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第23話 お菓子作り勝負?

「いや、そんな何回も言わなくていいから。って、し、勝負?」


「はい」


 師匠と勝負がしたい。旅人さんの突拍子もないお願いに、僕は耳を疑いました。師匠もまた、「どゆこと?」と首をかしげています。


「私、魔女としての力を高めるために旅をしてるんですけど。強い魔法使いや魔女を見つけたら、お願いして勝負してもらってるんです。やっぱり、実践の中で学べることって多いですから」


「おおう。なかなか積極的だね」


「昨日町に着いた後、『森の魔女』についての話を聞きまして。これは勝負してもらうしかないと思いました。魔法使いや魔女は世の中にたくさんいますけど、二つ名を持つほどの人ってなかなか会えませんし」


「な、なるほど」


 確かに、二つ名のある魔法使いや魔女は希少です。その名前自体は誰かが勝手につけたものですから、それを持っていれば何か特典があるというわけではありません。ですが、「この人には他者に認められるだけの力がある」と思わせるには十分。旅人さんが興味を示すのも納得です。


「旅に出る前、私のパパ……し、師匠も言ってました。二つ名のある魔法使いや魔女と会ったら、ストーカーまがいのことをしてでも勝負してもらえって」


 あれ? 今、パパって聞こえたような。あと、後半の発言がすごく過激じゃありませんでした?


「魔女さん、改めてお願いします。私と勝負してください。もちろんタダでとは言いません。あんまり多くは無理ですけど、謝礼もちゃんと払います。だからどうか」


 深々と頭を下げる旅人さん。あまりの真剣さに気圧されたのか、師匠が小さく上半身をのけぞらせます。


「う、うーん。事情は分かったけど。どうしよっかな」


 あ。師匠、面倒くさがってる。


 謝礼を払ってもらえるとはいえ、いきなりの申し出ですからね。それに、もともとはダラダラタイムの最中でもありましたし。師匠の性格的に断ってしまうはず。


 さて、旅人さんは素直に引き下がってくれるでしょうか。勝負に固執して、ストーカーになるとかはちょっと……。


 僕がそんな心配をしていると、師匠が「そうだ!」と言いながら手を叩きました。同時に彼女の口角がみるみる吊り上がり、三日月型になっていきます。ニンマリ。そんな擬音が聞こえてくるかのよう。


 おっと。嫌な予感が。


「よし、分かった。その勝負、受けてたつよ」


「ほ、本当ですか!? やった!」


「ただし、弟子君がね」


 予感的中!?




♦♦♦




「「お菓子作り勝負?」」


 僕と旅人さんの声が重なりました。


「そうだよ。二人でお菓子を作って、美味しかった方の勝ち」


「い、いやいや。な、なんですかそれ。私は、『森の魔女』であるあなたと魔法を使った勝負をしに来たんですよ」


 旅人さんは、噛みつかんばかりにテーブルの向かい側から身を乗り出しました。彼女の瑠璃色の瞳が、鋭く師匠を捉えます。ですが、師匠は落ち着いた様子。まあまあと彼女を制し、再び椅子に座らせました。


「あなたが言いたいことも分かる。でもね、これにはちゃんとした理由があるんだよ」


「理由?」


 師匠の言葉に、旅人さんは首を傾げます。


「あなた、さっき言ってたよね。魔女としての力を高めるために旅をしてるって」


「そうですけど。それとお菓子作りとは関係が……」


「いや、関係あるよ。魔女としての力っていうのは、いろんな魔法を使えるとか、魔力が多いとか、そういうことだけじゃだめなんだ」


「は、はあ」


「例えば私なんかは、新しい魔法を開発するために、頭の中で既存の魔法の組み合わせを何十通りも考えたりする。感覚としては料理に近いね。スパイスや具材の組み合わせを考えて、より美味しいものを作るイメージ」


「な、なるほど」


「要するに、おいしい料理を作れるっていうのは、強い魔女として必須の技術なんだよ」


 まるで学校の先生のように物知り顔で語る師匠。


 旅人さんは、「さ、参考になります」と言いながら頷きを繰り返していました。先ほどの納得しきれない表情はどこへやら。その瞳は、キラキラと輝きを放っています。


「…………」


 おかしいですね? 師匠は料理が苦手なはずなんですが。


 師匠と暮らし始めて一年。料理は毎日僕が作っているのですが、三度ほど師匠の料理を食べたことがあります。ですが、どれもひどいものばかり。一番記憶に残っているのはやっぱりあれですね。紫色の……シチュー?


「そういうわけでさ。あなたの力量を見るためにも、お菓子作り勝負してみない? 言っておくけど、弟子君はかなりの強者だよ」


「もちろんやらせていただきます。お弟子さん、負けませんよ」


「あ、はい」


 いつの間にか旅人さんも乗り気になっています。僕にはこの状況を受け入れる以外の選択肢は無いようです。


 まあ、師匠の思惑は分かっていますよ。勝負にかこつけて、自分のおやつを作らせるつもりなのでしょう。時間も丁度お昼過ぎ。甘いものが欲しい頃合いです。僕との勝負形式にしたのは、審査員として、自分が食べるおやつの量を増やしたかったからに違いありません。


「よーし。弟子君、材料を準備してもらってもいいかな。今私が食べ……ゲフンゲフン。勝負にピッタリなのは、やっぱりシンプルなクッキーだよね」


 はいはい。師匠はクッキーがご所望なんですね。


 さて、と。


 今日の晩御飯、師匠が大嫌いなピーマン料理に決定。


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