"白色"
「あ゛あ゛あ゛あ゛畜生ッッ………」
磨かれた大理石の舞台の上で、裸に剥かれ、後ろ手に手錠をされた有翼の少年が、震えながら涙を流して居る
私は、舞台の正面に立つ唯一の椅子から立ち上がると、「天使がそのような言葉を喋るのは」「感心しないな」と言いながら、彼の頬をしたたかに張った
少年が涙を流して居るのは、想像を絶した痛みによるものだ
彼は現段階で人類に捕縛されて居る、この世で唯一の天使個躰であり、私の玩具でもある
と言うのも、一般的人類の頭脳では、形而上学的要素すら含んだ天使の肉躰組成を理解する事は不可能に近く、研究の現場は私のような一部の天才に完全に丸投げされて居るからだ
私自身がそうであるように、当然、他の研究者達も冒涜的な願望を持った狂人揃いであり、既に少年は何度も躰を切り刻まれては、私のですら口するのも憚られる様な種類の手術や実験を繰り返されて居た
いま少年が苦しんで居るのも、その『実験』によって下腹部の内側に、鶏の卵巣を接合されて居るからだ
お陰で私は毎朝、彼の産んだ生命を朝食にする事が出来る
神が、私の篤信に報いた結果に違いなかった
「何しろ、今朝の卵は『有精卵』だからな」
「さぞ美味い事だろう」
再び椅子に掛けると、私は少年を視守った
天使はひゅう、ひゅう、と消え入りそうな息を吐きながら、瞼を硬く閉ざして居る
暫く我慢強く視守ると、真っ白な舞台の上に、同じかそれよりも清純な白さを持った卵が転げた
痛みの限界を超えたのか、少年が今度は瞳を視開いて咳き込み始める
また卵が転げ落ち、それよりも遥かに多い数の、透き通る綺麗な涙が舞台をうっすらと濡らした
声にならない声を上げて倒れた少年の近くから、卵を一つ拾うと、私は視線で合図し部下を呼び寄せる
研究員が私の椅子の隣に在る台に、銀のボウルを置いた
少年が、はっとした顔で───絶望に満ちた視線で、私の手にした卵を視た
「止めろ………!!」
「……………」
「………止めて」
「…………止めて下さい」
「お願いします」
懇願を聞きながら、私は少年を横眼で視続ける
彼が頭を下げて何も言わなくなった頃合に、私は慣れた手付きで片手で卵を割り、中身をボウルへと落とした
事実として、有精卵なのが初めてなだけで、こんな程度の事は我々は毎日行って居る
慣れない筈が無かった
「準備が出来ました」
部屋の隅に在るコンロから研究員の声と、熱されたバターの香りや音がする
私は少年に、「今日は『中身入り』だしな」「お前にも食べさせてやろう」と耳打ちした




