第11話. 残された者たち
オルサスが祭壇の隠し通路から教会の地下、そしてゴブリンの都市を抜けていた頃——
入れ違いとなる形で、駆け込むようにして教会に到着した者が二名いた。
「おいおいおい、二人・・・だと!?たったの二人・・・うそだろ。そっちはどうだ?トレロ!」
「だ、ダメだ……誰もいない、ピエトロ。……おれ達の仲間も、そしてさすがに市民も避難していると思ったが、……ど、どうやら教会には誰もいない。銀の焔も消えかけだ……」
「どうなってやがる・・・町で見かける"ヒト"は奴らに襲われた兵士の死体ばかり・・・。民家には灯りがついているところもあるが、生身の人間がいねえ・・・!」
ガルフィス騎士団 戦闘ランク12位 のこぎり頭のピエトロ——。ピエトロ=カークスヘッド。
細身の長身、黒灰色のガルフィスの甲冑に身を包み、両脇を極端に短く刈り込んだ銀のモホークヘアに、髪型が邪魔とならない特注の兜を、鋭い目つきの男。重厚な近衛騎士の盾に、幅広の両刃片手剣、ブロードソードを手にしている。
トレロの故郷は武と剣の国"シルベニア"。彼はそこで培った戦闘技術の基本に即した堅実なる立ち回りを守る男である。その様は一見地味であるが、それに新しい知見や技術を即座に取り入れ加える彼の気質は、戦闘で生き延びるための様々な"道具"を駆使することを可能とし、ここまで生き延びていた。
もう1人、ガルフィス騎士団 戦闘ランク8位 すね砕きのトレロ——。トレロ=スチールマン。
オルサスに並ぶほどの大きな体格、目が隠れそうな黒髪。
静かに佇むその寡黙そうな雰囲気にその体格を十分に生かせる両手斧、ウォーアクスを相棒としている。彼もまた、ピエトロと同じくシルベニア出身であり、傭兵上がりで騎士まで上り詰めた。故郷で培った剣の技術をその大きな戦斧に応用し、見事に相手を制する独自のスキルを確立。。さらにガルフィス独自の防衛術を取り入れ、彼は戦闘スタイルをカウンターに特化したものへと磨き上げた。それがヴェスパとの戦闘で噛み合い、ここまで生き延びてきていた。
「……あ、相変わらず、通信端末は使えないままなのか・・・?」
「トレロの場所だけはわかるぜ。つまり相当近づかねえとだめだ・・・これじゃ使えねんだよ・・・!」
騎士たちが王女の護衛の任務を果たし、団長——アヴィオール・カリナが討たれた直後──
集団で向かったとて押し返される大きすぎる戦力差に、城内の防衛は最早叶わず、集団で玉砕することによる全滅の危機を避ける必要があった。
ガルフィスの防衛を直に担当する"直属騎士"は総勢で24名。守るべき城下町は東西6ブロックずつに分かれ、東西12人ずつがペアを組み担当区画が割り当てられている。
ヴェスパとの戦いで団長を失った彼らは、各担当区画の生き残った市民の救護、そして"生き延びること"を任務とした。
——だが、それは互いの居場所、互いの連絡がとれるということが前提の場合に有効な手段となる。
「くそっだめだ・・・やはり"通信端末"が・・・機能していねえ!魔法機械の国"ユースタシア"も襲撃を受け、異変が起こっているのか・・?あるいは、銀の焔が消えかかっているところを見るに、瘴気が濃くなっているのか・・・両方っていうこともありうるよな?これじゃ誰がどこにいるかもわかんねぇ。文字通り騎士団がバラバラになっちまった——!」
「お、おれは機械のことはよくはわからないが……い、依存していたことが裏目に出た形か……」
「ちっこれだから、あの国は・・・!”ユースタシア”製の魔法道具は最悪の事態のときに限ってポンコツになっちまうんだよ。さっきまでは使えてたのによ、あまりにも急すぎるぜこれは・・・」
「ア……アストリアから戦争がなくなった矢先にこのような事態は想定していなかったのだろう。お、おれ達の国ではこれは製造できない。あまり悪く言うなピエトロ」
アストリアの技術力は、13の国ごとに遥か大きな格差が存在する。
その中でも最も高く、抜きんでた技術力の発展を遂げている国、"ユースタシア"。
願いの力——魔法が使えない者でも、離れた場所で連絡を取り合えるような道具があったなら・・・というような創造性を現実に出力し作られた道具は"魔法道具"と呼ばれる。
圧倒的な技術力を誇る魔法機械はガルフィスを含めた各国に輸出され、既に軍にとっての欠かせないインフラとなっていた。
特に、仲間の位置の特定や、通話や文字を使ったやりとりを可能とする、薄く掌に収まるほどの装置"通信端末"はその典型である。
ただし、製造元の国自体の”異変”、そして強すぎる瘴気は魔法の作用を阻害してしまう。
ピエトロの読み通り、その両方が正しく、ユースタシアもまたヴェスパの襲撃の対応に追われ、なおかつ濃さを増す瘴気により端末の機能は突如奪われていた。
(あの祭壇で燃えている、銀の焔……。あれもこの町には至る所で燃えていた。……が、町の様子を見るに、瞬く間に消えていっている、たぶん焔が残っちまったのはここだけだ!そして、俺は騎士の皆がここに戻ってくると踏んだ。だが、俺を含めて集った騎士はたったの二人……。残った者で決めたとはいえ、最悪の状況……道具への過信が裏目に出ちまった完全な悪手!団長さえいればこんなことにはならなかったハズだ!)
「・・・とにかく銀の焔を守るぞ。あれが消えたら俺たちゃお陀仏だ。・・・銀の焔じゃなくても、奴らに効果が見込める"火"を使いこなすやつでもいてくれればいいんだがな・・・。なあトレロ!お前は……本当に他の誰にも会っていないのか?」
「・・・」
いつも寡黙な様子のトレロだが、目を伏せるその態度には何かある、とピエトロは感じ取った。
「・・・どうなんだ?」
「実は・・・あ、あの後・・・皆散った後・・・同胞に・・・会いはした・・・」
ピエトロは視線を下に向けたまま、秘め事を絞り出すように告げる。
「なに!?いつの間に・・・会いはした・・・どういうことだ?」
「"ナスタジオ“だ。ざ、残念だが・・・あいつはもう、俺たちとは戦えない」
「・・・!」
ピエトロは目を見開き絶句する。
「こ、この地を去ると言っていた」
黒針ねずみ ナスタジオ、彼はガルフィス騎士団において戦闘ランク23位だ──
「去る・・・って、何処へ!?」
「此処じゃないどこか・・だそうだ」
「止めなかったのか」
「も、勿論止めた・・・だが、既に言って聞くような状態ではなかった。あいつの心は、折れていた。・・・共にいると、俺にまで影響しそうだった。黙っていてすまない・・・」
「奴らは外から来たんだ・・・俺たちが再び集まった場所以上に安全なトコロなんかありゃしねえだろ!残された者の気持ちも考えろよ・・・!」
「お、落ち着け、ピエトロ。・・・俺が会って去ると言ったのはあいつ一人だけだ」
「・・・」
「し、信じよう。ガルフィス騎士団はそんなヤワじゃないさ。きっとみんなそれぞれの事情があって、まだどこかにいる。生き残り、元通りになる機会をうかがっているのさ」
「・・・だといいがな」
「あ、安心しろ。最後の一人になったとて、俺は戦う。お、お前は・・・ピエトロ」
「俺もだよ!当たり前なこと言わせんな!」
この状況では、当たり前では、なくなっているのかもしれない……と、ピエトロは心の何処かで歳悩む。
探した範囲において、市民も、騎士も見当たらない。ヒトが魔物に置き換わったような、異常な状況。
そして、たった二人の当たり前とは……と。
・・・
「おい」
「・・・」
ふとピエトロは辺りを見回す。
彼はそれを察知した。
教会の、伝統的で美麗な、色とりどりのステンドグラス・・・朝焼けと黄金の麦畑をモチーフとしたそのグラス。
その、向こうにへばりつく長い手脚を生やした不気味な影。
——びっしりと、ついている——
それだけではない、教会の扉の一枚奥からギチギチ・・・と聞こえる、人間ではおよそ出しようのない異様な音・・・。
それは多重に連なり、四方八方から聞こえてくる。
「俺達・・・・・・囲まれてるぞ」
[AI非使用]




