉な事を言って去っていった。しかし結局の所、私は"綿瀬 佳護"についてはよく分からなかった。でも、私は壊れかけの時計と引き換えに、たまたま隣の席になったクラスメイト曰くこれはブランド物のいい時計らしいから、わらしべ長者にでもなった気分と言う事にしようと無理矢理納得して今日は家に帰った。


 自分と言う存在は、余りにも世間知らずなんだなと驚いた。"綿瀬 佳護"と言う青年は、私が思った以上に有名人だったのだと、昨日たまたま隣の席になったクラスメイト(青島さん)に聞いた。青島さんは、"綿瀬 佳護"とは違って少しばかり無気力系で、でも優しいと言った少し浮世離れした青年だと思った。(それから今日お昼を忘れた私にパンとジュースを奢ってくれた優しい人だ)

「小湊さんは、綿瀬の事好きなの?」

「...どちらかと言うと、無関心です」

 そして、少し独特の雰囲気がある。なんと言うか、猫みたいな人だ。でも、この学校に入学して初めて出来た友達なので、これからも仲良くしていきたいと思う。


「じゃあね」

「さようなら」

 青島さんと別れて私は携帯を開いて時間を確認したら、相変わらず私の左手の小指には赤い糸が巻き付いていた。そう言えば、青島さんにはこの赤い糸は見えていなかったみたいだ。結局の所、この赤い糸は何なんだろうか?でももし、この赤い糸が私の運命の人と繋がっているとか言う乙女チックな展開だとしても、私は多分それを素通り出来る気がする。しかし、この赤い糸はそう言う類ではない気がする。そして、何か悪い予感がする。

(まぁ、杞憂であってほしいが)

 そう思いながら私は独り、家路を歩く。


 イヤホンが壊れたり綿瀬さんに時計を貰ったり、青島さんとお友達になったり色々と変化が合ったり忙しかったりした調度一週間後の今日、疲れ果てて帰って寝たら久しぶりに夢を見た。

 何処かのファンシーな、多分お菓子屋か雑貨屋だと思うけど、そんなお店へ言った帰りに大きな鉄柱が私目掛けて倒れてくると言う、なんとまぁ夢見の悪い夢だった。ベッド脇にある小窓から外を見るとまだ外は仄暗くて、私は夢見が悪いと悪態つきながら綿瀬さんから貰った時計を確認すると、時計の針は十二時丁度を示していた。え?まだ深夜?と驚いて充電していた携帯のサイドボタンを押してサイドディスプレイの表示時間を見ると、五時過ぎだった。あれ?と思い、時計を見るとちゃんと携帯のサイドディスプレイが表示した時間を示していた。

「あれ?」

 寝ぼけてたのかな?と思いつつなんだか目が醒めてしまったので私は時計をしてベッドから起き上がった。少し速いけど、支度をしながらゆっくりと過ごそう。そして、どうせなら一本速い電車に乗って速く学校に行こうと考えた。

「久しぶり、小湊ちゃん」

「...お久しぶりです」

 何時もより一本速い電車に乗ったら何時もの電車より全く人がおらず、良い気分に成りながら外を見ていたら綿瀬さんに出会って声を掛けられたので少し挨拶をすると相変わらずの人辺りの良さそうなニコニコとした表情で、綿瀬さんはたわいもない事を楽しそうに話てくれる。

「そう言えば、時計してくれてありがとうね」

「いえ、こちらこそこんなに良いものを頂いて申し訳ないです」

「小湊ちゃん堅いなー」

 綿瀬さんは私が堅いと言って今の子っぽく無いと言ったが、むしろ十万もするようなモノを簡単に他人に譲渡する方が私には理解しがたい、そう思いながら私はまた綿瀬さんからお菓子を頂いた。なんか私、綿瀬さんから色々頂き過ぎな気がする。今度何かお返ししなくては。


「兄のお下がりです」

「ほらー!やっぱり違うでしょー!」

「ゴメンネー、小湊さん!」

 朝から五回目の台詞を言って彼女達がさった後、私は溜め息を吐いて去って行った彼女達を何と無く眺めていたら、一番左側の、短いスカートを履いた一番ギャルっぽい女の子の右手の小指に、私の左手の小指に付いているのと同じ赤い糸が付いていた。しかし「えっ、」と思って気が付いた時には彼女達は楽しそうに喋りながら中庭の方へ行っていしまっていた。

(あの子...気が付いていないの...?)

「"その時計、もしかして綿瀬くんから貰ったの?"」

 もしかして、私だけにしか見えない幻覚?等と考えながら彼女達の向かった方を見ていると、聞き覚えのある声に後ろを向けば青島さんが小さく右手を上げて「よっ」と言う軽快な挨拶をしてくれたので私は「こんにちは」と挨拶を返した。

「お昼、一緒にどう?」

「はい、ご一緒させて下さい」

 あの一件から、青島さんとは良い友人関係を築けていると思う。学校内で会えば適当に話をしたりご飯を食べたりと、それなりな距離感を保ちつつ仲良くして貰っている。今まで、何をするにも学校でも家でも独りぼっちだったから、こうして誰かと一緒にいるのがとても楽しいと感じる。まぁ、それと同時になにか、引っかかる出来事がある確かにのも確かだが。

「小湊さん、午後の授業なに?」

 申し訳ないと言ったのに青島さんはまた私にお昼を奢ってもらった。しか今度はパンではなく学食のBランチと言う決して安くはない代物だ。申し訳ないやら今度なにかお礼をしようやら考えつつ食べながら二人で適当に話をしている。

「無いですが、その代わり先生に呼ばれてるんです」

「ありゃ、災難だね」

「まぁ、対した用事じゃないとは言っていましたけど...」

 本当なら、私は帰って適当にお昼を食べている予定だったのだが、こうして青島さんと一緒にご飯を食べているのだからまぁ、良いのだろう。


「小湊ありがとなー」

「はい、失礼します」

 先生に呼ばれた用事は、本当に些細なもので十分くらいしか時間を要さなかった。思いの他早く終わったので私は帰りに何時も青島さんに色々奢ってもらっているお返しを買おうと思い、この前新しく出来たと言うお菓子屋に行ってみる事にした。

「ふぁ...」

 電車に乗っていると、朝早かったせいもあり、少し眠くなってきた。新たに出そうになった欠伸を噛み殺して、涙が出て軽く潤んだ目を擦る。たまたまイヤホンから流れてくる曲が、一番最初に綿瀬さんに出会った少し前に聞いていた曲で、何と無く綿瀬さんを思い出した。今でも疑問なのだが、どうして綿瀬さんは初対面(と言うのは違うな、綿瀬さんは私の事知っていたしでも殆ど初対面に近い)私にあんなに良い時計をくれたのだろうか?

「あれ?」

 しかし、不思議なモノでフとこの時計を見ると一瞬だけ現在時間と違う事がある。朝起きた時は十二時ピッタリを示していて、それから何度か移動中や学校でみたら一、二、とまるでなにかをカウントダウンしているみたいだと感じた。そして、関係有るかどうか解らないが私の小指に巻き付いていた赤い糸が、「こっち、こっち、」と私を誘導しているように揺れている。

(あっ、降りなきゃ)

 色々疑問があったが、電車が降りる駅に着いたので私は考えるのを止めて急いで電車を降りた。

「いっ...!」

 電車を降りたら、急に小指が痛くなって小指を見たが特に異変は無かった。しかし、フと電車の方を見た私は絶句した。電車に乗っている人全員の、左右関係なく小指に赤い糸が巻き付いていた。

「ママ...この電車乗りたくない...」

 暫く唖然としながら見ていたが、私はその子供の声で意識が戻った。声のした方を見ると四、五歳くらいの女の子が母親に電車に乗りたくはないと必死に講義していた。あの子には、私と同じで赤い糸が見えるのだろうか?よく見ると、その女の子と母親の小指には赤い糸がない。もう一度、自分の小指を見ると赤い糸はちゃんとある。私は訳が解らずに呆然としていると、視線を感じた。赤い糸のない女の子が、今にも泣きそうな、でも何か訴えかけているような複雑な表情で私を見ていた。

「お姉ちゃんも...見えるの?」

「......え?」

 その瞬間、電車は発車した。

 無数の赤い糸で覆われた電車を凝視した後、女の子を見ると母親が大丈夫だから、次のには乗ろうねと言って女の子の手を引いて去っていった。それで私は確信した。あの赤い糸は運命の相手を見つけるとか、そんなファンシーなものではなくて、もっと恐ろしく、おどろどろしいものなんだと。そう考えてくると、今日学校で出会った名前も知らないあの右手の小指に赤い糸が巻きついていた女生徒が気になり始めた。

(何も無いと良いのだけど...)

 焦燥感で私は心拍数が上がっていくのが分かった。今日は、早く買い物を終わらせて帰ろう。歩く速度上がるのが分かる。嫌な予感で、頭の中では警告音が鳴り響いている。帰りたい。

(ダメだ...気持ち悪い)

 まるで閂が外れたかのように嫌な感じが押し寄せてくる。飽和状態の様な、覚束無い足取りで歩いているかのような感覚が一気に身体の中駆け巡るような気がして痛む訳でもないのに私は無意識のうち頭を抑えていた。目的地まで後少しだが、止めて反転してそのまま再び駅の方に歩きだした。しかし、あんな事があった後で電車に乗る勇気は無い。携帯のGPS機能を使って気分直しも兼ねて歩いて帰ろうとして携帯を出そうとして思わず動きが止まってしまった。何故だかは、分からないがその時は見間違えとかとそう言うのでは無いと言うのは分かった。

 時計の針が、現在時の午後三時過ぎではなく十一時四十五分を示していた。

 そして秒針は、今も一刻一刻丁寧時間を刻んでいて、私は何故だがそれが凄く怖かった。何かを暗示しているみたいで。でもそれがなんだか分からないので私はその嫌な予感が現実で実行されない為にも早く帰る事を第一にしよう。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 大きな衝撃と、布が裂けるような悲鳴で私の歩みは止まった。後ろを振り向けばさっきまで私が歩いていたアスファルトの上、私の真後ろに大きな鉄柱があった。多分、そう少しズレていたらその鉄柱は私の上に落下してきたであろう。

「ちょっとズレちゃったなぁ」

 私の周りに野次馬が集まるその中に彼はいた。

「あーあー、惜しい」

 沢山の野次馬がいるその中で彼の、"綿瀬 佳護"の声だけがとても鮮明に聞こえた。


「でも怪我がなくて良かったなー」

 何回目の事情聴取だったのだろうか。駆け抜けるようなスピードで色んな事が有り過ぎて訳が解らなくなってきたが大体の事は把握したしていると思う。昨日は警察で殆ど事情聴取と言う名の軟禁にあい、今日は学校での事情聴取。その間に何回か青島さんからメールをもらったがとても返せる気分ではなかったので返してはいない。

「じゃ、もう良いぞー」

「はい...あっ、あの先生...今日、"綿瀬 佳護"さんはいますか?」

 何と無く、分かっていた気はしていたが私は先生の反応に上手く対応は出来なかった。


("綿瀬 佳護"なんて名前の生徒はいない...か、)

 在り来たりと言えば在り来たりの展開だけど、それが重なれば奇々怪々な出来事で私は暫く頭を悩ます種としては十分だ。朝、授業前に青島さんにも聞いてみたが彼も"綿瀬 佳護"を知らないと言っていた。しかし、今も私の右腕には確かに"綿瀬 佳護"から貰った時計がある。

(なんだか疲れた...)

 今日はもう帰ろう。

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