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第四話










  お天道様が見てる、という言葉がある。これは、「だから悪いことはするな」という教訓でもあるが、同時に「誰かに見ていてほしい」という願望でもある。



 ⸺犯罪心理学者、田中正義著【完全犯罪は可能なのか】より抜粋

 














 八月も終わりだというのに、まだまだ暑い。

 太陽は燃えるようなその光で燦々と僕らの街を照らしていて、じっとりと纏わり付く湿気を含んだ温度が、僕らの思考を少しずつ鈍らせていく。目眩さえ憶える日光に、まるで「これ以上、もう考えるな」と言われているような気がした。

 この計画を聞いた時、僕はどこかで「成功するはずがない」そう思っていた。いや…「成功してほしくない」と本心では思っていたかもしれない。

 これが成功してしまえば、僕らは立派な犯罪者。きっとバレたら一生日の元で生きていけない。それくらいの大罪を、今から僕らは犯そうとしている。みんな心のどこかで止めてほしいと思ってるんじゃないか、そんな疑惑を抱えながら、それでもやろうとしている。

 やめようと言い出す事も出来ないまま準備は怖いくらいに順調に進んで、その間に気が付けばあんなにも輝いていた太陽は姿を消した。

 あまりに現実味のない現実が、間近に迫ろうとしていた。

 暑さではない汗が頬を伝って、顎からポタリと流れ落ちる。それを拭く精神的な余裕もないまま、僕はじっとその時を待った。

 机の上にあった携帯が、ブルブルと震え出す。液晶に表示された名前を見て、携帯に負けないくらい震えた汗まみれの手で、電話を取った。

 最後にもう一度、三人で計画の内容を確認する。全員、どこか緊張を隠しきれていない強張った声色をしていた。


「……って感じだ。行けそうか?」

「ここまで来たらやるしかないだろ」

「う、うん」

 

 そうして僕らはお天道さまから逃げるみたいに、日の沈みきった夜に、


「……行くぞ」


 開けてはいけない扉を、開けに行った。

 



 









 段取りはこうだ。

 香織がバイトで不在中に合鍵で家に侵入、しばらく待機。

 帰ってきたところを、ひとりが後ろから首を絞め気絶させる。

 気絶した事を確認して、用意していたスーツケースの中に詰める。

 予め調べておいた人気が無く、監視カメラもない道を通ってスーツケースを岳志の親が所有する山小屋に運ぶ。

 山小屋に着いたら、スーツケースから出して手足を縛る。

 起きるまで待つ。







 

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