エピローグ
これにて完結です
私がオールトン侯爵を殴り飛ばしてから、およそ二ヶ月が経った。
意識を失ったまま連行されていった侯爵だけど、現実を受け入れられないのか未だに茫然自失状態らしい。ま、あれだけ金と時間をかけて失敗したんだからね。気持ちは分かる。
んで、侯爵と一緒に計画に携わってた連中も軒並みすでに逮捕済み。
いやー、早かったね。たいそう皇帝陛下も怒り狂ってたらしく、エイダが入手してた関係者情報をアルフがさらっと陛下に提供すると、即座に問答無用で連行アンド尋問ですべて白状したっぽい。
「で、だ。その捜査の中で彼らは動機を熱く語ったみたいでね」
長年不正・脱税を働いている貴族連中の名前もこぞってあげたらしく、ここでもアルフがコソッと資料をプレゼント。さすが、抜け目ないね。
貴族連中が何してようが、これまでまったくの無関心だった陛下だけど、さすがに今の状況で無視できなかったのか、あるいは帝国(自分)の金を好き勝手貴族たちに使われてるのが気に入らなかったのか、あらゆる家門の貴族に捜索が入ったってわけで。
「当然貴族たちの反発は激しかったけどね。でもこっちは証拠をつかんでるわけだし、向こうが不正を隠す前に陛下が近衛騎士を踏み込ませたんだ」
その結果、帝国はてんやわんやの大騒ぎ。大量の貴族たちが処分を受けて国政は完全に麻痺したけど、それでも二ヶ月でその混乱を収束させたのはさすが腐っても皇帝陛下。ま、普段仕事しないからこういう事態になったんでまったく評価できないけど。
「オールトン侯爵は結局どうなったの?」
「連行されたその日に陛下から死刑と家門取り潰しを申し渡されたんだけどね。侯爵領の住民たちから連日嘆願が届いて、死刑だけは免れたよ」
「思想はだいぶアレだったけど、少なくとも領民にとっては善政を敷いてたってこと?」
「厳しい土地柄を考えれば比較的豊かだし、だいぶ慕われてたみたいだ。本土から離れた孤島に生涯拘禁ってことで確定したよ。もっとも侯爵家の取り潰しは変わりないけど」
「なるほどね。それで――アルフが新たな領主になってここを出ていく、と」
すっかり空っぽになったアルフの部屋を見ながら、私は軽くため息をついた。
帝国の危機を防いだ名目で、アルフには陛下直々の称賛と大公の称号が与えられ、侯爵領を丸々引き継ぐことになった。実権も領地もない第三皇子に比べれば出世だけど……
「要は、体の良い追放ってことだよね?」
「まぁそうだろうね」
今回の事件でアルフも色々と皇城内で動いてたし、陛下にも諫言を重ねてたわけで。お酒とおねーちゃんで遊んでばっかの陛下にとって、真面目なアルフは目障りなんだろうね。
「だけど悪いことばかりじゃないさ。単なる第三皇子って立場に比べればできることは格段に増えるし、雲泥の差だよ」
「代わりにこの城は出てかなきゃだけどね」
ってわけで、せっせとお引越しをしているわけである。
最後の荷物を木箱に詰め終え、私たちは二人で庭園に向かった。
季節はすっかり冬に近づいて、色とりどりの花が咲き乱れてた庭園は物悲しい様相を呈してる。それでも雑草とかは無くって、低木の枝葉もきれいに刈り揃えられてた。
「この間の」ゆっくり歩きながらアルフが切り出した。「君が話してくれた魔王の話。いろいろと教えてほしいんだけど、大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう。じゃあ……魔王は、自分の魔法で願いを叶えられるんだったよね? 国を滅ぼしてしまった事をひどく後悔してるようだったけど、魔法で元に戻そうとはしなかったのかな?」
「……戻そうとはしたみたいだよ? ただ、魔法で叶えられる範疇を超えてたのか、それとも単純に魔力が足りなかったのか、無かったことにはできなかったみたい」
もっとも、本気で戻そうとも思えなかったのかもしれないけどね。あの魔法は結構深層心理に引っ張られるし。ま、古い話だし、今となってはもうどうだったかハッキリしない。
「そう……元に戻せたとしても、また同じように儀式の生贄にされるかもしれない。推測でしかないんだけど、魔王にもそう言う気持ちがあったのかもしれないね」
「それはそうかも」
「その魔王はあの後、どうなったんだい?」
「何十年も代替わりしてやってくる勇者に殺されかけながら復活を繰り返してたんだって。だけど勇者レオンハルトの時に、彼の紹介でこの国に住まうことを許されたらしいよ。以来、一般の人々の中に溶け込んで平和に暮らしてるとか」
「……その魔王は、特に悪いことをしたわけじゃなかったんだよね? 一方的に儀式の生贄にされたうえに悪の根源みたいな誤解もされて……復讐とか考えなかったんだろうか?」
んー、復讐よりも勇者から逃げて生き延びることに必死だった気がする。アイツら何処に逃げても見つけ出して殺そうとしてくるし、話なんて聞こうともしなかったからね。
それでもレオンハルトと一緒に過ごす時間は平和で、おかげで人間不信も和らいだ。当時はまだ帝国も新興国だったけど、皇帝たちもできた人間で結構気を遣ってもらったしね。
だからってわけじゃないけど。
「魔王ってヤツは、今もこの国は好きみたいだよ?」
皇族も貴族も腐ってはいるし、ヤーノックの時みたいに人間の醜さを見せられてうんざりすることもある。
けど失望はしても絶望はしない。栄枯盛衰は世の常だし、アルフみたいに今を良い方へ変えようとする人もいる。生きてれば悪いことはたくさん起きるけど、良いことだってそれなりに起きる。それを愛せれば人生そんなに悪くはない。
「そう……それを聞いて安心したよ。ところで、なんだけど」
アルフが明後日の方を見つつ頬を掻いた。なんだろ?
「前々から伝えてるように、僕は君に恋してるようなんだ」
「うん、そういうことになってるね」
帝国にはびこる悪事を調べるに当たって作った設定だっけ。牢屋から出してもらった時もミュージカルみたいなことしてアピールしたけど、それもずいぶん遠い日のことみたいに感じる。そんなに時間は経ってないはずなんだけどね。そんだけ濃厚な時間だったってことかな。で、その設定がどしたの?
「うん、まぁ、その……えーっとだね」
ハッキリしないねぇ。言いたいことがあるならちゃんと言いなよ。それともそんなに言いづらいこと……ははーん、分かった。
「事件は解決したけど、まだその設定を続けたいってことね」
確かに今回でアルフに圧を掛けてた連中は一掃されたけど、まだ完全に帝国の腐った部分が除去されたってわけじゃないだろうしね。大公となったことで、それはそれで妬ましく邪魔に思う連中もいるかもしれないし。
「そうした連中対策に、これからも私を側に置いてこき使いたいって魂胆でしょ。違う?」
って尋ねたらアルフは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「私は別に構わないけど……って、あれ? 違った?」
「ふぇっ!? い、いや、違わないよ! そう! それをお願いしようと思ってたんだ!」
呆けてたアルフが首をブンブンと縦に振った。だよね、それしか私も思いつかないし。
しっかし水臭いねー。遠慮なくお願いしてくれたっていいのに……って思ってたら、今度はアルフが頭を抱えてうずくまってた。今度はどったの?
「いや……なんでもないよ。ちょっと自分のヘタレっぷりに嫌気が差しただけだから」
そう言って立ち上がりながらアルフは「本当に良いの?」と念を押してきた。
「皇城を離れることになるし、下女仲間たちとも離れ離れになるけど……」
「別に今生の別れってわけでもないし」
リズベットだけは心配。今の調子のままだと、また侯爵みたいな人が出るかもしれないし。とはいえあの娘は強かさだから、やばそうになったらフッといなくなりそう。たまに皇都に来て様子を見るのがいいかな。あの娘からは「大っ嫌いよ!」って言われてるけど。
「それに皇城よりアルフの近くで働く方が楽しそう。だから大公領でちょっと待っててよ」
「それを聞いて安心したよ。ちなみに、実は君も本気で僕に恋してる、なんてことは――」
「ありません。ちょっと顔が良いからってうぬぼれんじゃないよ」
「ぐふぉっ!?」
ふざけたこと抜かすアルフにボディを一発軽くぶち込んでやると、悶絶して恨めしそうな顔を向けてくる。けど、すぐにどちらともなく笑い出した。うん、恋だなんだというよりもこうした悪友に近い関係の方が私たちには似合ってる。
風が少し強めに吹いた。庭園の木花がざわついて、アルフの髪が風に揺れた。
「風がもうだいぶ冷たい。僕はもう行くからリナルタも中に入ると良い」
ひとしきり笑ったせいで少し赤らんだ頬のまま、アルフは優しく微笑んだ。何気ないその顔を見た瞬間、私の中で小さくトクンと胸が跳ねた。
(え……?)
「それじゃ領地で待ってるから」
庭園から立ち去ってくアルフを、私は見送る。さっき感じた鼓動はいったい……
「はは。まさか、ね」
別に嫌じゃないけど、それこそ私もうぬぼれが過ぎる。
魔王が皇子に恋してるなんて、そんなこと――
完
お読み頂き、誠にありがとうございました!
本作はこれにて完結。短期の集中的な連載でしたが、お読みいただき誠にありがとうございました!
完結はしましたが、ぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ次回作への励みになります!
何卒宜しくお願い致します<(_ _)>




