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第12話. 蝿の兇手 オークハンター

(どうする……?『戦う』とは言ったものの、真正面から挑めば確実に死んじまう……!それどころか装備も奪われ、死んで敵を助けちまう足手まとい以下だ……!)


 静まり返った教会の礼拝堂。そのすぐ外では蝿の化け物が下から上まで取り付き、囲む。

 最早、いつ侵入されても不思議ではない状況であった。

 ピエトロとトレロはすぐさま行動に移すべく、祭壇へと駆け寄る。そして、この戦いにおける、絶対の優先事項、ほんの小さなゆらめく焔から、ピエトロはトレロが持つ、消えた白百合のランタンに種火を移す……。


(ヤツらが侵入すれば祭壇の焔はどのみち消えちまう……。だが、このランタンは持ち主のマナの影響も受ける……種火を運んでいる者が絶望していなければ、焔はギリギリ持つかもしれねえ。持っている焔を消さなければいい!)


(そして……再びこの焔を復活させることさえできれば、俺たちは戦える!保証があるわけじゃないが、俺ら2人以外が全滅した証拠があるわけでもない。みんなきっと大丈夫だ。人が消えているのは不気味だが、騎士の遺体を見ているわけじゃねえ…ここは、皆がどこかで生きてくれていると信じる!)


「トレロ、さっきのは、間違っても死ぬために戦うっつー意味じゃねえからな?」

「わ、わかっている・・・。どうせなら勝つ」

「そりゃ言い過ぎだ。・・・いやむしろそれくらいの意気じゃないと焔さんは守れねえのかもな」


『ただ殺され奪われる事は避けなければならない』、騎士としての誇りはあるといえ、それは2人の共通の認識であった。


(だがよ、落ち着いて現実も見なきゃなんねえ・・・俺たちの武器、道具、スキル!そしてこの場所、ここにあるもの全てを使って生き延びる方法がきっとあるはずだ・・・!)


 礼拝堂自体の空間。ここは、武器を振るうには十分広いスペースはある。しかし数で圧倒的に上回るヴェスパとまともに戦闘になれば、囲まれ背後や死角を取られる事は避けられない。


(そして、この教会の構造……!この礼拝堂以外だと、出入り口近くと奥から上の階に行ける。上の階からはその気になれば他の建物にも飛び移れそうだ。……更にここには地下に通ずる道があるはず……。そこはかつて戦争だった頃に避難場所として使われていたって聞く……。だが俺はシルベニア出身でそんな昔からここにいるわけじゃねえし、管轄外のエリアのことは正直よく知らねえ!)


 絶対の優先事項を進めつつ、改めて辺りを見回すピエトロ。そして、何かに気づいた。


(・・・これは・・・使うしかねえか!?今!)


 ピエトロ、そしてトレロは祭壇の銀の焔から種火を白百合のランタンに移し・・・もう少しで終える・・・。


 まさにその時──


“ガッシャアアアアン!!!”

 上方のステンドグラス。そこに描かれているのは朝焼けの麦畑の中の、白き衣に身を包む女性。掲げるのはアストリアにおいて叡智の象徴である角笛──それが描かれた部分からガラスは粉々に砕かれ、つんざくような音と共に、一斉に蝿の魔物が侵入する。


 四方のグラスから、そして正面の大扉からも次々と入りこみ、獲物を認識する──


「来やがった!」

(こいつら、身動きがとれない補給中の無防備なところを・・・!!)


「トレロ!!戦うぜ、種火は1つランタンに移し終えている。こいつがあれば十分だ!!」

「あ、ああ!!」

 2人は得物を構える。ピエトロはブロードソードに分厚いシールド、トレロは両手斧。2人とも手持ちは近接武器だ。


 そして、祭壇の下に置かれた壺を手に取り、敵が群れ塊をなす空中へと放り投げた。


「トレロ!ちっと伏せててくれ!!」


 ピエトロが叫ぶと同時に、彼はシールドの先端を壺へと向け、そのグリップを力強く握り込む、

“ガチッ”

 シールドの内部で何かが装填されたような音、その直後、内部の物が空中に弧を描く壺へと勢いよく射出される。

 そして、自身の分厚い盾ですぐさまトレロを庇った。


“バックラーグレネード”──!!


“ドゴオオォオオッッ!!!“


 ピエトロの分厚い大型のシールドから勢いよく射出されたのは、小さな木製の丸盾──を改造した“盾爆弾“だ。

 壺に命中し炸裂したその中身は蝿の塊の中で轟音と共に銀色の煌めき、周囲四方へ衝撃とともに飛散する。

 焔を浴びた魔物は即座に灰となり、直撃していないヴェスパも上空のものはボトボトと地に落ち、もといた地上の化け物はその勢いを失った。ピエトロの持つ盾は、機工じかけの“ギミックシールド“であった。


 そして、盾爆弾が命中し、礼拝堂を吹き飛ばさん勢いで爆発した“壺“。


 "シルバーポット"──

 銀の焔を圧縮した壺は、礼拝堂にひしめく蝿の魔物を灰へと変える爆弾として機能する。

 瘴気が立ち込める状況下では焔は消えてしまうものの、突発的な火力があり多数のヴェスパに対しては瞬間的に有効な効果を発揮する。ただし、製造には十分な出力の焔が必要となる、貴重なものだ。


「祭壇のものを使うなんて罰当たりだって思うか?トレロ」

「・・・い、いや、むしろこういう時のためにあったんだろうこれは」

「神様・・・いや神様がいるのかわかんねーけど、きっと神様みてーなあったけえ人間が残したものだろうな」

 ピエトロの視線は、祭壇に佇む縦に積み上げられた奇妙なコインの塔に一瞬ふと注がれる。


「・・・来るぞ!!」

「わ、わかっている」


(ちっ、あいつがいんのか──!!)


 焔を浴び、その周囲の敵は地に落ち動きが鈍っている。

 だが、その更に奥から急接近する大型のヴェスパを2人は目にした。


 天井まで届かんとする勢いの“怪物“。

 入り口からその魔物の邪魔になる建物の構造は強引に破壊されている。


 体長2mを超えるゴブリンイーターとは比較にならないほど大きく、重厚な装甲を持つ個体。

 その手には、その大きな腕を軽く振るうだけで目の前の障害を叩き潰す、血塗られたウォーハンマーを手にしていた。

 そしてどうやら、その化け物はシルバーポットから炸裂した銀の焔を浴びていない。


(くそっ・・!瘴気がなけりゃここに来たって力を削げるんだが、すぐに消えちまう・・・!焔頼りじゃダメなのか!それ以外にあの化け物を討伐する手段なんて存在するのか・・・!?)


“ドゴオォン!!!”


「ぐぅうっ!」


 砕け散る音。その巨体の化け物は、片手で教会の長椅子を持ち上げ祭壇の前に立つピエトロ、トレロに向かい力任せに投げつけた。

 長椅子はシールドへと命中し、木片が飛び散る。


「ピ、ピエトロ!」

「あんたが後ろで支えてくれてるおかげでぶっ飛ばされずに済んだぜ」

「あ、ああ」

 その巨体は、多数のヴェスパと共に確実に2人の元へと足を進める。


“オークハンター”

 それは、縄張りにオークの生首を刺しておく習性を持つ、一般的なものよりも巨体を誇るヴェスパ。

 見た目通りの圧倒的なパワーと装甲を誇り、ひとたび暴れ出せば、銀の焔なしでは人間が止めることは通常困難である。


「焔は・・・」

「ランタンの中は無事だ。だが武装として使える出力じゃない!祭壇のは・・・消えているだろうな。かなりまずいな。ポットを使わされちまったようだ」


(あのハンマーは流石に受けらんねぇ!ここは撃って凌ぐ──!)


「バックラーグレ──」


“ドゴォォッ!!”


 2発目の“盾爆弾を射出しようとした矢先──、巨体のヴェスパ……オークハンターは目にも止まらぬ突進を見せ、ウォーハンマーを叩き込む。

 2人は咄嗟に左右に分かれ、ギリギリで回避する。


 ──が、一撃目を回避した安堵の隙もなく、2撃目が迫り来る……。

 数々の命を奪ったであろう、血塗られた大槌が、2人の目に焼き付けられた。


(・・・“死“・・・死ぬのか・・・俺は・・・)


(『こんなところで!』俺たちは・・・・・・人類は・・・こいつらに・・・)


(焔が・・・消え・・・)


(・・・?)


 違和感。


 ピエトロの目に焼きついた大槌。次の瞬間自分を叩き潰すはずのそれは、宙に静止していた。


(何だ?時間が止まっている?)


(・・・いや、違う・・・!)


 ピエトロは、祭壇にあった、縦に連なるコインのタワーを思い出す。

 調べる間もなかったが、あれは何か不思議な力で、支えられ固定されている・・・と彼は感じ取った。


 そして、直感する。


 それと似たような力で、このハンマーは固定されている──

 そして、目の前には、確かに“在る“。

 自身の死を直前で止めたそれは、柄を縛り上げる、血のような紅の結晶だった。


“ドゴオッッ!!!”


 オークハンターの腹に“何か“が炸裂する。その重く、重厚な巨体は後方に勢いよく吹き飛び、塊を作っていたヴェスパの何体かは下敷きになった。まるで、魔神か何かが怒り鉄槌を食らわせたような。あるいは猛き竜がその尾で他所者を薙ぎ払ったかのような──


 そこにいるのは・・・。


 それはまるで、一見すると墓石のように佇んでいるように見える男。

 が、彼は、騎士団にとって欠かせない“意思“を受け継いている。


 その手に握り、巨体を叩きつけ吹き飛ばしたそれは、かつて死にかけたアストリアが危機を乗り越え克服した象徴、またガルフィス王国の誇りにして……団長の形見となる大剣“ドラゴニス”だった──


「ピエトロ!!それにトレロ・・・!!」

「オルサス!?」

AI非使用

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