17-7 我思う、我願う
「……何が違うのかね?」
「魔王が意図して滅ぼしたんじゃないんだよ。ちょうど今みたいに、魔王が生まれる時の大量の魔力がさ、魔王の刹那の気の迷いと結びついた結果、暴走しちゃったんだよね」
「暴走?」
「そ。その魔王って特殊な力を持ってたんだけど、それが魔王になる瞬間に暴発しちゃったの。そうして起きたのが――大爆発。王国のほぼ全土が灰燼に帰しちゃったってわけ」
魔王が気づいた時にはすでに遅し。何もかもが吹っ飛んじゃって、あの時儀式の場に集まってた王都中の人間のみならず、王国領のほとんどが跡形もなく消滅してた。
残ってたのは、ただひたすらに何も無い風景。たくさんの記憶が詰まったお城も土台すら残ってなくって、魔王は何もない荒野に一人残されて絶叫するしかなかった。
「リナルタ……それはつまり、今回も同じことが起きると?」
「可能性は高いかな。こんなにも膨大な魔力が渦巻いてるからね」
魔王誕生で消費しきれなかった魔力はただでさえ不安定な状態。その魔王みたいな特殊能力がなくっても、ちょっとしたきっかけで大暴走を起こすはず。
「でまかせを……! 魔力は自然と霧散していくもの! そのような嘘を口走ったところでもう止められんよ!」
「普通はそうなんだけどね。それがこの術式の意地が悪いところでさ。魔法陣を解読する時に、意味のわかんない無意味そうな術式なかった?」
侯爵に尋ねると、目に見えて動揺した。これは心当たりがあるって顔だね。
「それって術式を開発した性悪ジジィが、自分を利用するだけ利用したド阿呆の王様に向けた復讐用トラップなんだよね。魔王が生まれた後で、余った魔力に指向性を持たせて一箇所に集めるの。今回の量だと……少なく見積もっても皇都は吹っ飛ぶかな?」
新たに魔王となったアシル君と「死ねない」私を除いて、皇族も主要な貴族もみーんな死んじゃうから侯爵の目論見もぜんぶパー。めでたく帝国が滅亡ってわけだ。
それを聞いて侯爵は呆然とした。けれど、すぐに皮肉げに笑った。
「なるほどな……だが帝国は滅びぬよ。帝国の誇りを失わぬ限り、志を同じくするものが遠からず立て直す。その礎となれるのであれば、たとえこの身が滅びようとも本望である」
「狂ってるな……なんとか止める方法はないのか……?」
「ん? あるよ?」
私の言葉に二人共目を丸くした。とはいえ、できれば使いたくなかったんだけどさ。
懐に手を入れて黒いキューブを取り出し、それを床に置いて蓋を開けた。
「三百年前の魔王の話をもう少ししてあげる――何もない荒野に一人残された、魔王にされた少女はひどく嘆きました。少女は気づいたのです。自分が願ったから、国が滅びたのだと。愛してやまなかった人々が死んだのだと」
話しながら術式を空中に描いていく。シンプルで、だけど洗練された術式を。
「魔王は死のうとしました。けれど死ぬことすら許されない体となっていました。
死で償うこともできず、抜け殻となって生きました。
やがて勇者と呼ばれる人間が次々とやってきて一方的に糾弾し、殺そうとし、「死にたくない」と願う彼女を痛めつけるだけ痛めつけて満足そうに帰っていきました。
彼女は死ねませんでした。そうして長く生きて、彼女は自分の力にようやく気づいたのです。自らの――『魔法』に」
記録上、初めて生み出された魔王に与えられた能力。それは、魔力をエサに自らの願いを何でも叶えることができる奇跡。
「我思う、我願う――」
ただし必要な魔力は、起こす事象の難易度と私との「縁」の深さに比例する。だからこそ侯爵とたくさん話をして私との「繋がり」を深めておいた。これならこの場の魔力とキューブに蓄えた魔力を使って「奇跡」を起こせる。
私は自分の両手を重ね、祈った。
「この場の、すべての魔術的な事象が消え去ることを――!」
私を中心として広がった赤黒い光が、すべてを包み込む。光を浴びた兵士たちがバタバタと倒れていって、地面に描かれてた魔法陣は力を失ってくすんでいく。立ち上ってた黄金の光は消え失せて、そして空で磔刑にされてたアシルくんは地上に墜ちて倒れ伏した。
奇跡は起きた。
「ま、さか……そんな馬鹿な! 信じられん……こ、これまでの準備が、あと一歩で成就するはずだった我が願いが……」
「ぜーんぶ水泡に帰したってやつだね」
侯爵が射殺さんばかりに睨む。けど私を見た途端に戸惑いと恐怖に染まった。
「り、リナルタ。その姿は……?」
アルフも多大な戸惑いが混じった声で尋ねてきた。ああ、そっか。そういえば魔術的な効果が全部消えたから私に掛けられてた魔術も消えたんだった。
手のひらを見下ろせば、白かった私の肌は褐色にくすんでた。桃色だった髪は漆黒って表現が妥当なくらい真っ黒に。手を頭にやれば、禍々しい角が空に向かって伸びていた。
「ま、魔王……!?」
「そうだよ、かつてブランタジネット王国が滅んだ時に生まれた魔王。それこそが私」
しっかし久々にこの姿になったけど、気分は思ったより悪くない。体も枷が解かれてずいぶん軽いしね。当時の王国民が想像した魔王の姿がこれってぇのはセンスないけどさ。せめてもうちょっと強そうか、可愛い姿を想像してくれたら良かったのに。
「くっ……! 死ねぇっ!」
私が自分の姿をマジマジと観察してると、侯爵が私に向かって魔術を放とうと手をかざした。だけど詠唱は虚空に消えてくだけで、何一つ起こらなかった。
「なぜだっ……! なぜ何も起きんっ!」
「言ったでしょ? この場のすべての魔術的な事象が消え去るって。もうしばらくは誰も魔術を使えないよ。故に――」
私は地面を蹴った。倒れた兵士さんたちを飛び越え、侯爵との距離を一瞬でゼロにする。
そして。
「この場で頼れるのは――自分の拳だけ」
この事件を終わらせる一撃を、私は侯爵の顎にお見舞いした。
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