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第9話 やったげようか?

 役場の応接室。僕、師匠、町長さんは互いに向かい合っていました。ちなみに、一緒に連れてきた少女は別室で事情を聞かれている最中です。


 あの子、大丈夫かな? ちゃんと正直に話せてたらいいんだけど。


「魔女様、お弟子様。こんなに早く犯人が捕まるなんて、さすがとしか言いようがありません。本当にありがとうございます」


「いえ、お礼なんて。それより、あの子のことについてお話があるのですが」


「ほう。何でしょうか?」


 僕は、町長さんにこれまであったことを説明しました。


「――ということだったんです」


「なるほど。うーむ」


 神妙な面持ちで町長さんは頷きを繰り返します。


「確かになかなか難しい問題ですなあ。そもそも、湖の周辺で魔法を何度も使うという可能性を考えていなかった我々にも落ち度があると言えます」


「まあ普通は考えつかないですよね」


「しかしながら、処罰をしないというのもおかしい話。さて、どうしたものやら」


 ああ、やっぱりそうなるよね。


 脳裏によぎる少女の姿。こぼれる涙と震える肩、そして頼りない足取り。


「町長」


「はい。魔女様、いかがされましたか?」


「正直私としてはさ、あの子に対する罰は被害を受けた人たちへの謝罪だけでいいと思ってるんだよね」


 師匠が町長さんに提案した罰。それはどう考えても軽すぎるものでした。


「はあ。ですが、皆様は納得してくれるでしょうか?」


「納得してくれるんじゃない? 事情が事情なんだからさ」


「…………」


 眉間にしわを刻みながら唇をとがらせる町長さん。温和で有名な彼のことです。肯定したいのはやまやまでしょう。それができないもどかしさ。町をまとめる長としての責任感が、首を縦に振るのを拒んでいるように見えました。


「……ちなみに話は変わるけど。あの湖は誰が元に戻すの? 今のままじゃ、まだ魔法薬は作れないよね。戻すなら早い方がいいでしょ」


 ん? なんで急にそんな話を?


「た、確かにその通りですが。まだ具体的な計画は何も」「やったげようか?」


「「え?」」


「明日、いや、今日この後にでも」


「「ええ!?」」


 僕と町長さんの声が重なります。


 師匠、今日は本当にどうしたんですか!?


 叫び出しそうになった口を慌てて抑える僕。もう驚きすぎて目眩さえしてきました。


 犯人を捕まえる、町長さんを説得する、加えて、湖を元に戻す。今日の師匠が仕事熱心すぎて怖すぎます。いつものダラダラグデグデな彼女はどこへ? もしかして誰かに魔法で操られてるんじゃ?


 僕の顔は自然と師匠の方へ。とても真剣な表情。いや、そんな言葉で表すのは語弊があります。もっと、こう。鬼気迫る、みたいな。


「ま、まさか魔女様から申し出てくださるとは。ぜひお願いしたいです。正直なところ、お話を聞いた時から魔女様しか解決できないと思っておりましたので」


 町長さんは笑顔でそう告げました。


「いいよ。けど条件付き」


「条件、ですか?」


「そう。あの子に対する処罰は謝罪だけにすること。あと、あの子が他の人から差別されないようにすること。この二つさえ守ってくれたら、湖を元に戻してあげる」


 異常でした。明らかすぎるほど異常でした。師匠がここまで誰かに肩入れするなんて、僕が知る限り初めてです。しかも、依頼をしてきた側ではなく、依頼を引き受けた結果捕まえた少女を。もちろん、彼女がかわいそうだというのは分かります。ただ魔法の修行をしていただけで捕まるなんて、同情しない人の方が少ないでしょう。それにしたって、師匠の行動はあまりにも度が過ぎています。


「あ、あの、師匠。大丈夫ですか? 湖を元に戻すのにどれくらいの時間がかかるのか分かりませんけど、今からだと帰るのがすっごく遅い時間になっちゃいません?」


 今は夕暮れ時。窓からは、オレンジ色の光が差し込んでいます。作業量によっては、日をまたぐなんてことも覚悟しないといけません。


「そうだね。まあでも、これであの子のためになるならいいんじゃない? 弟子君には迷惑かけちゃうけど手伝ってほしいな」


「て、手伝うくらいはいくらでも。僕、師匠の弟子なんですから」


「ん、助かるよ」


 浮かんだ師匠の笑顔はどこか大人っぽくて。恥ずかしくなった僕は思わず視線をそらしてしまいました。


 子供っぽく笑う師匠もいいけど、これはこれで……あ、まずい。ドキドキしてきた。顔、赤くなってないかな?


「ふう。魔女様にここまで言わせてしまうとは。どうにも心が痛いですな。老人にはきついものです」


 冗談めかして告げる町長さん。眉間にあったしわはいつの間にか消え、普段となんら変わらない温和な表情がそこにありました。


「魔女様、お弟子様。湖のことはよろしくお願いします。少女についてはこちらでどうにかしてみましょう」


「町長、ありがとう」


「ありがとうございます、町長さん」


「いえいえ。新しく町にやってきた者を町に馴染めるようにする。それが町長としての使命でもありますので」


 コンコン。


 不意に、応接室の扉がノックされました。


「む、失礼。誰ですかな?」


 町長さんの言葉に応じるように開く扉。そこに立っていたのは二名。一人は役場の制服を着た女性。そしてもう一人は……。


「あ、あの」


 別室で事情を聞かれていた少女でした。

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