トラックの秘密と初めての旅その2
トラックの召喚・収納能力を発見した興奮冷めやらぬまま、姉妹は村への輸送任務を続けた。森の中の道は狭く、木々の間を縫うように進む。リリアが馬で先行し、モンスターの気配を探る。
「この辺りは、ゴブリンや小型の魔獣が出る。気をつけろよ」
リリアの言葉に、彼方はハンドルを握る手に力を込めた。
「う、うん……大丈夫、だよね、此方?」
「もちろんだよ! 私たち、夢で何度もこんな道走ったじゃん!」
此方の明るい声に、彼方の緊張が少し解けた。
だが、森の奥に差し掛かった時、異変が起きた。
「ガサッ!」
木々の間から、緑色の肌を持ったゴブリンが飛び出してきた。鋭い爪と牙、棍棒を振り回す姿に、彼方は思わずブレーキを踏んだ。
「うわっ、な、なに!?」
「ゴブリンだ! 数は少ない、私が対処する! トラックを動かし続けろ!」
リリアが剣を抜き、馬から飛び降りてゴブリンに立ち向かう。
彼女の剣技は見事で、一瞬にしてゴブリンを倒していく、だが、さらなる敵が現れた。
「彼方、右! もっと来るよ!」
此方の叫び声に、彼方はハンドルを切った。トラックが木々の間をすり抜け、ゴブリンの攻撃を回避する。
「このままじゃ、荷物が危ない! どうしよう!?」
彼方が焦る中、此方が閃いた。
「ねえ、トラック、しまっちゃおう! そしたら、ゴブリンに襲われないよ!」
「え、でも、荷物は!?」
「大丈夫、トラックと一緒にしまえるよ! さっきの感じ、覚えてるよね?」
二人は再び手を握り、目を閉じた。
「トラック、しまって!」
光が収束し、トラックが消える。ゴブリンが困惑する中、リリアが残りの敵を一掃した。
「今だ、二人とも! トラックを出せ!」
リリアの声に、姉妹は再び心を合わせた。
「トラック、出てきて!」
トラックが現れ、荷台の荷物も無傷のまま。ゴブリンの群れはリリアに追い払われ、森は静けさを取り戻した。
「はあ、はあ……できた……!」
彼方がハンドルを握りながら息をつくと、此方が彼女の肩に手を置いた。
「すごいよ、彼方! 私たち、めっちゃいいコンビじゃん!」
「う、うん……でも、ちょっと心臓バクバクしてる……」
彼方の弱気な声に、此方がくすくす笑う。リリアが馬で近づき、感心したように言った。
「見事だったぞ、二人とも。あのトラックの能力、戦いでも使えるな。君たちは、ただの運び屋じゃないかもしれない」
夕暮れ時、姉妹は無事に村に到着した。小さな村「フィオーレ」は、木造の家々と畑に囲まれた穏やかな場所だった。村人たちはトラックを見て驚きつつ、食料や布を受け取って大喜びした。
「ありがとう、旅人さん! この食料で、しばらく安心だよ!」
村長の言葉に、彼方は照れながら頭を下げた。
「いえ、ただ運んだだけですから……」
「ただ、じゃないよ! こんなに早く、こんなにたくさん届けてくれるなんて、魔法の馬車だね!」
村人の笑顔に、此方も嬉しそうに笑った。
その夜、村の広場で小さな宴が開かれた。
姉妹はリリアと共に、村人たちが用意した料理を囲んだ、驚くことに、メニューには日本の焼きそばやお団子が並んでいた。
「この世界、ほんと不思議! なんで焼きそばがあるの!?」
此方が箸で焼きそばを頬張りながら言うと、リリアが笑った。
「魔法のおかげさ。異世界の文化を再現する『記憶の魔法』ってやつだ。君たちの世界の料理、気に入ったよ」
彼方はお団子を手に、そっと呟いた。
「なんか、寮で食べてたみたいで、懐かしいな……」
その言葉に、此方が彼方の手を握った。
「ね、こうやって一緒にご飯食べてるの、夢みたいだよね。……でも、彼方がいるから、夢でも現実でも、どっちでもいいや」
彼方の心が、ドキッと高鳴った。いつもそばにいる此方。なのに、なぜか今、彼女の笑顔が特別に輝いて見える。
「うん……此方がいるから、私も、どこでも大丈夫」
二人の声は小さく、けれど確かに響き合った。
村での一泊を終え、姉妹はトラックでルミエールへ戻る準備をした。リリアが馬に乗りながら、二人に声をかけた。
「今回の任務、よくやった。君たちのトラックは、この世界で大いに役立つ。どうだ、正式に私のメイド兼運び屋として働かないか?」
「メイド!?」
此方が目を丸くすると、リリアが笑った。
「まあ、名目上だ。君たちの家事スキル、屋敷で見たが相当なものだ。メイドとして住み込みながら、運び屋の仕事を続けてくれ。報酬も出すぞ」
彼方と此方は顔を見合わせ、笑顔で頷いた。
「やりましょう、此方!」
「うん、絶対楽しいよ、彼方!」
トラックがルミエールの城壁へ向けて走り出す。
運転席の彼方、助手席の此方。二人の間には、いつものように温かい空気が流れていた。
「ねえ、彼方。このトラック、私たちの絆なんだって。リリアさんが言ってたよね」
「うん。なんか、すごく不思議だけど……私たちのトラックだもんね」
彼方がハンドルを握りながら言うと、此方がそっと彼女の肩に頭を寄せた。
「これからも、ずっと一緒だよ。トラックも、私たちも」
彼方の胸が、温かさと少しの戸惑いで満たされた。
「うん、ずっと一緒」
トラックのエンジン音が、夕暮れの草原に響く。
二人の旅は、始まったばかりだった。