表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

第3話. 銀の焔と傷ついた心

「……」


 少女はその不思議なチカラを納めると、無言のまま目を伏せている。


 眼前の敵を屠ったことでほんの少しばかり安堵が伺えるようだが、全体としてその表情は重く、暗い。


 きっと、この子は心に深い傷を負っている。

 地獄のような今の状況であればムリもないだろう。

 この町では……ガルフィス王国では沢山の繋がりが絶たれ、今尚、人々があの蝿の魔物に襲われ続けている。


 ひとまずここは危険だ。


「……教会へ行こう。ここよりは安全だ」

「……」

 少女は無言で小さく頷いた。


 幸いにも、教会はここからは近い場所にあり、ヤツらに遭遇せずに辿り着くことができた。


 入り口から入ると、中は荒れているが、逃げ延びた町の人々が集まって来ているようだ。


 この場所には、ヴェスパを退けることのできる特別なものがある。

 それは、祭壇に灯る、銀色に煌めく焔……だがその勢いはどうも弱々しい。


 ……それでも、冷え込んだ空気を幾分か暖かくしてくれている。

 少女は暖をとるように手を掲げている。


 この“銀の焔”は、知らない誰かが特別なチカラで生み出し、それをとある老人がこの地に届けてくれたものだ。

 

 ヴェスパを退け、唯一の特攻となる焔。

 これは魔法で生み出されている。


 魔法──


 俺たちが全力で守った王女”スティア様”によると、人には多かれ少なかれ、自身の願いを叶える力を少しずつ持っているという。


 この世界には、その”願い“……個人が持つそれぞれの特別な感情──即ち“意思の力”を使い、“魔法”として現実に出力する者たちがいる。


 それが“魔導士”だ。


 ただし、魔法を使うには訓練でどうこうなるものではなく、特別な”血筋“が必要で、代々続いてきた”王家“や極めて限られた家柄でなければその力は使えない。


 ガルフィスの王女“スティア様”や、不思議な能力をもつこの少女……。そして、ヴェスパが嫌がり弱点となる、この”銀の焔“を生み出してくれた者が“魔導士”にあたるだろう。


 この焔に込められている感情、意思は複雑なものではないらしい。大切な者を失った人に寄り添うような、白百合のような素朴な意思。だから、人に触れても熱さは感じず、優しい温もりが傷ついた心に染み込むという。


 そのためもあってか、どうやら少女はこれを気に入っているようだ。この焔を生み出したどこかしらの魔導士とひょっとしたら気が合うのかもしれない。

 

 ──もし、もう少し焔に勢いがあれば、火種を継いで武具に応用し、他の兵士や騎士もこれを使って、皆でヴェスパと戦うことができるだろう。


 だが、見ているうちにも、この“銀の焔”は、ほんの少しずつではあるが、だんだんと弱くなっているようにも思える。

 このまま夜明けを待つ前に消えてしまいそうだ。


 聞くところによると、どうやら“瘴気“がこの焔を弱めているらしい。


 魔法は生み出した魔導士の感情のほかに、その場の感情の影響も受けてしまう。

 言わば雰囲気と同義で、それはマナと呼ばれる。


 この町に立ち込める絶望や諦め、哀しみといったネガティブな空気感があまりにも強くなってしまうと”瘴気“となり、ポジティブな感情から生み出された魔法はやがてそのチカラを失ってしまう。


 この地の、ガルフィスの人々が無数に襲いくるヴェスパと戦えるようになるには、この銀の焔を再び力強く灯し、皆の身を守り、戦うために分かち合うしかない。


 そのためには心が折れかかっている人に手を差し伸べ、絶望といった負の感情から皆で立ち直る必要がある。


 ──瘴気を祓い、銀の焔を通すこと──


 それが滅びゆくこの国……アストリアの未来を繋ぎ留める唯一の手段だ。


 皆で命懸けで王女“スティア様”を守り通した努力を無駄にはできない。

 少しでも希望があるのならなんだってやる。


(希望……か)


 俺は暖をとるように手を掲げる少女に向かい、そっと声をかける。

「さっきは、ありがとう」


「……」

 彼女はこくりと小さく頷いた。

 こんな時、冗談のひとつでも言えたらいいのだが……。


「俺の名前は……オルサス。オルサス=グレイブロック」


「君の名前は……」


「…………」


 少女は、しばし黙り込んだのち、ふとこちらに顔を向ける。

 銀の焔で照り返る血の色の宝石のような瞳。

 凛として、それでいて穏やかな目元──


(さっきは気づかなかったが・・・この髪の色、そして目元)


 ぽつりと少女が呟くように言った。

「シーネ……」


(面影が・・・・・・ある。およそ年齢も合う・・・)


(間違いない)


 俺は心に思ったことを思わず口に出してしまう。

「シーネ・・・・・・カリナ?」


「!」


 少女は目を見開き、驚いた表情を見せる。


(やはり・・・)


「いや、すまない。君のことは知らないんだ。ただ、その……似ていると思ったんだ。……俺の憧れ……だった人に」


「・・・」


「この剣の持ち主だ」


「知ってる・・・」

 シーネはふと“ドラゴニス”に目をやり、呟くように言う。


「それを持っていたのは……私の、お兄ちゃんだから」


(!!)


「そう・・・か・・・」


 少女は目を伏せ、俯いてしまう。

 流石に踏み込み過ぎてしまった事を、俺は反省する。


 銀の焔が弱まっている様子を目の当たりにした焦りもあったが……この焔が勢いを取り戻すには、まず心を回復させるのが優先だ。


 傷ついた心を癒すには、まずは時間が必要かもしれない。


 ……


 静かな時間。

 俺は暫し、思案する。


 先程シーネが披露した不思議な能力と、彼女自身のの言葉で、ガルフィス騎士団長“アヴィオール=カリナ”が俺たちにずっと秘めていたことの真実がどうやら繋がった。

AI非使用

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ