表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

トラックの秘密と初めての旅その2

 トラックの召喚・収納能力を発見した興奮冷めやらぬまま、姉妹は村への輸送任務を続けた。森の中の道は狭く、木々の間を縫うように進む。リリアが馬で先行し、モンスターの気配を探る。

「この辺りは、ゴブリンや小型の魔獣が出る。気をつけろよ」

 リリアの言葉に、彼方はハンドルを握る手に力を込めた。

「う、うん……大丈夫、だよね、此方?」

「もちろんだよ! 私たち、夢で何度もこんな道走ったじゃん!」

 此方の明るい声に、彼方の緊張が少し解けた。

 だが、森の奥に差し掛かった時、異変が起きた。

「ガサッ!」

 木々の間から、緑色の肌を持ったゴブリンが飛び出してきた。鋭い爪と牙、棍棒を振り回す姿に、彼方は思わずブレーキを踏んだ。

「うわっ、な、なに!?」

「ゴブリンだ! 数は少ない、私が対処する! トラックを動かし続けろ!」

 リリアが剣を抜き、馬から飛び降りてゴブリンに立ち向かう。

 彼女の剣技は見事で、一瞬にしてゴブリンを倒していく、だが、さらなる敵が現れた。

「彼方、右! もっと来るよ!」

 此方の叫び声に、彼方はハンドルを切った。トラックが木々の間をすり抜け、ゴブリンの攻撃を回避する。

「このままじゃ、荷物が危ない! どうしよう!?」

 彼方が焦る中、此方が閃いた。

「ねえ、トラック、しまっちゃおう! そしたら、ゴブリンに襲われないよ!」

「え、でも、荷物は!?」

「大丈夫、トラックと一緒にしまえるよ! さっきの感じ、覚えてるよね?」

 二人は再び手を握り、目を閉じた。

「トラック、しまって!」

 光が収束し、トラックが消える。ゴブリンが困惑する中、リリアが残りの敵を一掃した。

「今だ、二人とも! トラックを出せ!」

 リリアの声に、姉妹は再び心を合わせた。

「トラック、出てきて!」

 トラックが現れ、荷台の荷物も無傷のまま。ゴブリンの群れはリリアに追い払われ、森は静けさを取り戻した。

「はあ、はあ……できた……!」

 彼方がハンドルを握りながら息をつくと、此方が彼女の肩に手を置いた。

「すごいよ、彼方! 私たち、めっちゃいいコンビじゃん!」

「う、うん……でも、ちょっと心臓バクバクしてる……」

 彼方の弱気な声に、此方がくすくす笑う。リリアが馬で近づき、感心したように言った。

「見事だったぞ、二人とも。あのトラックの能力、戦いでも使えるな。君たちは、ただの運び屋じゃないかもしれない」

 

 夕暮れ時、姉妹は無事に村に到着した。小さな村「フィオーレ」は、木造の家々と畑に囲まれた穏やかな場所だった。村人たちはトラックを見て驚きつつ、食料や布を受け取って大喜びした。

「ありがとう、旅人さん! この食料で、しばらく安心だよ!」

 村長の言葉に、彼方は照れながら頭を下げた。

「いえ、ただ運んだだけですから……」

「ただ、じゃないよ! こんなに早く、こんなにたくさん届けてくれるなんて、魔法の馬車だね!」

 村人の笑顔に、此方も嬉しそうに笑った。

 その夜、村の広場で小さな宴が開かれた。

 姉妹はリリアと共に、村人たちが用意した料理を囲んだ、驚くことに、メニューには日本の焼きそばやお団子が並んでいた。

「この世界、ほんと不思議! なんで焼きそばがあるの!?」

 此方が箸で焼きそばを頬張りながら言うと、リリアが笑った。

「魔法のおかげさ。異世界の文化を再現する『記憶の魔法』ってやつだ。君たちの世界の料理、気に入ったよ」

 彼方はお団子を手に、そっと呟いた。

「なんか、寮で食べてたみたいで、懐かしいな……」

 その言葉に、此方が彼方の手を握った。

「ね、こうやって一緒にご飯食べてるの、夢みたいだよね。……でも、彼方がいるから、夢でも現実でも、どっちでもいいや」

 彼方の心が、ドキッと高鳴った。いつもそばにいる此方。なのに、なぜか今、彼女の笑顔が特別に輝いて見える。

「うん……此方がいるから、私も、どこでも大丈夫」

 二人の声は小さく、けれど確かに響き合った。

 

 

 村での一泊を終え、姉妹はトラックでルミエールへ戻る準備をした。リリアが馬に乗りながら、二人に声をかけた。

「今回の任務、よくやった。君たちのトラックは、この世界で大いに役立つ。どうだ、正式に私のメイド兼運び屋として働かないか?」

「メイド!?」

 此方が目を丸くすると、リリアが笑った。

「まあ、名目上だ。君たちの家事スキル、屋敷で見たが相当なものだ。メイドとして住み込みながら、運び屋の仕事を続けてくれ。報酬も出すぞ」

 彼方と此方は顔を見合わせ、笑顔で頷いた。

「やりましょう、此方!」

「うん、絶対楽しいよ、彼方!」

 トラックがルミエールの城壁へ向けて走り出す。

 運転席の彼方、助手席の此方。二人の間には、いつものように温かい空気が流れていた。

「ねえ、彼方。このトラック、私たちの絆なんだって。リリアさんが言ってたよね」

「うん。なんか、すごく不思議だけど……私たちのトラックだもんね」

 彼方がハンドルを握りながら言うと、此方がそっと彼女の肩に頭を寄せた。

「これからも、ずっと一緒だよ。トラックも、私たちも」

 彼方の胸が、温かさと少しの戸惑いで満たされた。

「うん、ずっと一緒」

 トラックのエンジン音が、夕暮れの草原に響く。

 二人の旅は、始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ゴブリン襲撃シーンはハラハラしたけど、トラックの出し入れが魔法でできるって分かって、ほんとすごかった!彼方と此方の息ぴったりな連携にニヤニヤしちゃうし、リリアの誘いもまさかの“メイド”でびっくり(笑)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ