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第6話 すぐに病院に行かないと!

「この魔法陣はね、湖にかけられている魔法が、どんな構造でできているかを表してるんだよ」


「なんとまあ便利な」


「君がさっき言った『ぐちゃぐちゃ』っていうのは正しいよ。この湖には、さっき言った水を浄化する魔法以外に余分な魔法がいくつもかけられてる。水を操作する魔法や、水の色を変える魔法、氷を張る魔法なんてのもあるね。それ以外にもいろいろと」


「え」


 師匠の口から告げられたのは、とても簡単な魔法の数々。僕でさえすぐに唱えることができます。そんな魔法がどうして……。


「魔法陣の構造から見て、余分な魔法がかけられ出したのはつい最近のことだろうね。しかも毎日のように」


「えっと。つまりどういうことでしょう?」


「多分、もともとは水を浄化する魔法だけがかけられてた。でもつい最近、いろんな魔法が毎日かけられたせいで水質がおかしくなっていったんだと思う。まあ、おかしくなったって言っても些細なものだし、具体的な異物が混ざってるわけじゃないからね。一般の業者の水質調査では異常なしって結果になるだろうけど」


「でも、魔法薬の作成には影響を与えた、と」


「そそ。せっかくの水を浄化する魔法も、かけられた魔法を相殺する機能までは持ってないっぽいね。古い魔法だから仕方ないか」


 どうやら、湖の水に細工をされたのではという町長さんの予想は当たっていたようです。ですが、あまりにも方法が回りくどすぎでは? もし僕が水に細工をしろと命令されたら、水の中に直接異物を混ぜ込むという手っ取り早い手段を取るはず。毒、土砂、その辺のゴミ。思いつくものはいくらでもあります。簡単な魔法を毎日かけ続けるなんて、手間以外の何物でもありません。


「さて、弟子君。一つ提案なんだけど」


「提案?」


「一応、町長に依頼されたのは水質調査をするってとこまでだったけどさ。どうせなら犯人も捕まえちゃわない?」


 皆さんは、思考が止まる経験をしたことがあるでしょうか。僕にはあります。今、この瞬間です。


「…………」


「弟子君?」


 犯人を、捕まえる?


 それって要するに。


 自分から、仕事をするってことで。


 え?


 師匠が?


 え?


 えええ?


 ええええええ?


「おーい。弟子くーん」


「し、師匠! も、もしかして熱でもあるんですか!? は! ま、まさか脳に障害が!? す、すぐに病院に行かないと!」


「ちょちょちょ! 急にどうしちゃったのさ!」


「だって師匠ですよ! あのグータラで超が付くほどの面倒くさがりな人が自分から進んで仕事を!? 絶対あり得ません! きっと何かの病気で、痛!」


 叫ぶ僕の頭を、師匠は杖でペチンと叩きました。突然訪れた衝撃に、脳が冷静さを取り戻していきます。気がつくと、目の前には頬を膨らませる師匠の姿が。


「弟子君って、時々ものすごい毒吐くよね」


「え。あ。す、すいません」


 視線をそらしながら謝る僕。驚きすぎてベラベラと余計なことを言っちゃいました。反省。


「はあ。まあいいや。とにかく、犯人は私たちで捕まえる。分かった?」


「わ、分かりましたけど。本当にどうしたんですか? 師匠らしくないですよ」


 いつもの師匠であれば、水質調査が終わった段階で僕に帰ろうと提案していたはずです。「町長への報告? 明日でいいじゃん」という言葉つきで。それなのに、まさか自ら犯人捕獲をかって出るなんて。一体どんな心境の変化があったのでしょうか。仕事に目覚めてくれた……なんてことはないですよね。うん。


「私らしくない、ねえ。まあそうなんだけどさ。なんとなく、この犯人は私たちで捕まえた方がいい気がするんだよね。犯人のためにも」


「?」


 師匠が呟いたことの意味が分からず首をひねります。そんな僕をよそに、湖からスタスタと離れていく師匠。慌てて僕はその背中を追いました。


「師匠、どこ行くんです?」


「犯人を捕まえるには少し離れた所で張り込むのがいいかなと思ってね」


 五十メートルほど歩いたところで師匠は立ち止まりました。そして、手に持っていた杖を一振り。それに反応するかのように地面が揺れ、大きな岩が植物のように生えてきました。


「いい障害物もないし、ここで隠れて待ってようか」


 地面に座り、岩に背を預ける師匠。ローブが汚れるのを気にする様子はなし。僕は師匠の隣に腰かけ、その顔を覗き込みます。


「師匠。もしかして、ずっとここで張り込むつもりですか?」


「そうだけど?」


「……分かりました」


 師匠がどんな意図で犯人を捕まえようとしているのかは分かりません。そもそも、僕には犯人の検討すらついていないのです。加えて、その動機も。僕の頭の中は、たくさんのはてなマークで埋め尽くされていました。


「ふわあ。いい天気だね」


 僕の気持ちを知ってか知らずか。師匠は両手を空に向かって伸ばしながらあくびを一つ。緊張感の欠片もありません。傍目から見れば日向ぼっこをしているかのよう。


 張り込みって、こんなにのんびりしてるものでしたっけ? いや、そもそも張り込み自体初めてするんですけど。


「それにしても、どれくらいで来ますかね。犯人」


「どうだろう。まあ、今日中には来るんじゃない?」


「はあ……」


 楽観的なだけか、何か根拠があってのセリフか。僕がその答えを知るのは、張り込みを始めて一時間後のことでした。

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