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第7話 骨は拾ってあげるからさ

「し、師匠。誰か来ましたよ」


 岩陰から湖を監視していた僕。その視線の先に現れたのは、一人の少女でした。


 年は僕よりも下でしょうか。ウェーブのかかったブラウンヘアー。身にまとうのはベージュ色のワンピース。ただ偶然そこを通りがかったとか、水を汲みに来たとかではなさそうです。だって、少女の手には魔法使いの必需品である杖が握られていたのですから。


「こ、これからどうします?」


「……うへへ」


「師匠?」


「むにゃむにゃ。すごい。甘いものたくさんだー。zzz」


「こんな時にうたた寝しないでください!」


 ちょっぴり力を込めて師匠の頭をチョップ。彼女の口から飛び出す「むぎゃ!」という声。効果は抜群のようです。


「うう。弟子君、起こし方が乱暴だよー」


「すいません。でも、今はそれどころじゃないんです」


「それどころじゃないって……ああ」


 思い出したかのように湖の方を覗き込む師匠。「意外と早かったねー。よかったよかった」なんてのんきなことを言いながら、うんうんと頷きます。


「今日中に来るっていうの、本当だったんですね」


「もちろん。魔法陣見た時言ったでしょ。毎日のように余分な魔法がかけられてるって。けど、今日はまだ魔法がかけられてなかったんだよ」


「なるほど、そういうことでしたか。さて、どうやって捕まえます?」


「あー。それに関しては考えてなかったや」


 僕たちがそんな会話をしていると、少女が湖に向かって杖を掲げました。次の瞬間、水面がグニャリと揺れ、少量の水が上昇。それは一か所に集まり、一つの形を成していきます。


「あれ、ハートかな?」


「ハートですね」


「おー。次はひし形になったよ」


「ひし形というよりダイヤじゃないですか?」


「そっか。あ、今度はクローバーだね。あの子、トランプ好きなのかなあ」


 次々と形を変えていく水の塊。おそらく少女が使用しているのは水を操る魔法でしょう。そういえば、師匠も言ってましたっけ。湖にかけられた魔法の中に水を操る魔法があるって。


「って、こんなことしてる場合じゃないですって!」


「おっといけない」


 一体僕たちは何をやっているのやら。少女をどうやって捕まえるかを早く考えないと。


「本当にどうします? 僕、囮になりましょうか? で、あの子の気を散らしてる間に師匠が後ろから捕まえるとか」


「……弟子君の口から真っ先に出てきたのが囮役って。もっと自分のこと大事にしないとだめだよ」


「はあ」


 大事にと言われましても。相手が少女とはいえ、実力は未知数。師匠より強いなんて可能性もあります。加えて、理由は分かりませんが湖の水に細工までしてたんですよ。捕まえようとしてどんな反撃を喰らうか分かったものじゃありません。


 ちょっとでも師匠が危ない目にあうとか。そんなの、絶対に絶対に嫌です。


 だって……。


「ふむ。それならこういう方法はどう?」


 そう前置きして、師匠は僕の肩に手を置きます。続けて告げられた言葉に、僕は耳を疑いました。


「弟子君が一人であの子の所に行って、『縄で縛る魔法』をかける。以上」


「…………」


「弟子君が一人であの子の所に行って、『縄で縛る魔法』をかける。以上」


「いや、聞こえなかったわけじゃないですから!」


 え?


 僕が一人で?


 え?




♦♦♦




「じ、じゃあ、行ってきます」


「緊張してるねー」


「あ、当たり前じゃないですか」


 震える体。滲む手汗。まさか僕一人で少女を捕まえることになるなんて。師匠曰く、「実践経験も重要だから」とのこと。


 一応、何か危ないことがあれば師匠がフォローしてくれるらしいですけど。


「頑張って。骨は拾ってあげるからさ」


 フォロー、してくれるよね?


「物騒なこと言わないでください」


 ここで死ぬなんてまっぴらごめんです。僕にはまだやり残したことがたくさんあるのですから。師匠に伝えてないことだってありますし。


「大丈夫。なんとかなるよ」


「その自信はどこから来るんですか?」


「さあ、どこだろうね」


 曖昧な答えとともに、師匠はニコリと微笑みます。自分の中の恐怖心がより一層強くなるのを感じました。


 とはいっても、少女の捕獲を引き受けたこともまた事実。これ以上あーだこーだ言ったところで何がどうなるものでもありません。いい加減覚悟を決めないとですね。


「…………よし」


 決意とともに、僕はローブの内ポケットから杖を取り出し、力強く握り締めました。続いて、あらかじめ傍に置いていたほうきにまたがり魔力を込めます。ゆっくりと浮上するほうき。向こうにいる少女がちょっとでも顔を横に向ければ、僕の姿は丸見え。幸いにして、彼女は湖に向かって魔法を使うのに必死なようでこちらには気づいていません。


 仕掛けるなら、今。


「師匠、ちゃんとフォローしてくださいよ」


 そう言い残し、ほうきを走らせる僕。勝負は一瞬。躊躇っている暇はありません。魔法が届く範囲まで近づいた僕は、持っていた杖を力いっぱい振るいました。


「えい!」


 僕が叫ぶと同時。杖の先から縄が現れ、少女の周りを取り囲みました。縄は、そのまま少女を締め上げていきます。


 よし。これで奇襲は成功し「ふえええええええ!?」

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