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第8話 い、いやあああああ!

 辺りに響き渡る叫び声。声の主は縄で縛られた少女。彼女は突然の出来事に体勢を崩し、「ふにゃ!」と間抜けな声を漏らしながら地面に倒れ込みました。


 ん、んん? なんか、思ってた感じと違う。てっきり何かしらの反撃が来るものとばかり……あ。


 倒れ込んだ少女とほうきで空に浮かぶ僕。二人の視線が重なりました。


「あ、ああああなた、い、いいい一体誰なんですか!? これ何です!? 縄!?」


「えーっと」


「は! ま、まさか。あなた、私を捕らえてあんなことやこんなことを!? い、いやあああああ!」


 すっごい勘違いされてる!


「ちょ! そ、そんなことしないって!」


「ううう。もうお嫁にいけない。お母さん、ごめんなさい」


「ストップストップ! 一回落ち着いて!」


「私……私……うわあああああん!」


「ああ、もう! 師匠、ちょっとこっちに来て一緒に説明してください!」


 何が何だか分からず、僕はほうきを地面に降下させました。




♦♦♦




「ただ魔法の修行をしてただけ?」


「はい。まあ、そんなところです」


 目に涙をにじませながら、少女はゆっくりと頷きました。彼女の体には縄がグルグルとまかれ、一応抵抗できないようになっています。え? 傍から見たらやばい光景? それくらい勘弁してください。実は彼女が師匠よりも強い人でしたなんて可能性がまだ残ってるんですから。0.1パーセントくらい。


「あー。やっぱりそういうことだったんだね」


「え!? 師匠、分かってたんですか!?」


「うん。といっても可能性が高いってだけだったから。確信したのは、この子が魔法を使ってるのを見た時かな」


「それなら事前に教えてくださいよ。といいますか、もしそうなら縄で捕まえるとかもしなくてよかったんじゃ?」


「……確かにそうかも」


「ちょっと!」


 あの緊張やら覚悟やらは一体何だったのでしょうか。全くのくたびれ損。今になってドッと体が重くなってきちゃいました。


「あ、あの。ところで私、どうして捕まったんですか?」


 困惑顔を浮かべる少女。オパールの瞳が僕たちをまっすぐに見つめます。


「そういえば言ってなかったね。実は……」


 僕は、これまで起こったことを少女に説明しました。最近、湖の水で魔法薬が作れなくなったこと。僕と師匠が町長さんから依頼を受けて水質調査をしたこと。湖にかけられたいろいろな魔法が、水質をおかしくしてしまったこと。犯人を捕まえようと二人で見張りをしていたこと。


「えっと。つまり、私がここで修行をしていたせいで、湖の水質がおかしくなっていろんな人を困らせちゃってたんですか?」


「うん。そうなるね」


「そ、そんな。私、最近町に引っ越してきたばっかりで。この湖を修行場所に選んだのもたまたまで。う、ううううう。た、大変なことになっちゃった」


 頬を伝い始める涙。ヒクヒクと痙攣する肩。嘘を言っているようには思えません。少女は、本当に何も知らなかったのです。純粋に、この場所で修行をしていただけなのです。


 ただ運が悪かっただけ。その言葉で片付けてしまいたいのはやまやま。ですが、実際に被害があったのも事実なわけで。


「師匠、どうします?」


「どうするもこうするも。今回のことは町長に話さないと。私たちで決めることじゃないよ」


「で、ですよね」


 分かってはいます。分かってはいるのですが。


「うう。グスッ。ヒッグ。ごめんなさい」


 あああ。いたたまれない。


「さて、とりあえず弟子君に彼女を運んでもらって……いや、私が運んだ方がいいかな。弟子君のほうきは一人乗りだし、魔法で人を運びながらほうきに乗るっていうのも難しいし。あーあ。弟子君の頭の上でのんびりしたかったなー」


 唇を尖らせながら手を開く師匠。瞬間、手の中に現れる杖。彼女が杖を一振りすると、足元にほうきが現れました。僕の使っているものよりも柄が太くて穂先も大きい、師匠オリジナルのほうきです。


「じゃあ役場まで行こうか。あなたは私のほうきの後ろに乗ってね。一応、これは二人までなら乗れるやつだから」


「グスン。はい」


「あ、弟子君。この子の縄、ほどいてあげて。このままじゃ辛いだろうし」


「わ、分かりました」


 僕が『縄で縛る魔法』を解除すると、少女の両手が自由になります。流れる涙を拭った彼女は、うつむいたままフラフラと立ち上がりました。支えてあげないと倒れてしまうんじゃないか。そう思わざるを得ませんでした。


 やっぱり処罰されちゃうのかな。何も知らなかったとはいえ、被害は出てるわけだし。町長さん、どこまで許してくれるんだろう。もし師匠が町長さんを説得してくれたらもしかしたら……って、あり得ないか。だって師匠だし。


「――くん。――しくん。弟子君!」


「は、はい!」


「もう。何ボーっとしてるのさ。行くよ」


 すでに師匠と少女はほうきにまたがっています。後は僕が用意するだけ。


「あ、す、すいません。ちょっと考え事しちゃってました」


「……弟子君。何か勘違いしてそうだから伝えておくけどさ」


「え?」


「私、ただ犯人を捕まえたかったってわけじゃないからね」

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