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第八話










 

 犯罪者達は、皆口々にこう言う。「こんなはずじゃなかった」と。しかしその多くが、犯罪がまだ明るみに出ていない内は、心の中でほくそ笑んでいるのだ。「どうせバレやしない」と。



 ⸺犯罪心理学者、田中正義著【完全犯罪は可能なのか】より抜粋


















 夏休みが終わって、新学期が始まった。

 僕は何食わぬ顔で学校へ行って、クラスメイトと他愛もない雑残を交わして、退屈な始業式を終えて、また何食わぬ顔で家へと帰った。

 …おさむ君は、この時から学校へ来なくなった。


「あの後、どうしたの?」


 一度たけし君にそう聞きに行った。


「……上手く処理した」

「処理って?」

「もうあの事は忘れろ」


 物凄く静かで、だけど「それ以上は聞くな」と暗に含ませた厳しい顔で、たけし君は僕に言った。臆病者な僕は、それに従って深入りする事をやめた。

 香織さんが居なくなって、ニュースになっちゃうかなと思ったけど、テレビどころか地元の新聞にすら報道はされていなかった。驚くほど、本当に何もなく時間は過ぎた。

 一ヶ月くらい経って、心配になっておさむ君の家へ行ったら、


「………もう俺に関わらないでくれ」


 その一言を最後に、彼と話す機会は訪れなかった。

 犯罪者になった僕は、その後ものうのうと生き延びる事が出来た。

 あの夏休みの事件の前と後で変わったのは、時折誰かに追われる悪夢を見る事くらいで、それ以外は怖いくらいの平穏と退屈に満たされた日々を過ごした。まるであの出来事が嘘だったみたいに、本当に何も起こらなかった。

 季節が過ぎ去って、一年が経って、また夏休みが訪れて。受験で忙しくなった僕は、たまにあの夏休みの事を思い出しながらも、すぐに忘れては勉強に明け暮れた。

 たけし君も、気が付けば疎遠になっていた。

 あの件が終わってすぐは、罪の意識でまともな生活を送れなくなりそうだと思っていたけど、人間は案外図太いものなんだと気付いた。同時に、一年も経てばもうバレないだろう、という気持ちも湧いてきていた。


『次のニュースです。〇〇県〇〇市の川沿いで、女性の変死体が…』


 何年か後にすぐ近所で女性の遺体が見つかってヒヤッとはしたものの、実際にバレるような事は無かった。変死体も結局、身元不明のまま終わってしまったから、それが香織さんだったのかすら確認できなかった。

 そしてさらに時間は過ぎて。


『久しぶり。話がある』


 旧友の彼から連絡が来たのは、二十年も経ったある日の事だった。













 

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