第2話. 古の竜の巨剣を支えるチカラ
ここにヴェスパがいたのは恐らく偶然ではない。
奴らは、手負いの兵士にわざととどめを刺さず、助けに向かった人をおびき寄せる。
この者はもう既に亡くなっているが、あまりにも凄惨極まりない姿に現に少女が弔いにきた。ヒトを試し、心優しい者を利用する悪魔のような残忍さ……。
目の前の個体は体長2mを超える、“ゴブリンイーター”と呼ばれる、比較的よく見かけるタイプの個体だ。こいつらは近接戦闘に優れている。
そして、どうやら武器は持っていない。
叩き込める間合いまで間も無くだが、敵はジッとしている。
少女は邪魔になる位置にはいない……。
(いけるか・・・)
(──いや──!)
異様な気配、微かな異音──
こいつらは何処までも……!
“ゴッッッ!!!”
──俺の後方から頭部を狙う影。
俺は振り向き様に大剣“ドラゴニス”を一気に振り抜き、それを薙ぎ払う。
幸いにも不意打ちの不意を突くことができ、尚且つ高度があり、少女を避けた軌道で攻撃ができた。分厚い大剣から繰り出される一撃は、俺の背後で不意打ちを狙っていたヴェスパの頭部に命中する。
比較的小型のシルエットをした、ヒト型の蝿の魔物。コイツは集団で武器を盗む”ラドロピクシー”と呼ばれるタイプだ。どうやら耐久性は“ゴブリンイーター”よりは低く、ぼとりと地に落ちた。
恐らく、前方にいた個体は……囮だ。
武器を手にしておらず、好機だと思わせておき、背後の個体が音を殺し急速に近づいてきていた。それは血塗られた長剣を手に、俺の首をはねようとしたのだろう。
──そして、どうやら前方の個体も”武器を持っていないと見せかけていた“。足元の茂み、あるいは不気味な木の影にでも隠していたのだろうか、気づけばヤツは武装している。ガルフィスの騎士が持つシールド、そして近衛の両手剣…をヤツは片手で持っている。
虫の顔からその表情は読み取れないが、手にする剣は誰かを殺め血塗られており、冷酷なる殺意が感じ取れる——
そして、瞬間——ヤツはこちらにぬっと近づいてくる。
(来る……!)
先ほどは不意を突くことが出来たが、正面で対峙した場合のヴェスパはその体躯や武装からは想像もつかないほどに素早く、手強い。
”単なる迎撃“ではやられる。
俺は奴の間合いに入る直前のタイミングでこちらから踏み込むと同時に大剣を叩き込む。仰々しい大きな剣身のリーチを活かした攻撃──
"ガァン!"
一撃は"ゴブリンイーター"がガルフィスの騎士から奪ったシールドにより受けられる。
さすがに衝撃が強いのか、ヤツは態勢を崩す………チャンスだ。
だが——
(くっ、やはりとてつもなく”重い“……!この武器は……!)
”ドラゴニス”
……この武器の本来の持ち主は、俺ではない。
もともと持っていた俺自身の武器は、奴らとの戦いでその外殻に刃が通らず“折れてしまった“。
武器を失った俺は、ある人物からこの巨大な剣を託され、その意思と共に受け継いだ。
この剣には、英雄に討伐され、かつてアストリア全土を脅かした古の巨竜”ラスタバン=ファフニール”の骨が使われている。支え繋ぎ留める骨、"胸骨"と、剣の形をした突起の部分だ。
いくら硬いハエの魔物の外殻といえども、素材としてのその質は比較にはならないだろう。
──が、扱うにはあまりにも巨大で重すぎる。
これだけの圧倒的な質量。文句なしに伝説級の武器と言っていい。元の持ち主は、コレを扱うそれだけの資格があった。
だが………俺はこれを"あの人"ほどうまくは使いこなせない。
態勢を立て直した"ヤツ"が迫る。
何とかもう一撃は振るうことは可能だ・・・が、この武器を使ってヴェスパと対峙した状態で仕留めるには、単発ではなく相応の"連撃"が必要だろう。
化け物じみたこの巨剣を操り、次の一撃に繋がなければ・・・!
態勢を立て直した"ゴブリンイーター"が真っすぐ剣を突き立て、突進してくる。
(まずい・・・!)
リーチはある。が、ヒトを超えるスピードを持つハエの魔物だ。
踏み込まれすぎて、この重い武器では間に合わない・・・!
それでも・・・・・・!
——“|支え抜く血麗石の立体魔法陣!!”——
間近に迫る剣、俺は体幹・脚・腕に渾身の力を込め、迫りくるヴェスパに"ドラゴニス"を振るおうとする。
その結果は・・予想だにしないものだった。
"軽い"
まるで、魔人かなにかの巨大な手が支えてくれているかのように、ふっ——と、急に負荷が軽くなった。
繋がるはずのなかった、あまりにも重すぎた巨大な武器の攻撃が、嘘のように繋がり続ける。
剣士を志す者の誰もが初めに手にする、手になじんだ"ショートソード"をいまになって自在に扱っているかのようだ。
気づくと俺は、"ゴブリンイーター"が奪ったガルフィス騎士団の盾を吹き飛ばしていた。
衝撃でのけ反るヴェスパの上体。そこから更に一撃を叩き込むのは………造作もなかった。
そして、"ゴブリンイーター"は、上半身と下半身が泣き別れになり、崩れ落ちた。
俺と"ドラゴニス"に起こっていること。
それは血液のような色の結晶からなる、幾何学的な、無数の骨組み構造だった。結晶の柱からなるいくつもの三角形が連なり、俺とこの巨剣をまとい、支えている。
これをやっているのは………俺の後ろにいる少女。
両の手を向かい合わせるように掲げ、血の色をした宝石のような格子が指に絡み、組みあがっている。
子供がひもで遊ぶような、"あやとり"のようだった。
俺はこの不思議な力を知っている。
"魔法"………よりも更に特別なチカラ………。
化け物どもから俺たちが全力で守ってきた………堅牢な騎士団が断ち切られる程の犠牲を払い、何とか守り通した"ガルフィスの王女"。・・・彼女が持っていた特別な能力に近しいものだろう。
これは"王家の血筋の能力"だ。
それをどうしてこの少女が・・・。
この子は、いったい——
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