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第24話 あま!

「二人とも、準備はいいかな? じゃあ、お菓子作り勝負開始!」


「やるからには勝利あるのみです。頑張るぞー」


 師匠の掛け声に合わせ、旅人さんは天井に向かって拳を突き上げました。


 バターや卵、砂糖などなど。キッチンに並べられたクッキーの材料。旅人さんは、慣れた手つきでバターを手に取りボウルの中へ。そして、同じボウルに砂糖を入れ、丁寧に混ぜ始めます。


「旅人さん。もしかして、料理得意なんですか? かなり手際がいいように見えるんですけど」


「はい。パ……師匠のお墨付きももらってるんですよ。旅に出る前から料理はいろいろと練習してました」


「そうなんですね。どこかの誰かさんとは大違いです」


 僕は、精一杯のジト目を師匠に向けます。僕と目が合った師匠は、気まずそうに視線をそらしました。


 果たして旅人さんはどう思うんでしょうね。師匠は全く料理ができないなんて知ったら。


「お弟子さん、どうかしました?」


「何でもないですよ。さて、僕も作り始めましょうかね」


 それにしても、どうして僕はこんなことをしているのでしょうか。先ほどはこの状況を受け入れるしかないと諦めていましたが、よくよく考えれば、別に断ったってよかったはずなのに。いつの間にか、師匠の思うがままに動いてしまっています。


 そういえば以前、郵便屋さんが、「弟子ちゃんは魔女ちゃんに甘すぎるよね」と言ってましたっけ。もう本当にその通りでございます。これも惚れた弱みってやつですよ。


 調理を進める僕と旅人さん。器具と器具のぶつかる音。漂う小麦の香り。リビングでは、椅子に座った師匠が、メトロノームのように体を揺らしながらクッキーの完成を待っていました。




♦♦♦




「できました!」


 調理が先に終わったのは旅人さん。お皿の上には、一口サイズの丸いクッキー。綺麗な薄黄色の見た目。ほのかな甘い香り。焦げていたりいびつだったりといったマイナス要素は微塵もありません。きっと、お店で買ってきたと言われても疑われることはないでしょう。


「ふむふむ。なかなかおいしそうだね」


「魔女さんのお口に合えばいいんですけど」


「じゃあさっそく。いただきまーす!」


 師匠は、お皿からクッキーを一枚取り口の中へ。サクッという優しい音。クッキーを咀嚼する彼女の表情は、とても幸せそう。


「ど、どうですか?」


「うん、美味しい」


 師匠の言葉に、旅人さんの口元がほころびます。


「よかったです。頑張って作った甲斐がありました」


「もう一枚もらってもいい?」


「どうぞどうぞ。あ、お弟子さんもよかったら」


「ありがとうございます。いただきますね」


 サクサク。


「おお。すごく美味しいですね、これ」


「やった!」


「しかも、甘さが控えめだから何枚でもいけそうです」


「もう少し甘く作ることもできるんですけどね。でもやっぱり、クッキーは甘すぎない方がいいと思いまして。そっちの方がパクパク食べられますし、カロリー的にも嬉しいですから」


 ふふんと胸を張る旅人さん。


「うーん。なるほど」


 まさか、カロリーのことまで考えているなんて思いませんでした。普段の僕はそこまで考えて料理をすることがありません。今後は参考にさせてもらいましょう。


「ねえねえ、もう一枚頂戴」


「はい。いくらでも食べてください」


 まあでも。


 この勝負、どうやら僕の勝ちのようですね。




♦♦♦




 旅人さんから遅れること数分。


「僕もできました。どうぞ」


 焼き上がったクッキーをお皿に載せ、テーブルへ。ちょっぴり焦げが付いているのはご愛嬌。とある焦げやすいものをふんだんに入れたせいで、火加減の調整が難しかったのです。


「待ってました!」


 キラリと光る師匠の目。次の瞬間、一枚のクッキーが彼女の口に吸い込まれます。


「お、美味しい! 弟子君、腕を上げたね!」


「どうもです」


 ふむ。やっぱり師匠にはこの味付けが最適だったようですね。


 師匠は、何の断りもなく二枚目のクッキーに手を伸ばします。そして、目にもとまらぬ速さでそれを口の中へ。


「うーん。うまうま」


「えっと。私ももらっていいですか?」


「たくさんありますからね。旅人さんもどうぞ」


「ありがとうございます。じゃあ……」


 旅人さんは、ゆっくりとクッキーを手に取り、サクッと一口。


「あま!」


 彼女の叫び声がリビングに響き渡りました。


「甘めに作りましたからねー」


「い、いやいやいや! これ、甘めどころじゃないですよ! あっまあまです! どれだけ砂糖入れたんですか!?」


 クッキーをまじまじと見つめながら、早口で告げる旅人さん。よほど味が意外だったのでしょう。って、これが一般的な反応ですよね。


「一応、普通に食べられるようにはしたつもりなんですが」


「そ、そりゃ、食べられないほどじゃないですし、なんならおいしいですけど。でも、これはあまりにも……」


「あはは」


 確かに、僕自身もこのクッキーは甘すぎると思っています。もし審査をするのが見ず知らずの人であったなら、僕もここまで甘いクッキーを作ろうとは思いません。ですが、今日の審査員は師匠。だから……。


「この勝負、弟子君の勝ち!」


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