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第36話 会いたくなるに決まってるじゃん!

 戦争は日に日に激化していく。教官が怒鳴る回数は以前よりもさらに増した。


 聞いた話では、私たちは一週間後に戦場へ送られるらしい。ついに活躍の場が、なんて期待を抱けたのは最初だけ。訓練中、食事中、睡眠前。毎日のように恐怖心が体を蝕む。経験したことない「死」が確実に迫って来る感覚。心の平穏を求め、私は魔法の実験に没頭した。


「えっと……ここをもっと……」


「あ、魔女ちゃん」


 突然、訓練場の扉が開き、一人の女の子が姿を現した。年は私と同じくらい。短く切りそろえられた黒髪。身にまとうのは、軍事施設にそぐわない可愛らしい青色のワンピース。


「また来たんだ」


「ニヒヒ。まあね」


 楽しげに笑う彼女は、軍のお偉いさんの一人娘。勝手に施設に忍び込んでは、怒られて追い出される。彼女曰く、「軍人さんはボクの憧れなんだよ!」らしい。女の子なのに、言っていることは男の子みたいだ。


「今日は何しに来たの?」


「いつもと一緒。軍人さんが訓練してるところを見物したくてね。あ。もちろん、魔女ちゃんに会いたかったからっていうのもあるけど」


「……前もそう言ってたよね。どうして、私にこだわるの?」


「そりゃ、魔女ちゃんはボクと同い年の女の子だしね。会いたくなるに決まってるじゃん!」


 目をキラキラと輝かせながらそう告げる彼女。その背後からも光が漏れだしているように見える。殺伐とした雰囲気の漂うこの施設の中で、彼女の存在は眩しくて仕方がない。


 なんか、私とは大違いだなあ。


「魔女ちゃん、魔女ちゃん。今は何の実験してるの?」


「え? ああ、今は杖を操る魔法を試してるところ」


「杖を操る?」


「うん。離れた所にある杖を手元に移動させるの。それができればいろいろ便利かなって。間違って杖を落としちゃってもわざわざ拾わなくていいし」


「ほえー。相変わらずすごいねえ」


 彼女は感心したように頷く。


「…………」


 不思議だ。私にとって重要なのは、周囲の大人に自分の力を認めさせること。だから、子供との関わりなんてそれほど必要ない。嫌われようが無視されようが平気なのもそのためだ。


「ねえねえ魔女ちゃん。杖を操る魔法、ボクにも見せてよ」


「いや、まだ試作段階だし。上手くできるかどうか」


「それでもいいからさー」


 けれど、どうしてだろう。彼女とは少しでも長く関わっていたい。


 初めて言われたな。「会いたくなるに決まってる」なんて。


 ちょっと、嬉しい、かも。


「ん? 魔女ちゃん、どしたの? ボーっとしちゃって」


「……別に」


 これが友人ってやつなんだろうな。




♦♦♦




 一週間はあっという間だった。私を含め、子供たちは皆戦場へ赴くこととなった。


 ドーン!


 ガラガラガラ!


 ぎゃあ!


 た、たすけ……う。


 血と煙の入り混じった匂い。耳をつんざく爆発音。敵なのか味方なのかも分からない呻き声。


 そして、見飽きるほどの死体の山。


 気を抜くことは死を意味する。敵の攻撃が何度頬をかすめたことか。心を落ち着かせたくて深呼吸をしようとしても、酷い砂ぼこりと煙のせいでそれもできない。怖くて、苦しくて。涙を流す暇もなくて。私は、ただひたすらに魔法を放ち続けた。


 ほうきで飛び回りながら魔力の塊を飛ばし、燃え盛る炎で地を焼き、敵から攻撃が飛んで来た時は壁を作ってそれを防ぐ。本当に、無我夢中。私の魔法で一体どれくらいの人が、なんて。考えるだけ無駄なんだと気がつくのにそれほど時間はかからなかった。


「クソが! なんだこの子供、グアア!」


 嫌だ。


「おい! こっちに厄介な、グフッ!」


 帰りたい。


「撤退! 撤退だ!」


 いつまで、こんなこと。


 戦場から生きて帰ると、また次の戦場に送られる。怪我があっても簡単な手当だけしてまた戦場へ。その繰り返し。何度も何度も戦場へ行き、その度にかろうじて生きて帰る。


 私と一緒に戦場へ送られた子供たち。その多くがいつの間にかいなくなっていた。戦場で殺されてしまったことは想像がつく。ただ、それ以外のことは分からない。どんな死に方をしたのだとか、誰に殺されたのだとか、詳しいことはさっぱりだ。本来であれば、仲間が亡くなったら悲しむものなんだろう。けれど、私にはそれができなかった。あまりにも心の余裕がなかったから。


「魔女ちゃん、お帰りなさい」


「ん」


「聞いたよ。今回もすごかったんだってね」


「ん」


「……魔女ちゃん?」


「ん」


「えっと。大丈夫?」


「ん」


「…………」


「ん?」


「ま、魔女ちゃんも疲れてるみたいだし、ボクそろそろ帰った方がいいかな。じゃあね。また来るよ」


「ん」


 私を気遣ってくれる友人の言葉にさえ、満足な返事ができない。


 あれ?


 なんか、大事なこと忘れてるような……。


 ああ、そっか。


 活躍しないと。


 大人以上に活躍して。


 早く大人にならないと。


 ……なんで?


 なんで、そんなことしないといけないの?


 何か、きっかけがあったんだっけ?


「おい。次の戦いに向けた作戦会議をするぞ。13時に会議室へ……きさま、聞いているのか!」


「あ、はい。すいません」


 私が大人になることを目指した理由。もっとたくさんシチューを食べたい。数年前に抱いたその健気な願いは、その後しばらく思い出されることはなかった。

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