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第43話 シチュー作れる?

 男の子の肩には小さなポシェット。ポシェットの口からは、細長い赤色の草がちらりと顔をのぞかせていた。確かあれは、魔法薬の材料になる薬草だったはず。薬草を採りに迷いの森へ入ったはいいが、魔獣に出くわしてしまったというところだろう。


 っと、いけない。


 状況分析なんて後回し。このままでは彼が魔獣に襲われてしまう。


 私は魔法で杖を取り出し魔力を込める。すると、青白い光とともに杖の先から魔力の塊が発射された。それは銃弾にも負けないスピードで飛んでいき、大きな衝撃音とともに魔獣の体を遠くへ吹き飛ばした。


 ちょっと威力上げすぎちゃったかも。まあいっか。


「はあ。はあ。な、何が……え?」


 男の子が立ち止まり、後ろを振り向く。彼は、遠くで気絶している魔獣に目を丸くしたかと思うと、私の方へと顔を向けた。見た目からしてきっと年下。息は荒く、額には汗が光っている。


 さて。勢いで助けたはいいけど、この後はどうしたらいいのかな? 「大丈夫?」って聞くべき? それとも、「怪我はない?」とか? いや、いっそのこと、何も言わずに立ち去る方が。


 …………あ。


 その時、ふとある考えが頭をよぎる。突拍子もなくて。不思議で。どこか笑ってしまう。そんな考え。


 単なる気まぐれ? 好奇心? 理由なんて分からない。分からないけど、聞いてみたい。


「ねえ、君」


「は、はい」


 緊張の面持ちで返事をする彼。私は彼に警戒されないよう、優しい口調で問いかけた。


「シチュー作れる?」




♦♦♦




「……夢」


 ずいぶん懐かしい夢を見た。まさか、心の中に押しとどめていたはずの過去を思い出してしまうなんて。だが、不思議と嫌な気分ではない。最後の光景が、弟子君の姿だったからだろう。「シチュー作れる?」と私に聞かれた後の彼の顔といったら。


 ポカーンって感じだったよね。ふふ。


 ゆっくりとベッドから降りる。欠伸をしながら自室の扉を開け、リビングへ。


「弟子君、おはよう」


「おはようございます、師匠。といっても、もうすぐ十二時が来ちゃいますけど」


 呆れ顔の弟子君。この表情にもずいぶん慣れたものだ。


 彼が私の弟子になって一年が過ぎた。まさか、大人を目指していた私がこんなふうになってしまうなんて、あの頃の私は想像できただろうか。わがままで。面倒くさがりで。弟子君に頼りっぱなしで。見た目は大人なのに、やっていることは子供のよう。


 でも、そこに後悔はない。


 どんなにわがままでも、どんなに面倒くさがりでも、どんなに頼りっぱなしでも。弟子君が私の傍にいてくれることを知っているから。


 彼と、これからも一緒にいたい。ずっとずっと一緒にいたい。


 この気持ちに、私は何と名前を付けたらいいんだろう。


「とりあえずご飯作ってるので食べちゃってください。その後は、郵便屋さんが届けてくれた依頼の確認しましょうね」


 あ。


 弟子君の口から告げられた言葉に私の体がビクリと反応する。友人から告げられた事実が脳裏をよぎる。


『最近、この国に妙な連中がいるらしくてね』


 そうだ。今、私は誰かに追われている身なんだ。


 戦争の報復かもしれないと彼女は言っていた。やっと手に入れた居心地の良い生活。そこにピシリと亀裂が入る音。時間が経てば崩れてしまう、不穏な予感。


 ――あれ? どうかしましたか?


 ちゃんと伝えた方がいいよね。でも、心配はかけたくないし。


 ――師匠?


 私が襲われるならまだしも、弟子君に危険が及ぶなんて。


 そんなの。


 絶対に。


 嫌だ。


「師匠、本当にどうしたんです? もしかして、具合でも悪いとか?」


 はっと気がつく。どうやら考え事をしすぎたらしい。目の前には、不安げな表情を浮かべて私を見つめる弟子君。心臓に針を刺されたような痛みが私を襲う。


「……弟子君。あの、ね」


「は、はい」


 ちゃんと言わないと、なのに。


 少し考えた後、私はこう口にしていた。


「糖分が不足してる」


「へ?」


 あ。ポカーンってなってる。あの時と同じだ。


「だから、糖分が不足してるんだよ」


 誤魔化すなんて選択肢はきっと間違いだ。彼に危険が及ぶのが嫌だなんて思っていながら、その可能性を上げてしまっているのだから。


 それでも、私は……。


「ちょっと意味が分かりません」


「さっき見た夢でね、私、甘いもの食べ放題の世界にいたんだ。クッキーとかケーキとか、どれだけ食べても減らないの」


「それは幸せですね」


「まだまだ食べたかったのに、夢から覚めちゃったから。今この体は、糖分が大量に不足してるんだよ」


「はあ」


「というわけで弟子君。甘いものプリーズ!」


「いや、夢と現実をごっちゃにしないでくださいよ」


 そう言って、弟子君は小さくため息を吐く。それは呆れからか、それとも安心からか。いや、きっと両方が正解だ。


「お願いー」


「まずはちゃんとご飯食べてからです。その後ならいいですよ。ちょうど昨日の買い物でチョコレート買ってますし」


「やった!」


 さて、妙な連中とやらの対策を考えておかないと。私のためにも、弟子君のためにも。そういえば、あの子が持ってきた依頼の確認もしなきゃいけないんだっけ。うへえ。簡単なやつだといいなあ。


 大人で子供な私は、今日も弟子君に甘えるのだった。

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