第7話. 支え抜く血嶺石の立体魔法陣
シーネはコインを祭壇の平面にそっと縦に置く。
1枚の硬化、先々代の王女が描かれたコインがそこに立ち、安定している。
(子どもの頃、俺も暇なときに似たようなことをした覚えがあるな)
続けて、じゃらっとコインを一気にすくい取るシーネ。
そして、縦に連ね始めた。
(お、やるな)
2枚、3枚。細く繊細な指で積み上げていく。
外に出られない間、自身で練習していたのだろうか。なかなか器用だ。
気づいたが、この子は指輪をはめている。左手の親指。細い螺旋が交差するようなタイプのリングで、灰白色と血の色が入り混ざるような模様をしている。きっと指輪自体がその意味をもつ素材で出来ている。
…
続けざまに、シーネは更に5枚、6枚……と次々とコインを連ねる。
それは揺らがず、安定している。
それどころか、下方のコインよりもよりもサイズのある…帆船が描かれた大きめのコインがぴしっと固定されたように立ち、連なっている。
(…!)
硬化を重ねるそのテンポは緩まない。
12枚、13枚。
これは最早、"器用だ"——というレベルを、とうに超えていた。
——15枚。
シーネの左手の親指にはめられたリングが、ほんのりと淡く光を放つ。
魔導士は、その力を使うのに、願いの力と選ばれた血筋、そして杖やアクセサリーなんかの"触媒"が必要だ。
おそらく、骨と血の色が入り混じるような、あの指輪が触媒として機能しているのだろう。
「はいっ」
彼女は両の手のひらを向かい合わせるようにして紅く煌めく紐を指に絡め、あやとりのように繰ると、多数の三角形が連なった形となる。
そして、合図とともにそれは姿を表す。
縦に長く連なるコインタワーに沿うようにして、血の色をした針のように細く繊細な結晶——
それらは骨組みのように組み合わさり、絶妙なバランスで組み上がったコインを支えている。
それはまるで、ミニチュアサイズの塔の模型のようだった。幾何学的に組み上げられた結晶の駆体が銀の焔の輝きに照らされ、反射しきらめいている。
「ほう……流石だな。これは凄い能力だ……!」
「……なんだか私のこと、子供扱いしてません?」
シーネは横目でじとっと、睨むようにこちらを見つめた。
この子の能力といえば、先程実演してもらった、"ドラゴニス"、とんでもなく重い大剣を支えられるということだけでも保証されている。他にもヴェスパの強力なステータスを凌駕するような手っ取り早く戦闘向けな効果を期待していなかったといえば、嘘になる……。これはこれで、女の子らしいというか、素晴らしい能力ではあるだろう。
「い、いや、君の能力に助けられた。あれがなければきっと俺はやられていた。改めて感謝するよ」
「…」
そこに嘘はない。
シーネは、ほんのりと笑顔を浮かべた。そして、コインタワーへと視線を戻す。
「……これは、私の能力。“支え抜く血嶺石の立体魔法陣"──」
「ちっちゃくて不安定なものだったり、重いものでも、支えたり補強することが出来るんです」
この"ドラゴニス"を支えるほどの力だ。そのパワーで言えば十分保証されている。
そして、精密さもどうやら半端では無いことを、彼女は伝えてくれた。
しかし、この精密さをあの残忍で暴力の塊と言ってもいいヴェスパに対してどう応用する?
・・・すぐには思いつかない。いずれ役立つときが来るだろうか。
「こんなものが戦うのにいったいどう役立つのか、って思ってるでしょう?」
……さすが魔導士様だ……。悪いと思って口には出していないが、御名答である。
「それじゃ、これを倒そうとしてみてください」
シーネは俺の手をとり、指でゆっくりと、つつかせようとする。
俺は縦に連なるコインのタワーをそっと触れようとした。
ふと、なにかにぶつかる。
(“硬い"・・・いや、それ以前に)
(コインに触れることができない!?)
俺が触れたのは、目の前にある細い針の結晶からなる骨組みではなく、目に見えない何か。ガチッとした、どうやら緻密で頑丈な立体の構造体。
・・・見えないが、手でなぞるかぎり、それはどうやら大腿骨の様な筒状の太い芯のある構造を成している。
握ろうとしても見えない骨に触れるようで、やはりコインに手が届かない!
もちろん、内部のコインのタワー自体はがっちり固定され、ビクともしない。
「ある程度の耐久性でもいいなら、見えないようにすることだって出来ます。信じることのできる相手なら、離れていたって……!」
ある程度の耐久性、というのは謙遜もありそうだ。それだけ、この周りの緻密な構造体は丈夫で硬い。出力をだせば半端な剣なんかは通らないだろう。
目に見えるものと、目に見えない構造体の組み合わせ。なるほど器用だ。
そして言葉通りなら、この周りを覆う目に見えない構造体を見えるように出現させれば、さらに耐久度が増すということになる。
更に、相手次第ではあるだろうが、離れていても機能する。兄が相手であれば、それはおそらく最大限の効果を発揮していただろう。
これは家での単なる練習なんてもんじゃ無い。極限まで磨き抜いてきたものだ。兄を、陰で支えるために──
「私の力が最大まで戻れば、きっとあなたのその剣で薙ぎ払っても倒れませんよ?」
(言うじゃねえか・・・おい)
ふふん、と笑って見せるシーネ。……こんな一面もあったとは。
ま、多少元気になったと受け取っておこう。ちょっぴり生意気だって、絶望し意思を失っているよりかはきっといい。
ただ、いくらなんでも、それは流石に盛りすぎている。
そもそも、この剣だって、俺は十分その力を引き出せていない。
それどころか、団長ですら、この剣は……『ドラゴニスは、まだ眠っている』と言っていたんだ。
「力が戻る……か」
俺は王女スティア様が魔法について言っていたことを思い出す。
「たしか、魔導士の力は、願いのチカラ、"感情"次第で強くなるんだっけか」
「……はい、これは“支える意思”の力で、どんどん強くなります」
「支える……意思……」
だとしたら、この力は……この子が今使えているだけでも幸いだ。
この子にとって、"支える"と言ったら、それは兄のためのものであっただろう。
ただ、ひたすらに・・・。戦い抜く兄を支えてきた。
しかし、魔導士がなにかのキッカケで心に大きなキズを負い、立ち直ることができず、心が折れてしまうと、魔法が使えなくなる。
それは戦闘不能、退場に等しい。
「私は、お兄ちゃんの知らせをきいて、・・・心が折れかかっていました」
シーネは目を伏せ、うつむく。
団長の訃報、それは受け止め難く……とてつもなく辛い瞬間だったに違いない。
静かな空間……銀の焔が結晶を撫で、辺りの影が乱反射する小さな光とともに揺らめいていた。
「……」
「でも」
彼女は顔を上げた。
「あなたのおかげで、少し力が戻ってきたんです」
「シーネ……」
「私の能力は……1人では自分だけの身は守れても、やり返すことができません……」
「……でも、誰か支える相手がいれば、私だって戦えます……!」
「そして、もっと強くなれる」
宝石の様な瞳に光が宿る。その表情からは、改めて戦う決意が感じ取れた。
「頼もしいよ——」
おれが彼女の名前を言いかけた瞬間、俺は異様な気配を感じ取る。
何者かが、いる。
背後は警戒していたつもりだが・・・どこからか突如現れた様な・・・どこからきた?。
そして、視線・・・こちらを認識している。
(——上!?)
そいつは、俺達の眼の前に姿を表した。
[AI非使用]
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