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大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる  作者: takemot
第5章 大人で子供な師匠のことを
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第49話 よかっ、た

 訪れる静寂。「ふう」と息を吐く師匠。男性たちから解放されたであろうことは分かっているのに、いまだに僕の体は固まったまま。


「し、師匠。こ、この人たちは?」


 絞り出した声は、自分でも驚くほどか細いものでした。


「大丈夫。殺したりはしてないよ。睡眠魔法で眠ってもらっただけ」


「そう、ですか」


「まあ、起きるのは三日後くらいになると思うけど」


「三日後!?」


 相変わらず、とんでもないことをサラリとやっちゃいますね。


 師匠は、僕が座らされている椅子の前に立って杖を一振り。すると、手足を縛りつけていた縄がほどけ、自由に体を動かせるようになりました。


「あの……」


 ゆっくりと立ち上がる僕。誘拐に気づいた理由とか、どうして居場所が分かったのかとか、聞きたいことは山ほどあります。ただ、まずはちゃんとお礼を。


「ぼ、僕……」


 なかなか思うように動いてくれない口。なぜかって? 当り前じゃないですか。今回のことで、僕がどれだけ師匠に迷惑をかけてしまったのか。どれだけ心配させてしまったのか。想像するのが怖くなるほど。少なくとも、「ありがとうございます」なんてちんけな言葉で済ましていいものでないことは確かです。


 どうしよう。ここは伝家の宝刀、「お菓子を好きなだけプレゼント」を使うべき? って、違う違う。今はそういうふざけたことは考えちゃだめだ。


 えっと……。


 えっと…………。


 えっと………………。


「よ」


「え?」


「よかっ、た」


 中断する思考。一瞬、僕は自分の目を疑いました。ボロボロ、ボロボロと。師匠の目からは、大粒の涙が流れ落ちていたのです。


「師匠!?」


「よかった、よ」


「あ、あの」


「よがっだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「うええ!?」


 響き渡る師匠の泣き声。その姿はまるで、親を見つけて不安から解放された子供のよう。


「で、弟子君に、何かあったらって思ったら……私……私……うわあああああああああん!」


「お、落ち着いてください!」


「びやあああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


 氷のように冷たくて。淡々としていて。子供っぽさなど微塵もない大人の女性。そんな彼女はどこにもいません。完全のいつもの師匠です。


 って、何が「いつもの師匠」ですか。こんなに泣いてる師匠、見たことないですよ。どうやら僕の頭も相当に混乱してるみたいですね。無理もありません。今朝家を出てから今に至るまで、いろんなことがありすぎたのですから。


 と、とりあえず、一旦外に出た方がいいかな。それで、誰かに助けを求めて。あ。警察も呼んでもらわないと。


「ぬわあああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


「し、師匠。まずは泣き止んで…………は?」


 僕の目に映った光景。それが一体何なのか、すぐに理解ができませんでした。


 なんで。


 あの人が。


 そこにいるの?


「死ねやあああああああ!」


「え?」


「危ない!」


 師匠の背後。男性が、手に持っていたナイフを振り下ろします。幸運にも、僕がとっさに彼女の体を抱き寄せたことで、ナイフは空を切りました。


 魔法で眠ってたんじゃないの!?


 少々よろめきながらも、素早い動きで再度ナイフを構える男性。そのまま、ものすごい勢いでこちらに襲い掛かってきます。右目から血を流し、「うがあああ!」と叫び声を上げながら僕たちに殺意を向ける姿。それはもう、同じ人間であるとは思えませんでした。


 守らないと!


 師匠を、守らないと!


 僕は、無我夢中で手を伸ばします。


「来ないでください!」


 師匠の手にあった杖を掴み、男性に向けて構えます。瞬間、杖の先から真っ白な強い光が放たれました。


 ガツン!


 響き渡る衝撃音。間一髪、ナイフの刃を防ぐ透明な壁。


「な、何だ!?」


 研ぎ澄まされる意識の中、困惑する男性の声が聞こえました。


 僕が魔法で出したのは、ただの壁ではありません。『反射の魔法』が上乗せされた特別性。郵便屋さんのアドバイスを受けてからずっと練習してきた、師匠を守るための力。


 弾き飛ぶ男性の体。その行く先には背の高い棚。そこに彼が勢いよくぶつかったかと思うと、棚に並んでいた巨大な箱が彼の頭上に落下します。


「ぐへ!」


 奇妙な声とともに、男性はその場に力なく倒れました。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 漂う緊張感。不快なほどの激しい動悸。ハアハアと荒い師匠の息遣いが、すぐ近くで感じられます。


「う、動きませんね」


「そう、だね」


「も、もしかして、当たりどころが悪かったんでしょうか」


「かも」


 まじまじと倒れた男性を見つめる師匠。数秒後、彼女が「……ローブ」と呟くのが聞こえました。


「え?」


「この人の着てるローブ、不思議な感じがする。あんまり見たことないタイプっていうか」


「はあ」


「もしかして、私の魔法が防がれ……いや、違うか。すぐに襲ってこなかったってことは、魔法で攻撃された後に発動する仕掛けが……」


「って、そんなことより!」


 のんびり師匠の話を聞いている場合ではありません。

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