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第4話. 没落した王族の血筋

  教会の祭壇でゆらめく銀の焔……そこで暫く暖をとると身体が暖まり、こわばっていたシーネの表情にも少しばかり柔らかさがみて取れる。


 それに合わせるようにか、焔は先程よりかは勢いが戻っているように見えた。雰囲気(マナ)も、感情に関しては敏感な魔導士の影響を受けやすいのかもしれない。

 

 彼女に対し気の利いたセリフは思い浮かばないが、この静かで束の間の穏やかな時間も、悪くはない。


 ……


(きっと団長は、秘密と一緒にこの子を守り通したんだ)


 不思議な能力を持つ少女シーネと、

 その兄……俺たちガルフィス騎士団の……団長の真実。


 それは──


 “没落した王族”


 ……ガルフィスの騎士団にいると、そんな言葉を耳にすることがある。


 アストリアは、蝿の魔物が爆発的に繁殖し侵略を開始するまでは、互いに相手を理解し手を取り合う美しき大地に至った矢先だった。

 でも、決して平坦な道のりでそんな境地に辿り着いた訳じゃない。人間同士の血みどろの奪い合い、戦争が絶えなかった。


 特に……願いの力、意思を現実に出力する魔法の力を手にするための特別な“血筋”に関する争いの歴史は激しい過去がある。


 正義の戦争を建前にした略奪や政略結婚……。後継者争いだったり、邪魔をする者への暗殺……立て続けの毒殺なんかは珍しくはなかった。


 “長き夜の国 ガルフィス"


 表向きは、この国の地理的な特徴──“極夜”と呼ばれる現象により、ここには太陽がのぼらない状態が続く期間があるという意味。

 そして、長きにわたる戦争や疫病の歴史、はるか昔には古の竜“ラスタバン=ファフニール”の襲来による恐怖があったが、人々によりいずれの困難も乗り越えた。だから、『長い夜の時代の恐怖をようやく乗りきり、その歴史を忘れないように』という意味も込められる。


 そして、もうひとつ……。


 アストリアの人々が手を取り合うまでの、水面下で魔法や王家の血筋の力による不思議な力を羨み、嫉み、奪い殺し合う……長い長い暗黒の時代が続いていたということも実は意味している。


 この国では、それだけ凄惨な歴史があった……。記録もどこまで信じていいのか、わからないほどに。

 

 だから、魔法を使える血筋だったり、魔法を更に超えた“王家の血筋”であるのにその身分を隠し、表には決してそのルーツを明かさない者たちがいる。


 本来、正しく使えば世界をあるべき方向に導くことのできるような素晴らしい力でも、世に目立てば親族が持つその能力が血筋を利用しようとする悪意ある者の目についてしまう。騙され……奪われ、傷つけられ……大切な人が巻き込まれてしまうリスク……血筋のルーツを明かすことは、危険を伴う。


 だから、“没落した王族”や“没落した魔導士の名家”は、噂止まりで、当人たちはその真実を徹底的に隠す。それは地位や名声を棄てる代わりに身近な大切な親族を危険から守るための、ひとつの手段だと言われている。


 この子、“シーネ=カリナ”は間違いなく王家の血筋の者だ。それはさっきの不思議な能力が証明している。


 彼女の兄……。


 ガルフィス騎士団長 “アヴィオール=カリナ”


 その大きく、頼もしい背中……巨剣ドラゴニスを背負って立つ姿があれほど似合う人物はいなかった。


 彼は、その古竜の巨剣を以て、堅牢なる騎士団をまとめ繋ぎあげ、ガルフィスを暗黒の時代から、あるべき正しき姿へと導いてくれたひとりだ。


 それは、長い夜からようやく明けた、暁のようだった。

 その騎士団の一員であることは、団の皆の誇りだ。


 ──だが、アストリア……そしてガルフィスに“異変”が訪れてしまった。


 人類の歴史を塗り替えてしまう夕闇“ヴェスパ“が突如この国に大群で押し寄せてきたのだ。


 ──騎士団は、文字通り全力で戦った。


 ヴェスパは女性を攫い、異常な繁殖力で能力を奪う。

 王家の血筋の能力を持つ王女だけは何があっても絶対に守り抜く必要があった。


 皆で全力をあげ王女を最優先で護衛し、その最中……俺たちは団長を失った。彼はヴェスパの中でも”特に異常な強さを持つ化け物“を引き受け……王女が逃げるための時間を作り、彼女を守った。


 現在、王女は城の地下の最深部で自らの身を封印し長い眠りについている。


 いくら魔物がひしめき合おうと、もう絶対に最深部に辿り着くことはできない。陥落するような非常事態になると、あの城はそういう構造になるように出来ている。

 なんとかしてその状態にはもっていく事ができた。


 ──最重要の任務を果たし、俺たちは城の最奥に至るまでの道中を引き返すと、危険な化け物を引きつけたアヴィオール団長は……もう助かりようのない姿となっていた。


 今も脳裏に焼きつき、その光景が幾度となく繰り返される。


 駆け寄り、あの大きな手を取ったときの……指の冷たさは忘れようがない……。

 そして、残った最後の息で、団長は言葉を遺した。

 

『これで……団を、ガルフィスを……繋いでくれ』


 血に塗れた、震える手で……俺は、この古の竜の巨剣“ドラゴニス”を託された。


 ……


 かねてから『妹がいる』とは、聞いていた。


 だけど、王家の血筋であるというその真実は決して明かそうとはしなかった。


 きっと、この子……妹のシーネを含めた大切な人を守り通すためだ。


 ヴェスパは血筋を嗅ぎ分けるという。

 ヤツらはきっと、王家の血筋の能力を奪うために……彼女を拐おうと、尚も襲ってくるだろう。


 ガルフィスの未来へ繋ぐには、瘴気を祓うとともに、遺された団長の妹を……王女“スティア”と同様に迫り来る蝿の化け物から守らなければならない。


 俺たちの誇りである騎士団……その団長でありこの子の兄の意思を引き継いで──

AI非使用

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